第6話 共犯への道のり

「あっ!!

お前あのえとあ、あ、新井さん!?

え、警察、なんで、ここ、え?」


「チッ……隠して置くつもりだったのに…」


ガラの悪い若い声の正体はあの事情聴取してくる爽やか警察官、新井さんだった。


「なんで……?」


「お前のこと探ってたんだよ。

まぁ、お前隙だらけ過ぎてほんとにあの怪盗かわからなかったけど。」


「なんか…さーせん」


とりま謝っておこ。


「フェン、とりあえずコイツ倉庫に置いておいて。」


綺麗な声が響く。


「エリル姐さんどっか行くんですか?」


「お腹空いたしディナーよ。」


「俺もお供させて下さい!」


「落ち着けフェン。

まずコイツを倉庫に置いてからだな。」


野太い声が聞こえて俺はまた意識を失う。

結局コイツらの目的聞き忘れたわ…


〜〜〜


「あの件はどうなった?」


食卓の上には豪勢な食事が並んでおり様々なメンツが顔を合わせていた。

そして妙な指輪をした男がエリルに聞く。


「ええ、ちゃんと聞き出しておきましたよ。

やはり、あの日本人、ニンジャで間違いないそうです……ただ…」


エリルが言葉を淀ませると。


「ただ?」


「本人にその自覚がなかったようで…なんと言いますか…証拠があると言うと喜んだように飛びついてきて"見せて欲しい“と言われ…」


「なるほど、自覚がないのか……え?

自覚ないの?」


「……ええ、我々も少々戸惑いましたが、証拠の動画を見せるとこれは自分だと認めたので本当かと思われます。」


「…………そうか…えと、その…ご苦労だったな、エリル、フェン、クリフォド。」


『はい。』


「ところでボス、例のニンジャは倉庫に置いていますが、このあとどうされます?」


「そうだな……計画はそのまま続行だ。

あとはお前らが面倒見てやれ。」


『承知しました。』


3人が返事を返して、その食事会はお開きになった。


倉庫


「腹減ったー♪、酒飲みたーい♫、風呂入りたーい🎶、ハラヘッ…」


「おい、ループに入るな。」


「うおっ、びっくりしたー…なんだよ新井さんかよ。」


新井さんが俺のやりたい事音頭をとめに来た。


「新井じゃねぇ、フェンだ。」


目の前にいる柄の悪い青年があの爽やか警察官なんて信じられない。


「今からお前にやって貰いたいことがある…いや、やってくれるよな?」


「あ、えと…はい…」


こんなに圧をかけられて平気な人間がいるだろうか…否!絶対にいない!

その後倉庫から出された俺はまた椅子に縛り付けられた。今度は目隠しされなかった。


「まず自己紹介からだ。

俺はクリフォド。アメリカ人だ。」


「よ、よろしくお願いします?」


スキンヘッドの筋肉男が言う。

脅迫からの自己紹介って困惑しかない。


「アタシはエリル、出身地なんて忘れたわ。」


爪を整えながら美女が言う。


「………さっきも言ったしもういいだろ。」


「不貞腐れるなよフェン、悪いな。」


スキンヘッドもといクリフォドさんが俺に謝ってくる、意外と礼儀があるらしい。


「ああ、いやフェンくんですよね。

さっきも言われたんで大丈夫ですよ。」


「そりゃそうだ、これで分からないとかほざいたらただのバカだ。あとフェンさんな?」


嘲笑うように言われた。

まぁ、そりゃそうだけども。


「フェン、そこらへんにしときなさい。」


「…はい、エリル姐さん。」


少し不貞腐れてる、存外子供なのかも?


「あのー……それで俺にやって欲しい事って……?」


「ああ、これから説明する。」


クリフォドさんがホワイトボードを持って来て説明し出した。


「このホワイトボードに書いてあるのは、とある大富豪のお屋敷の図なんだが……この金持ちの家に金庫があってな?そこの中に脱税した金がたんまり眠ってるらしいんだ。」


「は、はぁ…」


嫌な予感しかしねぇ。


「そこでだ、お前がこの屋敷から金を取ってこい。」


うえぇぇぇ、やだぁぁぁ…


「嫌ですよ!犯罪でしょ?」


「嫌ってんなら強制はしないが……」


次に爪が整ったのか、美女もといエリルさんが喋り出した。


「困ったわねー貴方がこの頼み事を聞いてくれないなら……アタシたち、もしかしたらうっかりして日本の警察に匿名でさっきの動画送っちゃうかもしれないわー?」


困った様子など微塵もなく、口角を上げて言ってくる。

これは所謂脅しって奴だ。

そして最後に新井さんもとい椅子に座ってるフェンくんが喋る。


「俺たちはよー、世界が心酔する"泥酔忍者“の技を動画に収めたいだけなんだよー。だからさぁ…」


そこでフェンくんは徐に席を立って俺の肩を掴んで言う。


「協力してくれるよな?」


結構圧強めの言葉を食らって俺は首を縦に振るしかない。


「そんなに心配するな、俺もお前の事を完全に信用した訳じゃない金庫の前まで俺らが連れて行く。」


クリフォドさんが俺に言ってくれる。

やばいこの面子の希望クリフォドさんだけかもしれん…


「じゃあ、これから作戦の説明するわね!」


俺への脅しに飽きていたのかエリルさんは話が進むとなると途端に上機嫌になった。

俺も出来る事なら脅されたくなかったよ……


「まず最初に3日後、この屋敷で主人が主催のホームパーティーをやるのね?

そこには様々な業界のさるお方がたーっくさん来るのよ。だからそれに乗じて金庫のお金盗んじゃいましょうってことよ!」


最後にウィンクして話を終わった。

俺の人生で見た一番綺麗なウィンクだったと思う。


「じゃあ役をそれぞれ分けるからちゃんと覚えろよー。」


クリフォドさんが紙を持って俺たちに言う。


「エリルは女優、ニンジャはその付き人、フェンは建設会社の社長子息、俺は舞台の設備運搬業者として潜入する。」


「全員バラバラなんですね。」


「当たり前だろ、固まってると疑われる。

お互い知らんフリする方がいい。」


「ねぇ、ちょっと!

なんでアタシの付き人このニンジャなの!?

アタシの付き人よ?もっと綺麗な子雇ってもいいんじゃない!?」


「まぁまぁ、ほらこの中で1番仕事出来るのエリルだろ?だからもしそいつがヘマしてもなんとかしてくれるかなーって…」


どうやらクリフォドさんはかなりの苦労人らしい……可哀想に…


「まぁ、尻拭いは勘弁だけどアタシが1番仕事出来るってのは納得ね。

いいわ、今回だけよ。」


俺が今回1番の被爆者だと思うんだけど…


「その後に密かに合流して、モニター室に細工して、既に貰ってあるハッキングデータでセキュリティを解除して金庫を開けて金を持って撤収。

分かったか?」


「えぇ。」


「ああ。」


「待って待って待って!?

あのーまず貰ってあるハッキングデータってなんですか?俺要らなくないですか?帰っていいですか???」


「多い多い一つにしろよ。」


「別にお前なんて居なくてもはなから問題ない。

ボスの命令で仕方なくお前を連れてってやるんだよ!」


「ごめんフェンくん俺にだけ当たり強くない?

俺なんかした?」


「チッ」


舌打ちされた…


「悪い、なんか最近機嫌悪いんだよコイツ。」


「あ、や別に大丈夫です。」


「さっきの質問に答えるなら、ハッキングデータはうちの組織の情報専門が作った、あと最後の金庫だけは手動だから、それにそもそもお前を試す為の強盗なんだからお前がいなくちゃ成り立たないだろ。」


「確かに…」


「大丈夫だ、ボスは真実が知りたいだけだ。

お前があのニンジャならできるだろう?

ちゃんとできたら解放してやる、今まで通りの生活だ。」


さっき気づいたけど、この人飴と鞭使いこなしてる…

いやだ!犯罪の片棒なんて担ぎたくない!って言えれば良かったけど、もう既に犯罪の中心人物なんだよなぁ…


「どう?答えは決まってるわよね?」


美女が俺に答えを促す。


「やるしか選択肢ないですよね?」


『無い。』


「てか、やらないとお前がどんな目に遭うか俺たちにも分からない。」


「やらせていただきますッッッ!!」


俺は90度のお辞儀を披露した。

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泥酔忍者は覚えてない 酒匂ノ 仁紀 @wagahaku

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