世、妖(あやかし)おらず ー小指引妖精ー
銀満ノ錦平
小指引妖精
「痛っ!また角に小指ぶつけちゃったよ…。」
私はここ最近、小指をぶつけてしまうことが多くなった。
箪笥は勿論、階段等の段差がある場所や椅子の脚にもぶつけてしまう。
足というのは親指から小指まで下がるような形をしている為か、小指の部分は見にくい事が多くあり、それでぶつけてしまうということが推測される…と私は思い込んでいる。
後は…足と物体の位置感覚が掴めない時にも起こり得るんだと想像できる。
ただ、私はそこまで位置感覚が悪いわけではないのに…ぶつけてしまう。
それによく考えれば小指という足と手のどの指より小さく太い為か、当たった時の痛さは他の指では味わえないものだと実感している。
だから…なんとかしたい。
しかし何とかって言っても小指に意識を集中させるしか方法がない。
親にもこんな馬鹿なことは話せない。
言われることなんか想像ついてる。
「あんたほんと不器用だからそれが足にも付いたんでしょ。」
なんて言われた日にはもうその日から反抗してやるなんて気持ちも高々になっている程だった。
ただ…ちょっと気になる部分があった。
なんか小指を引っ張られるような感覚に陥っている様で多少、不気味に感じられてはいたものの…気には止めてはいなかった。
おかしいと思える程、逆にそんなおかしい事が起こるわけがないと高を括ってしまう。
それが身の回りに起きることなら尚更だ。
よくそういう何時もと違うような現象や違和感が目の前で発生してしまうとそれがどんな不可解な出来事だったとしても、人はそうやすやすとそれが超常現象だ!…なんて信じるはずがない。
例えば部屋の外からUFOらしき物体がこちらを覗いていたとしても、私はきっと「ラジコン」や「海外の新しい乗物」などより現実的な方向に視野を向けてしまう。
本当にUFOが宇宙人の乗物ならば、そちらから出向いて挨拶の1つや2つ、最低でも顔を覗かせる位しなければ納得しない。
現実主義者というわけでもないがやはり、目の前でそういう摩訶不思議な物や者が出てきたとしても、私はきっと現実的な思考と視野でその事象の正体を導こうとしてしまうだろう。
今の心霊現象と呼ばれる類もそうである。
例えば、家にミシミシッ…と音がなる現象。
あれは要するに建物の器材が乾燥や重心のズレ等で起きるちゃんと説明できる現象であるが昔はあれを妖怪の仕業として伝承されていた節があったらしい。
確かに、いきなり自分の住まう場所から意味不明の物音が聞こえてしまったら何か得体のしれない存在が齎している現象ではないのかと不審がるのは仕方ない。
もし私がその時代にいたら同じ感想を持つと思う。
ただ、今はその原因が解明されている。
解明されているがたまにこれを心霊現象と謳う時がある。
別に心霊現象を否定や非難してるわけではない。
ただ例えば、その心霊屋敷と言われる場所で変な物音がしただけで恐怖し、そこに幽霊がいるなんて怯え戸惑う姿を見ると逆に笑ってしまう。
唯でさえ古い建物に何人も人が入れば建物に少なからず影響は出るわけで、その建物自体の劣化の影響で多少何時も以上に音が出たとしてもおかしくは無い。
それに、放置されてる建物であればきっと他の生き物等が住み着いてても不思議でもなんでもない。
人以外の生物にとってそこは大きい住処にしか変わりはない。
それが相まって生活区域以上の禍々しい音がでてしまってもなんも違和感もないし当たり前の自然現象である。
なのにそれを当たり前と思わせないのがきっと建物など人が作った物のオーラ…と言えばいいのだろうか…。
人の手で作ったという先入観がどうしても建物に人の意志を感じ取ってしまう…それが心霊、幽霊と思わざるおえない正体なんだと…そう感じ取っている。
しかし…要はエンタメでしかないのだ。
映像や写真の画質の影響でブレたり粗さが出ている箇所をあたかも顔と認識させ周囲に恐怖をかき立たせたり、ホコリやゴミ、水滴等に光の反射をオーブだの人魂の集合体だのと面白おかしく取り上げたりするから、私達は本当に幽霊や心霊というものを誤認させてしまう。
もしそんな周りに影響を与えてしまう程…五感に影響されてしまうほどの力を持っているなら、それはもう菅原道真や平清盛等の悪霊と同等になってしまいかねないんじゃないか…と思ってしまっている。
しかも昔の幽霊というのは対象は一人が基本で、複数被害が出てしまうレベルにいくとそれはもう悪霊とか厄神などになってしまい、祀らなければならなくなるのでもし、よく言われる一人の霊がこの建物に厄を及ぼしたなんて解説が入ったならば、それは祓うのではなく、祀らなきゃいけないのではと…私は考えてしまった。
それでも…大袈裟に現象を膨張的に言いふらし、エンタメとして見る人が楽しめれば…例え水滴の光だろうが老化した建物から発する乾燥音でも霊のせいにしてしまえばそれはもう幽霊の仕業なのである。
そういえば海外でもポルターガイストなんかも同じ類じゃないかと思い出した。
しかし日本とは違い、ベッドの下に吸われるかのように引っ張られたりスタンドがいきなり倒れたりと現象のスケールが違いすぎて逆に冷めてしまう場合もある。
そういう演出でもやはり喜ぶ人は喜ぶ。
変にじっとりとした微妙な現象をリアルと取るか派手であたかも私はいますよと目立たせているのがリアルなのか…どちらもリアルではあるが現実的ではない。
人の手で演出されていようが自然現象だろうが、結局はエンタメの力で盛り上がればそれでいいのだ。
だから…私は心霊番組を間違い探しの様な感覚で視聴してしまっている。
この現象はこれだろうな…あ、この霊媒師変なこと言ってるなぁ…等本来の番組の趣旨とは意に反する見方をしてしまっているからなんだかなあと感じつつも矢張り見てしまうのである。
そういえば、この前は妖精についての話題に触れていた。
昔、撮られた写真が偽造だと判明しただの何だの。
確かにその写真を見たら嘘丸わかりだが、とある有名な小説家はこの写真を本物だと援護していたらしい。
しかし妖精というものは幽霊とは違うものなのか…。
どちらも人には見えたり見えなかったりするとも言ってたし、いたずらなんかも幽霊が起こすポルターガイストみたいなものとも聴いた。
だけど妖精はなんというか…どちらかと言えば種族に近い言い回しをする人が多い。
確かに人が化けてるとかではないしそういう種族として描写されてたりしているのだからきっと人に近い別種と思えばよいのだと思う。
しかし…端から見て、それこそポルターガイストを妖精の仕業とすれば今まで恐怖の現象が可愛いいたずらになってしまう。
結局は意識の問題でもあるし文化の問題でもある。
山に住んでいた人を鬼や天狗や河童に例えられた様に…。
幽霊も妖精もそう見ると同じ様に見える。
だけど違う。
幽霊は人の意思のみが留まった体を成してるし、妖精は別に死んだものというわけではない。
じゃあ何かと言われれば…やはり生きている別の生命体と例えたほうが納得はできてしまうのである。
しかし…どちらも存在していないのである。
いるわけがない。
花に戯れる羽を生やしている女性の姿をした小人やとんがり帽子を被った小さいおじいさんなんて幻想にほかならない。
お岩さんのように恨めしい姿で目の前に出たり、自分の存在を意識させようとラップ音を立てる幽霊も幻想に過ぎない。
いないものはいないのだ。
もしいるのなら目の前に現れればいいし、隠れていたとしても誰かが目撃しているはずだ。
先ず何処までが幽霊の仕業で何処までが妖精のいたずらかの線引すらも我々は曖昧にしている。
森林に妖精が住むなら、それこそ現実の様に古い建物に住んでいてもおかしくない。
夜に人が肝試しに来れば、うるさいだ目障りだと音を立てて驚かせてくるかもしれない。
それが妖精の仕業だと疑っても良いはずなのに…人は幽霊の仕業だと断言してしまう。
エンタメ的には小さくて可愛い妖精のいたずらより怖く恐ろしく悍ましい幽霊の方が飛びついてしまう…これはもう遺伝子レベルで左右される感情だと認識してしまう。
そう思うと、今私の足の小指が何処かにいつも当たってしまうのも妖精の仕業と思えばなんてこと無い…訳が無い。
毎回毎回、痛い思いをするのは御免だ。
もしそういう癖ができてしまってるのなら治すしか無い。
ただ…やはり引っ掛かる。
変に引っ張られてる感触が拭えない。
一瞬…ほんと一瞬だけどグッと引っ張られたと思った後に箪笥の角とかテーブルの脚にぶつけてしまう。
足をみても別に滑りやすい様な皮膚にはなってない。
床等も見てみたけど別に滑りやすいと思われる箇所はない…あるかもしれないが最低でも私が小指をぶつける場所にはない。
なら…何か仕掛けてみるという方法が脳内を巡った。
カメラで撮る…やはりこれしかないだろう。
しかし撮るのは良いとしてもこれこそ端から見たら何してんだと言わざる終えない姿見になってしまうが…まあ好奇心には勝てないわけで…。
結局…片手にスマホをカメラモードにして、足部分を映しながらそのいつもぶつける場所に向かう事にした。
…そしてリビングに向かって例の箪笥を横切った瞬間…!
痛っ!!
例のごとく足の小指をぶつけた。
ぶつけたが…今回はスマホで撮っているので痛さよりも何が映ったかという好奇心のほうが勝った為に、すぐに部屋に戻って撮影した動画を見ることにした。
私は足を映している。
そして、例の箪笥に向かった瞬間…
小さい人影のようなものが小指に貼り付き、そのまま箪笥の角に引張っている様な光景が映されていた。
その人影は小指の大きさと同じ位で何故か大きいカブを取るかのように精一杯引いていた。
そしてその引っ張られた影響で足の小指が勝手に箪笥の角に向かっているかのようにぶつかっていった。
え?なにこれ?私は…現実的な思考を駆け巡るしかその時はできなかった。
え?何?人影?けど…箪笥の影とかじゃない…し誰かの影とかでもない…そもそもどう見ても小指の大きさの人影なんて存在するわけがない…。
幽霊…だけどそんな小指をぶつけさせるような幽霊がいるか?そもそもそんな話聞いたことがない…。
なら…宇宙人…なわけないし、未確認動物…でもあるまい。
もしかして…妖精?
だけど羽なんてついてなかったしとんがり帽子なんかも被っていなかった。
いたずらにしては意味がわからないし、それに…なにがしたいのかすら、それが生態なのかすら分からなかった。
もしかして幻覚?…と思ったがよく考えれば撮影している画面に映ってる以上、その場で起きた現象である事には変わりない。
私の目に映ったのではなくスマホのカメラに映ったものだから余計に…わからない。
わからないから…考えるしか無い。
親に言っても信じてくれるわけがない…。
私だって信じてない…この様に映されていても信じることが出来ない…。
現実と幻想が…今、あやふやになってる。
映像は現実…だけど私の思考は現実と見せかけた幻想事を招き入れてしまっている。
現実的思想が幻想になってしまっている。
いないものがいる証拠が私の手にあるのにそれを信じずに頭の中にある現実的思想が幻想的思想になってしまっている…。
ただ小指をぶつけてた原因を見つけ出そうとしただけなのに…私は…私は…
現実と幻想が…水と油だった筈の理想が…思想が…思考が…混じった。
それ程私は不器用な頭をしているのである。
世、妖(あやかし)おらず ー小指引妖精ー 銀満ノ錦平 @ginnmani
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