第21話

弁当屋のキッチン。

梨花は、床を磨くモップを振り上げ、愛美の手を一撃した。

愛美は「キャー!」と叫んで包丁を落す。


すかさず愛美に詰め寄った梨花は、おもいっきりの力を込めて、

愛美の頬をビンタした。

「い、痛い!」

「なにさ! 私はもっと痛い思いをしてたんだ!」


愛美は記憶を辿る。

確かに、先に『援助交際』をしていたのは愛美だった。

不安がる梨花を口説いたのも愛美だ。


愛美にとって梨花は、『引き立て役』で『共犯者』だった。

うまく利用していた、かもしれない。

「でも、いいじゃない。梨花も楽しんでるし、得してるし」

と思っていた。


3年生になったとき、愛美の『派手な持ち物』に母親が気付いた。

「大学生からプレゼントされた。交際を迫られている」

と嘘をついたら、両親は信用して、

「今後、その人と会ってはダメ」と言われた。


もうヤバイ。

それに今年は受験生だ。援助交際は「止めどき」のようだ。

幸い梨花とは別のクラスになった。

このまま「フェードアウト」してしまえ。


愛美は渋谷から離れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


梨花は、あのとき急に消えた愛美への不満を捲くし立てた。

「キモいオヤジは私に押し付けて」 

「親にバレそうになったら、サッサと辞めて」

「私はアンタが廻したヤバい男に粘着されて、辞めるに辞められなかったんだよ」

「18でフーゾク、20でツマラナイ男と結婚して、やっと離婚して、ずっと苦労してたんだ!」


アンタは! 私を使い捨てにした!


力任せの往復ビンタで、愛美の頬が腫れる。


一方的に殴られるのも腹が立つ。

愛美は、グーパンチで梨花の顔を殴った。

「私だって苦労したんだからね! 夫の浮気で離婚もしたし」


梨花もグーパンチで愛美を殴る。

「アンタみたいな自分勝手なバカ女、ダンナに逃げられて当然だよ!」


愛美と梨花が同時に手を出し、取っ組み合いが始まった。

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