あたまのなかのようせい

むかではみ

ようせい

ぼくの頭の中には妖精がいる。

精霊とか守護霊とかじゃなくて妖精。

頭の中の人生の設計図も、頭の中の大切な思い出も全部全部めちゃくちゃに引き裂いてくる頭の中の妖精がいる。


いつもは悪戯ばかりしてぼくの頭の中をめちゃくちゃにする。いつもはぼくの動きを止めて痛みの中から抜け出せないようにして嘲笑う。

でも今日は今日ばかりは頭の中から出てきてぼくにニヤリと笑う。

「今日はぼくのこと書くんでしょう。想像力のない君にはお手本があった方が書きやすいもんね。だからわざわざ出てきてあげたんだ」

今日ばかりは協力的だ。いつも通りに尊大だ。

ぼくの頭の中には妖精がいる。

コロボックルとか座敷わらしとかじゃなくて妖精。

頭の中の何もなくても休めという情けのない思いをぶち壊す。生きるのが嫌になったからとか浅い理由で死のうとするぼくを妖精が袖をつかんで止めてくる。

「君が生きるきっかけをつくってあげてるだけだよ。君はぼくがいないと生きられないもんね」

よく知ってるよ。


頭の中の妖精は少し緑で、手のひらサイズで、羽音がうるさい。小さな人形といった風貌だけど立派な人間より余程信用できる。トンボみたいな羽してるのに蚊のような音で飛ぶのが煩わしい。でも居てくれないとぼくは1人だ。


いつもは腹ペコだとぼくの思い出を食べて、いつもはぼくの心を軽くして。

でも今日は今日ばかりはぼくの頭の中には妖精がいない。目の前に出てきてしまっているから。ぼくの嫌な思い出が消えてくれない。心細い。

「やっとぼくの偉大さに気づいたの。でも大丈夫。それは今日だけさ」


ぼくの頭の中には妖精がいる。

友達とか家族じゃなくて妖精。

音と共に現れて音の中で消える。記憶の中には姿形も見えないけれど、ぼくの頭の中で飛び回ってる。静かな世界で揺蕩うぼくの妖精。

思い出を欠片も残さず食べて、ただの記憶にしてくれるぼくの妖精。

逃げることもせず戦うこともできず痛みに耐えるぼくの背中を押して痛々しい茨の中から抜け出す手伝いをしてくれるぼくの妖精。


今日は伝えてもないのに頭の中じゃなくてぼくの手のひらの上にいる。見本がないとできないことを知っているから。

小さいけど頼りになるやつだ。ぼくの妖精。

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あたまのなかのようせい むかではみ @honedachi

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