2話 女性に

カーテンを開けたままにしていたのだろうか。

朝、強い日差しが、顔を照らした。

酔っ払ってホテルでシャワーも浴びずに寝てしまったようだ。


もう7時だから、早くシャワー浴びて会社に行かないと。

ベットから起き上がり、シャワーを浴びた時に違和感に気づいた。

髪の毛は長いし、胸が大きい。


「これって女性の胸じゃないか? 下もなくなっている。どういうことだ?」


昨晩のことを思い返してみた。

そういえば、老婆から女性にするって言われたな。

どうすれば元に戻れるんだ。


シャワールームから部屋に戻る。

ハンガーには女物のブラウス、スカートがあり、鞄も女のものだった。

鞄の中を見ると、運転免許証と僕の会社の社員証がある。


社員証には、宮下 乙葉と書かれ、女性の顔写真がプリントされていた。

名字は同じだが、下の名前が違う。


「どういうことだ。よく分からないが、時間もないし、早く会社に行かないと。こんな姿で行っても大丈夫かな。でも社員証は女性のものだし、よく分からない。」


椅子に無造作に投げられていたパンツを履き、見よう見まねでブラジャーをつける。

鞄に入っていたリップだけをつけた。

それ以上のメイクはわからない。


二日酔いが残りつつ、ホテルを飛び出して会社に向かう。

嵩地駅を降り、バス停で待っていると、後ろから声をかけられた。


「宮下さん、おはよう。バスは遅れてるのかな。あれ、昨日と同じ服装じゃない。ということは昨晩はお泊まり? そういえば、化粧もいつもみたくばっちりという感じじゃないし。彼氏と楽しい夜だったとか? いやいや、そんなことを言ったらセクハラだ。忘れて。」

「いえ、寝坊して、あわてて家をでてきたので・・・。」


違和感がある甲高い声が僕の口からでる。

翌日も同じ服の女性がなんて言われるかなんて考えていなかった。

気が動転して、適当に笑ってごまかすことしかできない。


バスは満員で、背の低いこの体では、男性に囲まれて息苦しい。

揺れるバスの中で立っているのは、いつもよりつらかった。

厚手のコートで、白いワンピース姿を見られなかったのは助かったけど。


自分の職場に行き、いつもの席に座る。

女性の姿でみんなに見られるのはどきどきだった。

でも、誰も違和感は感じていないようだ。

上司もごく自然に僕に話しかける。


「宮下さん、今日はこの部分のプログラムをコーディングしておいて。」


女性の姿なのに、どうして昨日と変わらずに接してくるんだろうか。

不思議でいっぱいだったけど、仕事をするしかない。

そうこうしているうちに、課長から呼び出され、会議室で話すことになった。


「宮下さん、異動だ。4月1日から東京本社の営業部に行ってもらう。これまで、ここで活躍してくれて、ありがとう。明るく、いつも正確な仕事で助かったよ。東京では、初めての営業で苦労するかもしれない。でも、宮下さんだったら大丈夫だから、がんばってね。」

「わかりました。まだ、3ヶ月ぐらいありますが、引き続き、よろしくお願いいたします。」


昨晩の老婆が言っていた通り。

しかも、この世の中で、僕は女性として生きてることになっている。

ただ、女性になれば気楽に生きていけるから、いいことかもしれない。


しかも、顔はメイクをしてなくても女優並みに可愛い。

オフィスの窓ガラスに映った私のスタイルは抜群。

これだけの容姿だったら、どの男性も一目置いて、幸せに暮らせるはず。


仕事が終わり、自分のワンルームマンションに戻る。

いつもは深夜まで仕事だけど、今日は仕事も終わったし定時で職場を出た。

家に帰ると、女物の服とかしかなく、どこにも男性としての痕跡はない。


翌日は土曜日だったので、再び深津に行ってみたけど老婆の姿はなかった。

周りに、老婆の占い師について聞いても、誰も知らない。


酔っていたので記憶も定かではなく、自分の部屋に戻るしかなかった。

仕事はこれまでと全く同じだったので、日々は順調に過ごすことができた。


3カ月の間に、女性として暮らすために必要なことは一通り学ぶことができた。

最初の頃はぎこちないことも多かったと思うけど、あまり気づかれなかった。

工場には女性が少なく、男性はみんな仕事に追われていたから。


東京で暮らすワンルームマンションも契約が終わった。

来週月曜日から東京での暮らし。


転居時に見た戸籍には男性としての証跡は残っていなかった。

両親は、大学2年生の時に交通事故で二人とも亡くなったと記録されている。

男性の時の記憶通り、自分以外は全く変わっていない。

自分が女性だったということだけが変わっている。


この時は、不幸が待ち構えていることを知らず、東京の生活を楽しみにしていた。

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