第2話 憧れの人の顔に近づきすぎたかも  


 水田R**美ちゃんのファンは当然多い。私はSNSで水田R**美ちゃんの情報を常にチェックしていた。彼女の最新情報が中心だった。

 

 そんなある日、私の住む街でテレビドラマの撮影が行われるという。そのドラマになんと水田R**美ちゃんも出演するらしい。


 ――水田R**美ちゃんがこの街にくる。


 一目見たいと思った。

 昼間の撮影は見学などは出来なかった。

 ただ、私は地元民として水田R**美ちゃんが泊まりそうなホテルを推測した。連泊するだろうけどあまりにも値段の高いホテルには泊まらないだろう、と。近年、ドラマの製作費は減少傾向になっていると聞いたからだ。


 私はとあるホテルに目星を付けてそこに夜に出かけてみることにした。


 

*** 



 水田R**美ちゃんが撮影で泊まるだろうと勝手に推測したホテルに到着した。

 ロビーに入っても彼女がいるわけでもない。そもそも泊まると確証のあるホテルでもないのだ。

 マスク姿の私はホテルのロビーに足を踏み入れた。マスクをして顔の一部を隠すとますます彼女に似ている。

 ホテルのトイレに入った時に、洗面台の鏡に映った自分の姿を見た。我ながら水田R**美ちゃんにそっくりだ。

 いつもはそんな光景に満足して嬉しいと思っていたけれど、なぜか今夜は違った。


 ――私はここで何をしているんだろう。


 一目会いたいと思ってここに足を運んだけれど、何か挨拶でもするつもりだったのか、何か言うつもりだったのか。こっそりと隠れて見るだけならばストーカーか、いや違うのか。


  ――ストーカー? 


 ちょっと、待って。

 私はここで初めて我に返った。

 今回は行き過ぎた行動だったかもしれない。女同士とはいえ彼女の立場からしたらドン引きだろう。

 男性タレントに憧れる女子が出待ちするような感覚かもしれない。けれど私の場合は憧れがエスカレートして顔まで近づけている分――変にこじらせているのでは。


 私は純粋なファンだ。彼女に気持ち悪がられたくない。

 

 私は初めて自覚したのだ。

 ホテルに押しかけるなんて彼女の立場からしたら迷惑以外のなにものでもない。


――帰ろう。


 誰にも言わずに来たのがよかった。SNSでも今日の私の行動は呟いていない。私は急いでエントランスを飛び出した。



 ホテルから最寄り駅までは距離がある。

 大通りを歩けば遠回りになるので一旦、住宅街を入ろうとした。


 

 ――その時、

 歩いている私の真横に急に黒いワゴン車が近づいてきた。

 あれ、と思った瞬間、ワゴン車の扉がすっと開き、私の体はアスファルトの地面から浮かび上がりあっという間に車の中に引きずり込まれた。


 車は急発進した。

 

 何が起こったか分からない。慌てて車の中を見ると男が何人かいた。顔のすぐ横に刃物の様なものが見えた。私のマスクは直ぐに外された。

 

 「間違いない。水田R**美だ」

 

 男の一人がそう言う。

 私は全身が硬直して恐怖で声すら出ない


 「静かにしろよ」 

 「水田R**美を捕まえた。連絡入れろ」


 何が起こってるかわからなかった。


 「一人で歩いているとは思わなかった」

 「こいつのせいで大損した奴が大勢いるんだ」

 

 頬のすぐ横にナイフのようなものが当てられているので顔を動かすことできないけれど車の中には運転手と他に2人、合計3人の男がいた。



 「い、嫌っ」

 「俺達はもう後がないんだ、お前が一番良く知ってるだろ?」

 「お前のせいで人生めちゃくちゃになったからな」



 水田R**美ちゃんと間違えられているんだ。それだけは分かった。

 

 ああ、そういえば一時期、彼女に投資詐欺の容疑がかかっていたことがあった。反社会的な組織との密なやり取りがあったとも報道されたけれどすぐにその噂は消えた。代わりに何か大きなニュースが出て世間の関心はそちらに向かった。

 

 私はもとから彼女の悪いニュースは信じていなかったけれど。

 私の憧れた人は真実はどうだったんだろうか。

 

 周りの友人の言葉を思い出した。美容整形はやりすぎだと。ほどほどにしておけと。忠告を聞いておけば良かったのだろうか。

 


 ――そして私はどうなるんだろう。



 了

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美容整形で憧れの芸能人の顔に近づけるのはやめましょう。 山野小雪 @touri2005

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