第1話 浅瀬家の朝
ピピピ、ピピピ、と鳴るアラームの音で目を覚ます。
「もう朝か...眠い...」
昨晩いろいろあって寝るのが遅くなってしまったため、全然寝た気がしない。
二度寝しようかと思ったが、それで遅刻でもしたら偉大なる母の拳が飛んできそうなのでそろそろ起きることにする。
身体をぐぐ、と伸ばしてベッドから降り、部屋をでる。
「あ、おはよう悠真、今日はちょっと遅かったわね」
リビングに向かうと、我が母
「おはよう母さん、昨日寝るのが遅くなっちゃって」
欠伸をしながら椅子に座り、朝食のトーストを口に運ぶ。
「配信長引いちゃったの?」
「いや、配信が終わるのはそこまで遅くなかったんだけど、色々あって...」
すると、ソファでテレビを見ていた父親
「お?なんだなんだ?女の子か??」
「うーん、なんて言えば良いんだろ...」
俺の配信のガチリスナーが実は幼馴染の彩花かもしれない、とは確証がまだ無いため、なんと言えば良いのかわからい。
父は『あぁ〜そういうことか』と頷き始める。まさか今のでわかったのか...??
「ちゃんと避妊しとけよ、お幸せに」
「黙れクソ親父」
全然違った、この父親は何を考えているんだ...。デリカシーが無いのか?
「うぅ泣、息子に暴言言われたぁ泣」
母に抱きつく父、40代の筈なのに保育園児に見えるぞ。
「よしよし、お仕事がんばってね」
そう言い、抱き返しながら頭を撫でる母。朝からイチャイチャしていて元気な事だ。
「はいはい、あれ?」
リビングを見渡す。というのも、この時間ならまだいるはずの弟が見当たらない。
「
「朝練だって、勇希も頑張ってるわね」
「あー、大会近いんだっけか」
俺の弟勇希は陸上部、県内でもトップレベルの短距離選手だ。
「大会近いから気合い入れるんだ〜って意気込んでたわよ」
「あぁ、我が息子2人が頑張っていて俺は嬉しいよ...」
服の袖で涙を拭く親父につっこむのもそろそろめんどくさい。
最後の一口を食べ終わったので、口を拭き合掌する。
「んじゃごちそうさま、おいしかったよ」
食器を片付け、席を立つと母が『あぁ、そういえば』と口を開く。
「配信でもなんでもだけど、私生活が乱れて成績が下がったり、体調不良にでもなったらお母さん、怒るからね?」
そういう母からはゴゴゴと効果音が聞こえた。顔は笑っているが目は笑っていないのが超怖い。
先程まで抱きついていた父もバッ、と離れ、ソファに座る。情けないぞ父よ...
「き、気をつけます...!」
俺はそう言い、逃げるように部屋に戻った。
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制服に着替え、ゲーミングチェアに座り、昨晩の写真をもう一度見る。
「やっぱ、何回見ても俺の配信画面ともっちーさんのアカウントなんだよな...」
だが彩花ともっちーさんが同一人物というのは考えにくい。たまたまアイコンが同じだけな可能性もあるし、ワンチャン俺の配信じゃないことだってある。今日暇があったら本人に聞いてみるか。俺はメールを閉じて時計を見る。
「時間まだあるじゃん、ちょっとだけ編集〜っと」
PCを起動し、編集アプリを開く。
【ay】の活動はライブ配信が主なのだが、配信を見れなかった人のためにも配信の見所などを切り抜き、10分程にまとめたり、配信ではできないような企画を投稿している
「ここの場面結構良かったから入れよっかな」
それから、動画を4分地点まで編集した俺はふぅ、と息を吐き、キーボードを叩く指を止める。
「そろそろ時間か...」
時計を見れば7時50分になっていた。
そろそろ家を出なければ学校に遅刻してしまうだろう。俺はバッグを持ってもう一度リビングに向かう。
「いやなにしてんの?」
階段を降りた先で俺が見たのは、父が母にキスを迫っているところだった。
「聞いてくれ悠真、母さんが行ってきますのチューをしてくれないんだ」
「んなこと良いから早く仕事行けよ」
「そうよ、今日帰ってきたら沢山構ってあげるから、ね?」
母さんもめんどくさいのか、父の顔を手で押し返す。
「ほんとう?!お父さん頑張っちゃうぞー!行ってきまーす!!」
そう言って爆速で玄関に向かい、仕事に向かう父だった。
「あれで会社ではエリートなんだから凄いわよね」
「それ言われても信じれないんだけど、てかそんなことしてる暇無いんだった」
俺は急いで歯磨きをして支度をする。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
靴を履いてドアを開けると太陽の光が差し込む。今日も何気ない一日が始まるのだった。
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