解散ライブ
池袋の某ライブハウス。僕は三年前にTVS Japanを辞めた元後輩でライブ狂の田代君と一緒に、絶体絶命限界女子会の解散ライブを観に来ていた。
「ありがとー!!」
全てのパフォーマンスを終えたメンバーたちがオーディエンスに笑顔で手を振っている。絶体絶命限界女子会は無名のアイドルだけど、コアなファンはついているみたいで、小さなライブハウスはほぼ満員、大盛り上がりだ。
「タッシーどうやった?」
「ダンスとトークは良かったっす」
「曲は?」
「うーん、微妙。松本さんは?」
「僕も同じ意見や」
僕は普段UKロックとクラシックしか聞かないし、アイドルなんてこれっぽっちも興味が無い。今日は珍しく由紀に誘われたから来ただけで、アイドルの歌が僕の耳にあうなんて最初から期待していなかった。
絶体絶命限界女子のメンバーたちが一人ずつ、最後のメッセージを観客に送る。観客の半分近くは涙を流していた。最後は由紀だ。
「えーっ、絶体絶命限界女子会が武道館に行けなかったのも、なんちゃらフォーティーエイトみたいなのを駆逐できなかったのも、全てはウチの力不足です! みんなゴメン!」
観客が「由紀ーっ!」と野太い歓声を送る。
「たったの七年間だけど、景子と、マルゴーと、アンタらのお陰で、ウチらが出したいものは全部出せました! 本当に、本当に、ホンマにみんなありがとう! ウチは世界一の幸せ
由紀はそう叫ぶと号泣し始め、ついに舞台に座り込む。景子とマルゴーが駆け寄り、三人で円陣を組むかのように抱き合う。ライブハウスは「
「初めてみたグループですけど熱いですね、松本さん!」
「……せやな」
その日の夜、またパソコンを開いて小説を書いていた。
「……」
いつもより執筆の進みが悪い。理由はわかってる。由紀の姿が思い浮かんでどうしようもないんだ。
由紀のパフォーマンスは僕の好みとはかけ離れていたし、多分絶体絶命限界女子会よりパフォーマンスが優れてるグループなんて、無名アイドルに限定しても数えきれないほどあるんだろう。
でも、田代君が言う通りだ。絶体絶命限界女子会は、いや、由紀は間違いなく熱かった。途方もない熱量を放ち、ライブハウスに集まった人たちを熱狂させていた。由紀を処女作でいきなりベストセラー作家にまで押し上げた、由紀が積み上げてきた無形の底力を、僕は確かに垣間見た気がした。
僕の中で一つの決意が固まるのが自分でもわかった。視界を塞ぐ熱い涙を拭い去り、由紀の背中を追うように、僕はキーボードを叩き続けた––
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