016 妊娠

「エルミナ。すまない。お前には……俺の子を産んでもらう」


 言葉を選んでいる余裕はなかった。

 ただ、真実を伝えなければならないと思った。


「え……?」


 エルミナは、目を見開いて俺を見つめた。

 その瞳は、大きく揺れている。


「アッシュ……あなた、何を言って……」


 エルミナの顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。


「そんな、私、まだ、心の準備が……」


「それはわかっている」


 心の準備などできるわけがない。

 いまから、エルミナはモンスターの苗床となるのだ。


「エルミナ、お前のことを大事にする。必ず幸せにしてみせる。だから、俺と子をつくってくれ」


「アッシュ……」


 もう少し説明しておく必要があるだろう。


「俺とお前の子なら、強く育つはずだ。だから……俺の子を産んでほしいんだ」


 エルミナは、俺の言葉をじっと聞いていた。


「……わかったわ」


 エルミナは、ゆっくりと、しかし、はっきりと告げた。


「いいのか?」


 俺は思わず聞き返した。

 エルミナの決意が、信じられなかった。

 エルミナがうなずかなければ、無理やりにでも行わなければならないところだった。


「ええ。私、アッシュの子を産むわ」


 エルミナは真っ直ぐに俺を見つめ、そう言った。


「ありがとう、エルミナ」


 俺はエルミナに感謝の言葉を述べた。


「でも、一つだけ、約束して」


エルミナは俺の目をじっと見つめ、言った。


「なんだ?」


「……私、はじめてだから。優しくしてね」


「ああ、約束する」


 俺もはじめてだから、うまくできるかはわからないが善処しよう。


「クリスティ、準備を」


 俺はクリスティに指示を出した。

 もう迷いはない。


「はい、アッシュ様」


 クリスティの声が、静かに響いた。


 エルミナを拘束したまま、俺は牢のなかへ入った。


「抱きしめてくれる?」


 俺はエルミナに近づき、その体を優しく抱きしめた。

 エルミナの体は、小刻みに震えている。

 恐怖と、不安と、そして、覚悟……。

 様々な感情が、入り混じっているのだろう。


「……怖くないか?」


 俺はエルミナの耳元で囁いた。


「怖い。でも、アッシュを信じる」


 エルミナは俺の胸に顔を埋め、そう言った。


「ありがとう」


 俺は、エルミナを抱きしめる力を強めた。

 彼女の温もりが、俺の心を、少しだけ、癒してくれるようだった。


「それでは、はじめるぞ」


「え? はじめるって、ここで? いや、あの、クリスティさんが見ているけれど……。ベッドもないし」


「大丈夫だ」


「アッシュ……」


 エルミナが不安げな声で俺を呼んだ。

 その瞳は潤んでいる。


「大丈夫だ、エルミナ。すぐに終わる」


 俺はエルミナに優しく声をかけた。


「アッシュ様、準備ができました」


 クリスティの声が、俺の思考を現実に引き戻す。


「ああ」


 俺は自分の杖を手に取った。

 深く息を吸い込む。

 そして、杖の先端をエルミナの下腹部にかざした。


「いくぞ、エルミナ」


「え? 何を?」


「子作りだ」


「えっと、うん、そうだよね。あ、わかった。淫紋……的な?」


 インモン?

 エルミナ、こいつは一体何を言っているんだ?

 よくわからないが……。


 まあ良い。


 エルミナは、ぎゅっと目をつぶった。


 俺は杖に魔力を集中させた。

 杖の先端から淡い光が放たれる。

 その光は、ゆっくりとエルミナの下腹部に吸い込まれていく。


「あっ…!」


 エルミナが小さく声を上げた。

 その体は微かに震えている。


「アッシュ様、そのまま魔力を注ぎ込み続けてください」


 クリスティの指示に従い、俺はさらに魔力を注ぎ込んでいく。

 俺の魔力は、エルミナの子宮に集まっていった。

 そこで、新たな生命の種を育み始める。


「ああっ……! アッシュ……!」


 エルミナが苦悶の声を上げた。


「もう少しだ、エルミナ!」


「これは……?」


「俺の魔力だ。全部受け入れてくれ」


「んっ……! アッシュ……すごく……熱い」


 エルミナは体を捩りながら、嬌声を上げた。

 その声は牢獄の中に響き渡る。


「アッシュ様、良い感じです。その調子で」


 クリスティは冷静に状況を分析していた。


 俺はクリスティの指示に従う。

 さらに魔力を注ぎ込んでいった。


 エルミナの体はますます熱を帯び、激しく震え始めた。


「あああっ…! アッシュ、アッシュ…!」


 エルミナは俺の名前を呼び続けた。

 その声は、もはや悲鳴に近い。


 そして、ついにその時が来た。


「アッシュ様、間もなくです!」


 クリスティの声が高らかに響いた。


「愛の言葉をかけてあげてください!」


「エルミナ! 頑張れ!」


「アッシュ! 好きよ!」


 エルミナの突然の告白。

 俺は思考が停止した。

 杖を持つ手が、わずかに震える。


「アッシュのこと、愛してる!」


 エルミナは、さらに言葉を重ねた。


 魔力の影響で高揚しているのか、それとも本心なのか、俺には判断がつかない。


「あ、ああ……」


 俺は動揺しながらも、何とか言葉を返した。

 いや、いま言うことか?


「アッシュ様、集中してください!」


 クリスティの鋭い声が、俺の意識を引き戻す。


 そうだ、今は、そんなことを考えている場合ではない。

 エルミナの体内に、モンスターの種を宿さなければならないのだ。


「す、すまない、エルミナ。……続けるぞ」


 俺はエルミナから目をそらし、杖に意識を集中させた。

 魔力の流れを、再び安定させる。


 エルミナの子宮に、確実に、種を送り届けるために。


「あっ……! アッシュ……! もっと……!」


 エルミナは体を激しく震わせながら、俺の名前を呼んだ。

 その声は、熱を帯び、甘く、そして、切ない。


「……もう少しだ、エルミナ。頑張れ……!」


 俺にできることは、魔力を注ぎ込み続けることだけだ。


「ああっ……! アッシュ、すごく、熱い……! あなたの魔力が、私の中に……!」


 エルミナは恍惚とした表情で、そう言った。


「アッシュ様、ラストスパートです!」


 クリスティの声が緊迫感を増した。


 俺は最後の力を振り絞り、魔力を注ぎ込む。

 杖の先端から放たれる光が、さらに強さを増した。


「ああああああっ……! アッシュ……! アッシュ……!」


 エルミナは絶叫に近い声を上げた。

 その体は激しく痙攣し、弓なりに反り返る。


 そして……。


「アッシュ様、完了しました!」


 クリスティの声が牢獄に響き渡った。


 俺は杖を下げた。


 エルミナはぐったりと床に横たわっている。


 その腹部は、先程よりも、ふっくらとしている。

 新たな生命が、彼女の中で、確かに息づき始めたのだ。


 こうして、エルミナは妊娠した。


――――――――――――――――――

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