卒業
佐々森りろ
第1話
さっきまであんなに晴れていたのに。
見上げた空は低くて灰色の濁った曇り。真っ白い雪がはらりと舞い落ちてくる。
卒業式の終わった体育館はひっそりとしている。教室や昇降口ではまだ数人が別れを惜しんで話をしていた。仲良し同士でとっくに場所を変えて集まる話をしていた人もいた。
私は、誰も誘わなかったし、誘われなかった。
「あれ? まだここにいたのか、長谷川」
誰もいない体育館に、聞き馴染みのある声が響いた。
「さっむいなー、外雪降って来たぞ、雪!」
声の方に視線を向けると、担任の山岸先生が開いていた扉を指差して、身を縮めながら小走りしている。先ほどまで動いていたストーブの前まで行き、止まっているのを確認してから、倉庫にしまい始めた。
「寂しくなるなぁ」
倉庫の中に入って行った先生の姿は見えないけど、体育館には先生の独り言もはっきりと聞こえて来た。
卒業生の担任をしていたからなのか、それとも、問題ばかり起こしていた私からようやく解放されるからなのか。
友達や彼氏とうまく行かなくなると、決まって山岸先生に相談していた。先生は明るくて、前向きで、いつも不安で臆病な私と違って、励ましてくれる言葉が心強かった。
先生がいてくれたから、私は今日、高校を無事に卒業出来た。
明日から、上手くやっていけるかな。また不安が顔を覗かせる。
「長谷川、いつでも遊びに来いよ。またな」
倉庫の扉に鍵をかけて、振り返った先生は体育館内に響き渡るくらいの声でそう言って手を振る。だから、私は頷いて笑った。
そして、去っていく先生の後ろ姿に向かって、小さく呟いた。
「またね、先生、大好き」
雲の切れ間から、一筋の光が差し込んだ。
卒業 佐々森りろ @sasamoririro
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