好きな人がSランクパーティから追放されたので、私もSランクパーティをやめて好きな人に着いていくことにした

皇冃皐月

プロローグ

 「ヴェロニカ・ゼーレ。お前をこのパーティから追放する」


 Sランク冒険者パーティに所属している私たちは今、拠点でミーティングをしていた。そんな中、突如言い渡された解雇宣告。


 「え、なんで!?」


 机をバンっと叩き威嚇する。


 「いらないからだ」

 「その理由を聞いてんの。なんでいらないのって」


 納得できない私はリーダーを問い詰める。リーダーは顔を顰め、チッとわざとらしく舌打ちをして目を逸らす。


 「ウチのパーティに回復職はいらないからだ」


 解雇宣告を受けたヴェロニカ・ゼーレへ目線を向ける。リーダーも。周りにいるパーティメンバーも。


 「いらないって正気?」

 「ああ、だって俺ら怪我しないし。結成してからSランク冒険者に成り上がって、今の今まで。コイツ、ヴェロニカの力使ったか?」

 「そ、それは……」


 なにも言えなかった。それはリーダーの言う通りだったからだ。今までヴェロニカが居たから助かった。そういう盤面はなかった。


 「だってのに報酬は山分け。おかしいだろ? 俺たちは命を張ってんだぜ。いつ死ぬかわからない中で戦って金稼いでるってのに。コイツは呑気に着いてくるだけでお金貰える。どうかしてんだろ」

 「安全をお金で買ってるんじゃ……」

 「そんなもんポーションで良いんだよ」


 面倒くさそうに頭を搔く。


 「とにかく、だ。これは俺らの決定事項。ヴェロニカを除く五人中三人が既に追放を承諾してる。多数決で既に決まってんだよ。ここでカミリアがなにか言ったってこの結果が覆ることはない」

 「カミリアちゃん、もういいよ」


 立ち上がったヴェロニカはニコッと微笑む。本当に気にしていないような優しい笑顔。その優しさが混ざっているのが一周まわって怖いって思える。白銀の長い髪の毛をゆらっと揺らし、荷物を持つ。


 「このパーティメンバーは皆強いからね。私が居なくてもきっと死ぬことはないんだろうなって思う。私のことをいらない。不要だ。そう判断するのなら、私は素直にその決定に従うよ」


 驚くほどすんなりと受け入れる。

 このままじゃ本当に居なくなっちゃうよ、そう思って、慌てて、心が執拗にザワザワしているのはどうやら私だけのようで、リーダー含めたパーティメンバーもヴェロニカもどちらも飄々としている。


 「決定だな」

 「……」


 リーダーの言葉に誰もなにも反応しない。


 「今を持ってヴェロニカ、お前はウチのメンバーじゃなくなった。よってここにいる権利はない。今すぐに立ち去れ」

 「仕方ないね。荷物これしかないしさっさと出ていくことにするよ」


 つかつかと扉の前へ向かう。


 「お世話になりました」


 ぺこりと頭を下げて、扉の向こうへ。

 パタンと扉が閉まって、足音が一歩また一歩と遠のいていく。


 「これで金食い虫は処分できた」


 満足そうなリーダー。

 そんなリーダーを見て、これからのこのパーティを考えて、そして近くにヴェロニカがいない未来を想像する。そうすると想うのだ。


 ――あぁ、ダメだな。


 と。


 回復役を軽く見るこのパーティメンバーもそうだし、こういう重要案件を勝手に進める不信感もあるし、なによりもこのパーティに加入した最大の理由であったヴェロニカ・ゼーレが居なくなった今、私がこのパーティに留まる理由はない。そりゃSランク冒険者という称号、そして報酬。それに魅力がないと言えば嘘になる。


 だけれど、それよりも。


 好きな人と離れる。それはやっぱり耐え難い。


 だから。


 「ヴェロニカさんが抜けるなら私も抜ける。ヴェロニカさんのいないこのパーティに用はないし。私、ヴェロニカさんのこと追いかけるから。それじゃあ」


 捲し立てる。


 「ちょいちょいちょいカミリア待て。落ち着け。お前がやめることは想定してない。お前がやめたらウチの戦力は大幅ダウンだ」

 「だから? しらないよ。そんなの。なんでそんな心配私がしなきゃいけないの」

 「……」

 「今までお世話になりました。ではこれね」


 足早にあの部屋を後にする。それから走る。どこへヴェロニカが行ったのはわからないけれど、まだ遠くに行っていないはずなのであちこち探す。

 やがて見つける。


 後ろ姿だけでわかる。

 あの長くて艶やかな銀色の髪の毛。背丈は高く、それでいてシュッとしたスタイル。


 「やっぱり……好きだなぁ」


 恍惚としてから、我に返る。


 「ヴェロニカさん! ヴェロニカ……さんっ!」


 歩いている彼女に声をかけると彼女はビクッと肩を震わせ、警戒するようにこちらを見る。目が合った瞬間に張り詰めた緊張の糸は弛緩した。


 「カミリアちゃん?」

 「私も、私も着いてきます」

 「着いてくるってパーティは?」

 「そんなの知りません。あんな回復役を軽視するようなやつのことなんか知りませんよ。こっちから願い下げです。一緒にやってくなんて」

 「で? まさかやめたとか言わないよね?」

 「やめました」

 「へ?」

 「だからやめたんです」


 あなたのことが好きだから……と言う勇気はなかった。


 「今私フリーなんで、ヴェロニカさん。一緒にパーティー組みましょう」

 「……まぁそういうこともあるか〜」


 と、軽い感じでオッケーもらえてしまった。

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