第27話 ルミナス
「社長、成海胡桃の初ライブはいつにしましょうか」
「いつがいいだろうな」
3人がショッピングモールに行って数日後、仁は胡桃の所属事務所になったアイドル事務所で社長の九条と話していた。
「それにしても、桐生くんが我々の考えに賛同してくれて本当に嬉しいよ。盃でも交わそうか。いや、キミはまだ未成年だったね。ハハハッ」
「勘弁してくださいよ社長」
前にも聞いたつまらない皮肉を二度も言われたことに腹が立ち、仁は九条を殴り倒したくなったが、冷静を装い、愛想笑いをする。
「胡桃のライブは盛大に行いたい。どこか良いところはないかね」
「ええ、その件ですが」
仁は九条に説明する。
胡桃がアイドルオーディションに合格してから、正式に仁が九条のアイドル事務所の担当になった。
これで、胡桃の個人株出品による利益は仁のものになる。
「ショッピングモール?」
「ええ、それなら予算もかなり抑えられますし、大勢の人々に見てもらえるかと」
「ふむ。本当は大きなライブ会場でもおさえたいんだがな」
「まだ知名度のない胡桃です。ここはまず知ってもらうことから始めましょう。ちなみに、予算とそこから得られる利益はこのようになっております」
仁は九条に資料を見せる。
「悪くないな」
「では、こちらで決定ということでよろしいでしょうか」
「ああ、任せるよ」
九条は椅子にふんぞり返りながら、資料を見る。
「それで、衣装に関してですが」
仁は新たな資料を取り出す。
資料はかなりの量になっており、原稿用紙で100枚以上になっている。
「衣装のプロに相談し、私のできる限りを尽くしました。この中から決めていきましょう」
「いや、本気なのは嬉しいんだが、こんなに読めないよ俺」
「社長。胡桃は将来、この事務所の看板を背負うほどの人材です。天使、いや、胡桃のためには全力を尽くしましょう」
「今天使って言ったか? キミどれだけ胡桃のこと好きなんだ。いやまあ、それはいいことなんだが」
そこから100ページにも及ぶ資料の中からなんとか衣装を決定する。
「太陽をモチーフとした衣装か。良いな。ふぅ、もう深夜か……」
「やはり腕利きを用意して良かったです」
仁は眼鏡をくいと上げる。
「それと社長、ご相談したいことが――」
× ×
胡桃の初ライブ当日。
仁はライブ裏に来ていた。
「うぅ、緊張する~」
瑠美菜も裏で控え、緊張をしている。
「主役は胡桃だ。お前が緊張することはない」
「うぅ~」
瑠美菜がうなり、仁を睨む。
そんな中、胡桃は相変わらず太陽のような笑顔を振りまいていた。
「楽しみだね!」
「くるみちゃん、精一杯楽しんでおいで」
「うん!」
胡桃は満面の笑みを仁に向ける。
アイドル衣装を着ている胡桃はまさに天使だった。
オレンジを基調とした衣装でノースリーブのシャツを着ている。
その胸元には赤いリボンが付いている。
スカートはオレンジの元に透明素材のフリースが付いており、動くたびにゆらゆらと揺れる。
仁は感涙しそうになる。
ここまで来るのに大変だった。
最初に出逢ったころを思い出す。
戸惑いはしたものの、自分の前に天使が舞い降り、プロモーションビデオの撮影をした。
色々あったが、胡桃をアイドルとして正式な場に出せることを仁は誇らしく思えた。
これが父親の気持ちなのだろうか。
仁は涙を抑えながら、胡桃を見やる。
「……桐生くん、なんで泣いてるの?」
「いや、その、感慨深くてな」
「はぁ」
瑠美菜は呆れ、肩を落とす。
「それにしても、本当、お前が提案に乗るとはな」
「当たり前だよ。これがお母さんのために私ができることだもん」
仁は瑠美菜の姿を見て言う。
「悪くないぞ」
「そこは良いって言って」
瑠美菜は頬を膨らませる。
太陽と月。
両方があって、それぞれが輝いている。
それでいいんだ。
どちらかが欠けてしまっては、意味がないのだ。
ふたつがあってこそ、輝きは増す。
「行ってこい」
「うん」
「うん!」
瑠美菜と胡桃が大きく頷く。
仁はふたりの背中を優しく押す。
そして胡桃がステージに立つ。
そしてその隣には、月をモチーフにしたアイドル衣装を着る瑠美菜も立つ。
「みなさんこんにちは~!」
胡桃が大きな声で観衆に叫ぶ。
「こんにちは~!」
それに合わせて瑠美菜も叫ぶ。
「「私たち、ルミナスです!」」
ふたりは輝いた笑顔を振りまく。
そうだ。
それでいいんだ。
ーー夢を、輝かせるんだ。
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