002 名もなき古のダンジョンの修復

「アッシュ様。早速なのですが、このダンジョンの現状を知ってほしいのです」




「見たところ魔力もなく、ボロボロだな」




 俺は正直な感想を口にした。




「はい……。いまの私には、もはや、ダンジョンを生成する力も、新たなモンスターを生み出す力も残っていません。アッシュ様。私の、ここに触れてください」




 クリスタルの一部分が黄色に明滅した。


 言われた通り、そこに手を触れる。




 すると、俺の脳内に直接情報が流れ込んできた。




---


【ダンジョンステータス】




ダンジョン名: 名もなき古のダンジョン


ダンジョンレベル: 1


階層: 1


ダンジョンコア魔力残量: 10/100


保有モンスター: なし


侵入者撃退数: 0


特記事項: 魔力循環機能停止、構造劣化著しい、モンスター生成機能停止


---




 表示されている内容は、目を覆いたくなるほど酷いものだった。


 ダンジョンというか、単なる洞穴だ。




「魔力がほぼないな。循環機能も停止している」




「はい。以前のマスターが失踪してから、長い間放置されていましたので、ダンジョンとしての機能をほぼ喪失している状態です。魔力残量がゼロになると、私は力を失い、消失してしまいます」




 ダンジョンコアの声は悲しげに響いた。




 だから、マスターを欲していたというわけだ。




「わかった。なんとかこのダンジョンを立て直してみよう」




 俺は懐から使い古した杖を取り出した。


 研究所時代から愛用している、魔力増幅用の杖だ。




「まずは、魔力の循環機能を復活させる必要があるな」




 俺は、賢者としての知識を総動員し、ダンジョンの構造を分析した。


 魔力の流れ、空気の組成、壁の材質、床の構造……。




 このダンジョンは、本来、自然界から魔力を吸収し、内部で循環させるように設計されているはずだ。


 しかし、長年の放置で、その機能が停止してしまっている。




「原因は、魔力の流れを阻害している、この瓦礫と壁のひび割れだな」




 俺は、散乱する瓦礫と、ひび割れた壁を指差した。




「アッシュ様は、このダンジョンをどうすれば良いか、お分かりになるのですね?」




「ああ。もともと魔力増幅技術について研究してたからな。魔力の循環についても専門が近い。まあ、それが原因でクビになったわけだ」




 俺は自嘲気味に笑ってみせた。




「まずは……瓦礫をどかして、壁を修復するか」




 俺は、杖を構えて呪文を唱え始めた。




「土よ、来たれ。我が意に従い、形を成せ……!」




 杖の先端に淡い光が集まり、やがて、眩い光の玉となった。


 俺が光の玉を床に放つと、光は瞬く間に広がり、瓦礫を包み込んだ。


 そして、瓦礫はまるで生き物のように動き出し、一箇所に集まって、整然と積み重なっていった。




 次に、俺は杖を壁に向け、別の呪文を唱えた。




「岩壁よ、来たれ。古の盟約に従い、その姿を取り戻せ……!」




 すると、壁のひび割れが、まるで傷が癒えるように、ゆっくりと塞がっていく。




「アッシュ様! さすがです!」




「一応、元賢者だからな」




 いまは無職だが。


 いや、いまの職業はダンジョンマスターか……。




「あとは、魔力の流れを正常にする魔法陣を書く必要がある」




 俺は、再び杖を手に取り、床に魔法陣を描き始めた。




 それは、複雑な幾何学模様と、古代文字が組み合わさった、高度な魔法陣だった。


 一筆一筆、心を込めて魔法陣を描いていった。




 ダンジョンコアは、俺の作業を、じっと見守っている。


 その光は、静かだが確かな期待を込めているように感じられた。




「……もう少しだ、待っててくれ」




 俺は、ダンジョンコアに語りかけるように呟き、さらに集中力を高めた。


 額から汗が流れ落ちるが、気にする余裕はない。


 ただひたすらに、魔法陣を描き続けた。




 そして、ついに魔法陣が完成した。


 俺は、杖を高く掲げ、最後の呪文を唱える。




「……来たれ、魔力の奔流! 古の盟約に従い、この地に循環を成せ……!」




 瞬間、魔法陣が淡い光を放ち、ゆっくりと回転を始めた。


 すると、足元から微かな振動が伝わってきた。


 まるで、ダンジョンが深呼吸をしているかのようだ。




「……アッシュ様……! 魔力を、感じます……!」




 ダンジョンコアが、歓喜の声を上げた。


 その声に呼応するように、水晶の輝きが増していく。




 俺は、周囲を見回した。


 ひび割れていた壁は、まだ完全に修復されたわけではないが、以前よりも明らかに強固になっている。




 床の瓦礫は取り除かれ、代わりに、魔法陣から発せられる柔らかな光が、部屋全体を照らしている。




 そして、壁際に生えていた苔のような魔力草が、心なしか青々とした光を放ち始めている。




「……まだ、完全じゃない。でも、確かに魔力は循環し始めている」




 俺は、安堵の息を吐き出し、杖を支えにして立ち上がった。


 全身から力が抜け、立っているのがやっとの状態だ。




 やはり、ダンジョン内の魔力不足が深刻だ。


 魔法陣に流した魔力は、ほとんどは自分の魔力だった。




「アッシュ様、お疲れ様です! 本当に、ありがとうございます……!」




 ダンジョンコアは、喜びと感謝の気持ちを込めて、光を明滅させている。




「ダンジョンコア、今のステータスを確認させてくれ」




「はい、もちろんです!」




 ダンジョンコアの声とともに、俺の目の前に、半透明な光の板が現れた。




---


【ダンジョンステータス】




ダンジョン名: 名もなき古のダンジョン


ダンジョンレベル: 1


階層: 1


ダンジョンコア魔力残量: 10/100 (+10/1h)


保有モンスター: なし


侵入者撃退数: 0


特記事項: 魔力循環機能一部回復、構造一部修復


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 まだ魔力は溜まっていないが、1時間ごとに10Pずつ回復するようになっていた。


 この調子でいけば、少しずつ魔力が溜まっていくだろう。


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