第9話 案外騙せた

 1人、また1人と試験を終わらせていく。


 しかし、誰の攻撃も決してガラハッドさんに届くことはなかった。あの身体強化時に出る無駄の少なさ、圧倒的な剣技、流石は騎士団長って感じ。


「いや~緊張するな、ラクス」


「うん、めちゃくちゃ緊張する」


 緊張しているという事実は同じでも、その質まで同じではないだろうけどね。


「次、ラクス・ハーミット」


 さあ、ついにこの時が来た。


「君は剣を使うんだね」


 ガラハッドさんが俺に話しかけるときのシャーロットさんによく似た好奇の表情を浮かべている。血は争えないね。


「始めっ!」


 教師の合図でこの戦闘はスタートした。


 体のところどころから光を放つ俺は腰の鞘から剣を抜き、スピードだけの隙だらけな踏み込みで接近した。


「はっ!」


「うおっ」


 剣同士ががぶつかった瞬間、俺は少しだけ剣を握る手の力を抜いた。なので当然打ち合った俺の剣は弾き飛ばされる。


 だが、ここで終わってしまえば試験の評価は最低レベル。だからもう少しだけ抵抗することにする。


 俺はガラハッドさんへ魔法で風を発生させ、試験終了の一撃を凌いだ。


「目に見えない風属性をこの歳でそこまで仕上げているのかい。君は将来有望だね」


 それを観戦していた待機中の生徒たちも少しざわざわしている。


 迂闊だった。ほとんど誰も風属性魔法を使わないのはそういう理由だったのか。


 ……たまたま風属性だけ才能が秀でていたってことにしとこ。


 その後は普通に剣で打ち負けて俺の試験は終了となった。


「剣の腕も悪くない。成長次第では魔導騎士団へのスカウトも検討させてもらおうかな」


「ありがたいお言葉です」


 特に向こうは俺のこと怪しんで無さそうだし上手く行ったっぽいね。


「次、アラン・ジークフリート」


「うおお、遂に俺の番か……」


「頑張れ~」


 俺はこの試験を乗り越えて新たに1つの学びを得た。


 疑いの目で物事をみていない人間は意外と簡単に騙されるのだと。


 アランは平均的な戦いをし、特別なこともなく終わった。


 後もう1つ、俺が意外だと思ったのは9番目に試験を受けていたシャーロットさんの戦いぶりが期待ほどのものでなかったこと。


 オルレアン家には優秀な兄がいるから家の名前に傷がつくことは無くとも、家では扱いの格差があったり、彼女自信も劣等感とか感じたりするのかな。


***


 今日のスケジュールは実技試験とちょっとした校内の案内だけで、午前中に放課を迎えた。


 今日は特に行きたい場所もなかったので新たにできた友人であるアランと2人で遼への帰路を歩んでいた。


「ラクスは風属性魔法が得意なんだな」


「まあね。昔から練習してたし」


「なんで風属性なんだ? 難しいし途中で嫌にならなかったのか?」


 しっかり目標を持っているとそういう困難も乗り越えられる。


 ちょうど今もやっている魔力操作の鍛練に比べれば楽だけど。


「魔導師になりたいっていう目標のためだから頑張れてるのかな」






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 00:02 予定は変更される可能性があります

魔法の才能ゼロだった俺、1日16時間の努力を8年続けたらいつの間にか最強になったので真の強者として暗躍したいと思います 冷凍ピザ @HyperMissing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ