第45話 雑貨屋の中で


 

 さっくり誘拐されてしまった僕は、とりあえず手足に縄、叫ばないように口を塞がれて雑貨店の床に転がされています。

 

 ギルドというのがそもそもここみたい。

 表向きが雑貨屋さんで、冒険者たちが持ち帰ってくる「品物」をあちこちに売り捌いたり……ということだった。

 

 

 銀髪ならあいつがいる。

 兄弟ってことにしてセットならどうだ、と早くも僕を売り飛ばす算段が始まっている。

 

 まーちょっと散歩に、くらいの軽さで出てきたからもしかして『帰ってこないな』にならないと気が付かれない可能性あるのかも……。

 ってことは、このまま売り飛ばされて……最悪の場合……ってのも……?

 

 

 あっ学校!

 僕学校に行かなきゃいけないんです!

 

 

 あなた方の仲間にはなりたくないけど、将来、同業者にはなるかも知れないからちょっとお話聞きたかっただけなんですけど!

 

 あまり暴れられる格好ではないんだけどとりあえず逃げられないかな、ともごもご縄と格闘していたら。

 

 あいつも確か貴族のお坊ちゃんのはずだ、みたいな話が聞こえて息を詰めて動きを止める。

 

 銀髪で……貴族……。

 それからうちの領地にも何度も現れる冒険者こと人攫い。

 

 

 ええー……っと、もしかしてその銀髪で貴族の子って『男爵家のお子さん』だったりしない………?

 銀髪になるほど魔力が多いということは、確かも何もほぼ間違いなく貴族の子。

 僕の知る限りで人攫いに貴族の子が……っていうのはこの前聞いたばかりの話とつい繋げて考えてしまうんだけど。

 

 

 

 いるんだよなーーーーーぁ。攻略対象キャラに銀髪の魔法使いがァーーーーー!

 

 

 つまりほっといてもその子は将来なんとかかんとかやって魔導宮殿の大魔導士になる。

 

 

 のだけど、攫われた子なら助けてあげたいなー!!!

 僕も攫われてる真っ最中なんだから何様なんだけどー!

 でも、五年経ってるって言われていたから違う子の可能性の方が高いか……。

 でもまあ助けたいことに変わりはないよね。

 

 いくら僕が五歳でも、俺は二九歳である。

 幼い子たちが攫われている。さらに殺されてはいないっぽい情報は今聞こえてきた。

 

 少なくともこの人たちは売り飛ばすだけのようだ。

 なら男爵家の子も生きている可能性がある。

 えーっと、えーっと。

 習った領地の中に領地を持つ家の名前を必死に頭から引っ張り出す。

 

 あの地域が確か男爵領だから……テ……テベルス!

 テベルス男爵だ!

 そこの子かもしれない!

 

 

 あーーー、でも作中であの子苗字なかったんだよなー。

 なんやかんや自力で脱出して領地には戻らない、ってことなのかなー。

 それともやっぱり別人かなー。

 

 

 ぐるぐる考えながら、もう一度モゾモゾと縄の感触を確かめる。

 うん、自力で解くのは無理そう!

 

 

 

「おい、ガキ運んどけ。次に出さなきゃ半年後だぞ」

「早すぎないか」

「アルセンの子だぞ、いつまでも手元においとけるか」

 

 ……出す?

 何に……人身売買……!?

 

 いわゆる闇オークション!?

 

 わ……わー! ヤバくなってきたかも!

 そろそろ護衛が助けに来てくれたりしてもいいはずなのにな!!

 もう僕がここに転がされて三十分は経ってると思うんだけど!

 

 

 ぎぎぎ……と音がして、横目でそちらを窺えば、何やら商品の陳列された棚を押しやっている。

 

 

 こ、これは隠し通路!

 エッ、コレもしかして、僕ここから外に出るんじゃなくて……地下からどこかに運ばれる……の……?

 

 

 だ、誰かー!!! 早く突入してー!!

 僕ここから運び出されてしまいますよー!!

 

 

 ヒョイと袋に放り込まれて、大変に苦しい体勢でどこかへ運び出される。

 いや、く、くび……折れ……そう!!

 

 十分ほども歩いただろうか、

 頭陀袋の中でゆらゆらと吊るされていただけではあるんだけど。

 なんとかかんとかお尻が下になるように必死にもがいていたことに心から感謝する瞬間が訪れる。

 

 乱暴に床に投げ出された。

 これ、首が下のままだったらここで死んでたかもしれないやつ!!!

 

 ほ、僕売られるんじゃなかったの!?

 大事な商品になんてことしてるんだよ!

 もっと大事に扱って欲しい……。

 

 ま、そんなこと考える人が人身売買なんてしないよねぇ。

 人を商品として扱うんだから人だと思ってないんだよねぇ。

 

 

 袋の中で思わず遠くを見つめてしまう。

 

 ゴゴゴ、と何か重たいものを動かす音、扉の掛け金を外す音などがほんの僅かに聞こえてくる。

 

 どこか……別の建物の中?

 

「おい、行けるか」

「なんだよ、追加か」

「もういっぱいだ。次にしろ」

「なんか別のを次に回せ。それからあいつも呼べ。あの銀髪。アレとセットで出す」

「なんだ、手放すのか? 魔法の使える犬っころ」

「さっさと手放さねーと足がついたらひとたまりもない」

 

 不意に、怒気をはらんだ低い声が割って入る。

「テメェら…………何盗ってきやがった」

「あ? ……アルセン侯爵家のガキだ」

 ガタンと椅子か何かが動いた音。

「……この荷限りで俺はお前らと手を切る。餞に今回の荷だけは運んでやるが、もう一切の取引は無しだ」

「なんだと!?」

「そんな危ないところからの荷なんか運んでられるか!」

 何かを投げつけたらしい騒音に思わず肩をすくめた。

「ガキ一人には変わりないだろうが!」

「外を見てからものを言え!! 侯爵家の騎士に街警が店を取り囲んでる! あの中を素通りできると思ってるならお前らで運べ!」

 

 ギャアギャアと怒鳴り合う声。

 その中、僕はどこかに引きずられていく。

 

 

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