ダンスを踊る僕の妖精

この美のこ

🖼️

 薄いカーテン越しに春の光と小鳥のさえずりが心地よい朝。

う~んと背伸びをしてから起き上がるはや

弦楽器の弦がピンと張られたような緊張感。

その弦が紡ぐ響きが心を高揚させるような期待感。

それらが入り混じったような複雑な思いとなんだか嬉しい予感も感じる今日の朝の目覚めだった。

颯にとって夢の第一歩の個展を開催する初日である。



  * * *



 麗らかな光がギャラリーに差込み、温かいオレンジ色の輝きが白い壁を優しく照らしている。

偶然、SNSで個展の情報を知った茉莉まつりは、その個展主催者の名に驚く。

茉莉は逸る気持ちを抑えながら今日、このギャラリーにやって来た。

ここで個展を開いているのは、久城颯くしろはや

期待と少しの不安が入り混じる。


 壁に並ぶ颯の絵画は、見るもの全てを彼の心の世界に引き込むような魅力があった。

の作品の数々、鮮やかな色彩の中に懐かしい情景が描かれている。


 ふと、ある作品の前で足が止まる。

そこに描かれていたのは、 桜の花を背景に笑顔を浮かべた少女の絵だった。

胸が締め付けられるような感覚。

知らず知らずのうちに涙が溢れていた。

タイトルは『を踊る僕の妖精』




「…ま、茉莉ちゃん?」


 背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、そこには成長した颯が驚きと喜びを隠しきれない表情で立っていた。

洗練されたスーツを着ているものの、優しい目と穏やかな雰囲気はあの頃と変わらない。


「あっ!…颯くん?……来ちゃった!」


茉莉は慌てて手で涙をぬぐうと照れ笑いしながら言った。

十年のブランクが一瞬にして埋まる。


 颯も照れながら絵を指差して


「この絵は茉莉ちゃんの事を思って描いた。12歳の頃、一緒に過ごした時間が僕にとってどれだけ大切だったか」


茉莉の胸にじんわりとした温かさが広がる。


「僕、ずっと茉莉ちゃんの事、探してたんだ。この個展を開いたらもしかしたら茉莉ちゃん気づいてくれないかなって思ったんだ」


「私も颯くんの事、いつも思ってた。言ったでしょ!忘れないって!会いに行くって!だから、颯くんの個展を知って…」


「ごめん、僕から会いに行かなくて」


「ソフトクリーム買ってくれたら許す!」




あの9回の夢が二人を会わせてくれた、颯は今そう確信していた。




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