第二章
011 まったく気が効かない朴念仁で世界的に有名
俺はダンジョンを出て、街へと来ていた。
足りない研究の材料の買い出しと……。
ブラッディ・エデンに関する情報を収集するためだった。
街で、どのような噂になっているのかを調べたかった。
まだ俺がダンジョンマスターだということは、ばれていないはずだ。
ショップへ入ると、そこには見知った顔があった。
「アッシュ!」
大声を出したのは女だった。
金髪に赤い瞳。
白を基調とした、上品な革鎧を身に着けていた。
一目で剣士とわかる服装をしていた。
「エルミナか」
エルミナとは、以前パーティを組んだことがあった。
特殊なエリアにしか生えない薬草を取りに行くとき、危険なので護衛を頼んだ。
二、三回ほどパーティを組んだことがあっただろうか。
それ以来、たまに街で会うと話をする程度の関係だった。
「あんた、研究所をクビになったの?」
「ああ、そうだ」
どうやら街で噂になっていえるらしいな。
「そうだ、って……。大丈夫なの? 生活は。やっていけてるの?」
「なんとかな」
説明が面倒だったので、適当にあしらうことにした。
「そう。まあ、生きていけてるなら良いんだけど」
エルミナは、ぷいっとそっぽを向いた。
「俺のことを心配してくれていたのか?」
「まさか! そんなことあるわけないでしょ! ただ、もし仕事がなくて困ってるなら、パパにお願いして、仕事を恵んであげようかなって思ってただけ!」
ただの良いやつだった。
「あんたには、一応、昔、助けられたからさ」
「パーティメンバーとして当然のことをしたまでだ」
エルミナは、少し寂しそうな表情を浮かべ、小さく呟いた。
「そういえば、最近、妙な噂が流れているのを知ってる?」
「妙な噂?」
「この街の近くに、新しいダンジョンが現れたらしくって。先遣隊が魔力を奪われて帰ってきたって」
それは俺のダンジョン、ブラッディ・エデンのことだろう。
すでに冒険者たちの間で噂になっているのか。
「そのダンジョンについて、何か知っていることはあるか?」
「詳しいことは何も……。近いうちに、大規模な討伐隊が組織されるかもしれないって」
「なるほどな」
大規模な討伐隊、か。
良い情報を得た。
「私も、その討伐隊に選ばれたの」
「ふぅん……」
「ふぅん……って、ちょっと! 心配とかしなさいよ」
エルミナは、俺の反応が気に入らないようだ。
頬を膨らませて詰め寄ってきた。
「悪い。べつに、そういうわけじゃない」
ただ……。
エルミナとも戦わなければならないときが来るのだと、そう思っただけだった。
「おめでとう。討伐隊に選ばれるだなんて、すごいな。国から力が認められた証拠だ」
「……ありがとう」
エルミナは照れているようだった。
そして、俺は良いことを思いついた。
「いまから、ちょっと時間あるか?」
「なに? べつに、いいけど……」
俺はエルミナを連れて、ショップを出た。
少し歩いたところにある魔術具のショップへ向かった。
ざっと商品を見ていき、これだ、と思うものを手につかんだ。
俺が手に取ったのは、小ぶりなペンダントだった。
繊細な銀細工で作られた、涙の雫のような形をしている。
その中央には、深紅の宝石が埋め込まれていた。
「これ、幾らだ?」
店主は答えた。
「八万テラールです」
八万か。まあまあするな……。でも、まあいいか。
俺は財布を出して、八万テラールを支払った。
「うわ。そんな大金、よく簡単に払えるね」
「簡単というわけでもないが……」
もともと、お金はほとんど使わない。
妹のために魔力は必要だが、それは金では少量しか得られない。
「このアクセサリー、どう思う?」
「どうって言われても、私、魔術具なんてわからない」
「魔術具としてじゃなくて、デザインだ。どう思う?」
「きれいだとは思うけれど……。ちょっと、アッシュがつけるには、女物っぽい気はする」
「いや、エルミナがつけるんだ」
「え?」
「だから、先遣隊に選ばれたプレゼントだ」
「はぁ?」
エルミナは驚いたような顔をしていた。
「あんた、急に、どうしたの? 熱でもある?」
「プレゼントをするのが、そんなに変か?」
「変。アッシュといえば、まったく気が効かない朴念仁で世界的に有名なんだから」
どこの世界で有名なんだ。俺は。
「……まあ、いいや」
俺はペンダントに魔術をかけた。
防御の魔術だ。
「とにかく、やるよ。受け取ってくれ」
俺は半ば強引にペンダントをエルミナに押し付けた。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ! いきなりプレゼントだなんて……」
エルミナは、顔を真っ赤にして狼狽えている。
「まあ、お守り代わりにしてくれ。防御の魔力を込めておいた」
「こんな高価なもの、簡単に……受け取れないよ」
エルミナは、ペンダントをまじまじと見つめていた。
深紅の宝石が、光を受けてキラキラと輝いている。
「出世祝いだ」
「……本当に、いいの?」
俺は無言でうなずいた。
エルミナは、ゆっくりとペンダントに手を伸ばした。
ぎゅっと握る。
「……ありがとう。大切にする。家宝にするね」
「家宝にするな」
俺の目論見が台無しになる。
「さっきも言ったが、防御の魔力を込めてある。お守りとして、常に持ち歩いていてほしい。ダンジョンでは、どんな危険があるかわからない。少しでも、エルミナを守りたい」
「アッシュ……」
エルミナは、俺の瞳を、じっと見つめていた。
「もしかして、そういうこと?」
「どういうことだ?」
俺の作戦がバレたのか……?
「私が……ダンジョンから無事に戻ってきたら……プロポーズ……」
ぶつぶつ、とエルミナはつぶやく。
よくわからないが、何か勘違いをしているような気がした。
まあ、ペンダントを身に着けておいてもらえるのであれば、それで良い。
「私、必ずダンジョンから無事に戻って来るから。そしたら、うん、ちゃんと返事するね」
エルミナは強い視線で、俺を見た。
いったい、何を返事するのか、さっぱりわからないけれども。
「わかった。頑張れ」
俺は、そう答えておいた。
――――――――――――――――――
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