星を見つめて

 あれから数年が経過した。


 アイドルを引退した後、由紀は文筆業に専念している。コミカライズも新しい小説の企画もうまくいき、今やすっかり人気小説家の仲間入りだ。他にもゲームのシナリオライターや漫画の原作者をやったり、教員免許を取ったりもしている。結婚もしていて、ついに駅遠のボロアパートを脱出し、今は武蔵小山から徒歩五分のマンションに住んでいる。不登校の子供に初等教育を行う非営利団体を立ち上げるから会社を辞めてジョインしろと誘われたが、給料が安すぎるので断った。


 予想通り僕はTVS JapanでITコンサルタントとしてのキャリアを歩み続け、部長に昇進した塩崎さんの後釜としてグループ長の椅子に座っている。周りから陰で「多少人情が残ってる塩崎」なんて呼ばれたりもしている。


 相変わらず余暇には小説を書いている。恋愛を描写するために、理解もできない恋愛小説を読みまくったり、他人に恋愛エピソードをインタビューしまくったり、セフレを作って童貞を卒業したりもした。でも、成果はからっきし。相変わらず僕には恋愛がわからないままだ。


 変わったことと言えば、僕は今「Stargather」という純文学専門のWeb小説サイトを運営している。流行を完全に無視したサイトなのでカケヨメのような大手に比べると流入者ははるかに少ない。でも、なぜか「Stargatherじゃないと作品を公開したくない」というよくわからないヘビーユーザーはいるし、ここで公開している僕の作品にはコアなファンがいる。


 僕の人生は大きく変わっていない。走り続ける由紀の背中は相変わらず星のように遠いままだ。でも、一昔前に抱えていた虚無感はもうただの記憶となっている。無暗に由紀の生きざまにあこがれたりもしていない。


 結局僕は、情熱とか、やりたいこととか、そういうものが無くても生きられる人間だったわけだ。僕に必要だったのは漠然とした虚無感を小説に吐き出し、誰かに読んでもらうことくらい。もう不要なものの欠乏に怯えてはいない。松本真一はそれで満たされているから。

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星を見つめて 吾輩はもぐらである @supermogura

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