009 ブラッディ・エデン
戦闘を終え、水晶の間へと戻ってきていた。
ダンジョンマスターの椅子に腰掛け、今後の展開について考えているときだった。
「アッシュ様、大変です!」
「どうした。また、冒険者が現れたか」
「……いえ、大変素晴らしいことが起きました!」
クリスティの声が、水晶の間全体に響き渡る。
その声は落ち着きを失い、興奮と喜びに震えていた。
「どうした、クリスティ? 何があった?」
俺は、椅子から立ち上がり、水晶に近づいた。
「ダンジョンのレベルが……レベルが上昇しました!」
「またレベルが上ったのか」
ダンジョンマスターになって、まだ数日しか経っていない。
それなのに、もうレベルアップしたのか。
「クリスティ、ステータスを表示してくれ」
俺の言葉と同時に、目の前に半透明な光の板が現れた。
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【ダンジョンステータス】
ダンジョン名: 名もなき古のダンジョン
ダンジョンレベル: 2
階層: 1
ダンジョンコア魔力残量: 125/200 (+25/1h)
保有モンスター: スライム・マザー(Lv.5)×1、スライム(Lv.1)×10
侵入者撃退数: 3
特記事項: 魔力循環機能回復、構造一部修復、肥沃土壌生成、第一階層拡張、牢獄生成
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「アッシュ様! これは本当にすごいことです! 通常、ダンジョンのレベルは、もっとゆっくりと時間をかけて上がっていくものなのです!
それなのに、こんな短期間でレベルアップを成し遂げるなんて……!
アッシュ様は、間違いなく、特別な才能をお持ちです!」
クリスティは、興奮を隠せない様子で、光を激しく点滅させた。
その言葉には、心からの賞賛と、喜びが込められている。
俺にダンジョンマスターの才能があったのだろうか。
たまたま運が良くうまくいっているのか……。
どちらにせよ、俺の目的であるルゥナを救うことに近づいているのは間違いない。
「ダンジョンレベルの上昇により、命名が可能になりました」
了解しました。ダンジョンレベル上昇後、クリスティから命名を提案され、アッシュがダンジョンに名前を付けるシーンを描きます。
「ダンジョンレベルの上昇により、命名が可能になりました」
クリスティの言葉に、俺は少し驚いた。
「ダンジョンに、名前を付けることができるのか?」
「はい、アッシュ様。ダンジョンは、名前を与えられることで、より強く、個性的な存在へと成長していくことができるのです。言わば、魂が宿る、とでも言いましょうか……」
「魂……か」
俺は、研究所時代に読んだ、古代の文献を思い出した。
そこには、万物に名前があり、名前には力が宿る、と書かれていた。
ダンジョンも、例外ではないということか。
「どんな名前が良いんだろうな」
「そうですね。アッシュ様と、ルゥナ様、お二人の名前を組み合わせるのはどうでしょう? 例えば、『ルナストレア』とかどうでしょう」
「却下だ」
俺は、即座に却下した。
大切な妹であるルゥナの名前は使いたくなかった。
「良いと思ったんですけど……」
クリスティは、力なく点滅していた。
ちょっとしょんぼりとしているようだった。
「ブラッディ・エデンは、どうだろうか。格好つけすぎか」
「いえ、良いと思いますよ。どういう意味ですか?」
クリスティは、意外にも乗り気な様子で、光を小さく点滅させた。
「これから俺が歩むのは、血塗られた外道だ。ルゥナを救うためなら、俺は、どんな道だって進んでみせる」
直訳すると『血塗られた楽園』だ。
「かしこまりました。では、ダンジョンに命名の儀式を行います」
クリスティはそう言うと、水晶の輝きを一段と増した。
そして、俺に向かって、厳かな声で語りかけた。
「アッシュ様、ダンジョンに与える名前を、もう一度、はっきりとおっしゃってください」
「ダンジョンの名前は『ブラッディ・エデン』だ」
俺は、決意を込めて、そう宣言した。
「かしこまりました。ダンジョンに、『ブラッディ・エデン』の名を刻みます。アッシュ様、この水晶の、光が集中しているところに触れて、魔力を注ぎ込んでください」
クリスティに促され、俺は水晶に近づいた。
見ると、水晶の一点に、光が集まり、まばゆいばかりに輝いている。
まるで、俺の魔力を待ち望んでいるかのようだ。
俺は、そっと手を伸ばし、光が集中している場所に触れた。
すると、ひんやりとした感触とともに、俺の体から、魔力が水晶へと流れ込んでいくのを感じた。
「アッシュ様、そのまま、ダンジョンの名前を、強く念じてください」
クリスティの声が、俺の脳内に直接響く。
俺は、目を閉じ、心の中で、強く念じた。
ブラッディ・エデン。
ルゥナ、俺は必ずお前を救う。
そのためなら、俺は、どんなことだってする……。
俺の想いが、魔力に乗って、水晶へと流れ込んでいく。
すると、水晶が、眩いばかりの光を放ち、ダンジョン全体が、大きく振動した。
「……命名の儀式、完了しました。これより、このダンジョンは、『ブラッディ・エデン』です!」
クリスティの宣言と同時に、水晶の輝きが収まり、ダンジョン全体が静寂に包まれた。
しかし、俺は確かに感じていた。
このダンジョンが、新たな生命を宿したかのように、力強く脈動しているのを。
「……アッシュ様、ご覧ください! ダンジョンのステータスが変化しています!」
クリスティの声に促され、俺は、目の前に現れた光の板に目を向けた。
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ダンジョン名: ブラッディ・エデン
ダンジョンレベル: 2
階層: 1
ダンジョンコア魔力残量: 125/200 (+40/1h)
保有モンスター: スライム・マザー(Lv.5)×1、スライム(Lv.1)×10
侵入者撃退数: 3
特記事項: 魔力循環機能回復、構造一部修復、肥沃土壌生成、第一階層拡張、牢獄生成、命名完了
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「……ダンジョン名が、『ブラッディ・エデン』に変わっている。
それに……魔力残量と、回復速度も大幅に上昇しているぞ!」
俺は、驚きを隠せなかった。
命名による効果は、単なる表示上の変化だけではない。
ダンジョンの持つ能力が確実に底上げされている。
「はい、アッシュ様! 名前を得たことで、ブラッディ・エデンは、真の意味で、一つの生命体として覚醒したのです! これも全て、アッシュ様のおかげです。……本当に、本当に、ありがとうございます!」
クリスティは、言葉を詰まらせながら、精一杯の感謝を伝えてきた。
その光は、今まで見たこともないほど、強く、温かく輝いている。
「礼を言うのは、俺の方だ、クリスティ。お前がいなければ、俺は、ダンジョンマスターになろうとは思わなかった。ルゥナを救うための、この道を見つけることもできなかった」
俺は、クリスティに向かって、静かに頭を下げた。
「……アッシュ様……」
クリスティは、感極まったように、光を揺らめかせた。
その時だった。
水晶から、まばゆいばかりの光が放たれ、部屋全体が白く染まった。
俺は、思わず目を細める。
「なんだ……!?」
光が収まると、そこには、今まで見たこともない光景が広がっていた。
水晶の隣に、一人の少女が立っていたのだ。
彼女は、十歳くらいの幼い姿をしている。
透き通るような白い肌、長い銀髪、そして、水晶のように澄んだ青い瞳。
その姿は、まるで精霊か妖精のように、神秘的で美しかった。
そして、どこかクリスティの光の明滅と存在が似通っている気がした。
「……クリスティ?」
俺は、思わず呟いた。
少女は、自分の手をじっと見つめていた。
「ダンジョンが名前を得て、真の力を解放したことで、私も、より高次元の存在へと進化することができたようです。これからは、この姿で、アッシュ様の傍に仕えることができます」
クリスティは、そう言うと、俺の前に跪き、恭しく頭を下げた。
その姿は、まるで忠誠を誓う騎士のようだ。
「クリスティ、顔を上げてくれ。俺たちは、対等なパートナーだ」
「はい、アッシュ様」
クリスティは、顔を上げ、嬉しそうに微笑み、いつものように明滅していた。
人間の姿でも光るんだな……。
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