妖精飼育日記
灰湯
プロローグ
今日、ペットショップに行った。家から徒歩三分。とても近い店だ。そこで運命の出会いを果たした。
全長三十センチメートル。人型。
銀色の髪に、虹色に輝く星のような粉が掛かっている。瞳の色は夕焼け空と同じ。
背中には透明な羽がついている。翼ではない。羽なのだ。
体型はとてもいい。胸元は少し寂しいが、足が長いところは評価するべきだ。顔も小さくて全体的にバランスがとてもいい。
だが、値段を見ると七十万円もする。これはあまりにも高すぎる。よく見ると現在の値札は重ねて貼られたものであり、その下にもう一枚貼られているのが見えた。要するに値下げされてこの値段なのか。
この動物、種族名は妖精。こんな田舎で売っているのは、かなり珍しい。高いのも納得はできる。でも、買えるかと言われると、簡単に首を縦には振れない。
ケージの中に入れられた妖精は僕の顔をじっと見つめていた。ケージの柵を両手で掴んで、じっと見つめてくる。僕はその潤んだ瞳に見つめられて、何も言えなくなった。財布に手が伸びる。駄目だ。全財産使い切るつもりか。
迷った。迷って、考えて、悩んで、結局買った。
店員を呼んで、「これください」と言うことが恥ずかしく思った。顔を真っ赤にして視線を合わせずに言う。
妖精、しかも人型。普通なはずなのに恥ずかしく思うのは何故だろうか。
店員は僕の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んで、「畏まりました」と言った。七十万円もするのだ。店にとっては嬉しい限りだろう。
ケージごとレジに運ばれ数分間。店員が色々と説明してくれるも何一つ憶えられなくて慌ててスマホに打ち込む。
妖精はと言うと、僕の顔を相変わらず凝視している。その表情から何を思っているのかは読み取れなかった。
段ボール箱に入れられ、ケージが揺れないように新聞紙を詰めていく店員。必要だと言われた物諸々がレジを通って袋に詰められる。その度に金額が増えていき、僕は顔面蒼白になっていった。
うん、大丈夫。多分。僕はそこそこ大きな企業に努めているし、月に三十万以上給料は貰えるし、三十五歳までかなり貯金してきた。これだけ高額な買い物をしても、節約すれば十分生きていける。
会計を済ませると、店員が台車を持ってきてくれた。車までお運びしますと言われたが、徒歩なことを伝えると後日返却すれば貸してくれると言った。
僕は、「有難う御座います」と言い頭を下げて店を出る。台車を押しながら家を目指す。コンクリートの地面を進む度に台車激しく揺れ、その振動は押している両手までしっかりと伝わってきた。僕は中にいる妖精のことが心配になって家へと急いだ。
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