第3話 AI探偵、みらい



目の前の少女は、じっと僕を見つめていた。


まるで僕のすべてを分析するような、冷静な瞳。


「……あなたの母親は、"消えた"のではなく――"消された"のかもしれないわ」


その言葉が、夜の静寂に響いた。


「ど、どういうこと?」


僕は思わず問い返した。


「消されたって……誰に?」


少女――みらいは、小さく首を傾げた。


「まだ、そこまでは分からない。でも、あなたの証言が事実なら、"普通の失踪"ではないわ」


「僕の証言は、事実だよ!」


「ええ。でも、証拠は?」


僕は言葉を失った。


証拠……?


「私は"みらい"。AIを駆使する名探偵よ。あなたのお母さんが"消えた"というのなら、その痕跡がどこかに残っているはず。だから、私はそれを探しに来たの」


「探しにって……」


「あなたの家、見せてもらえない?」


唐突な申し出だった。


僕は警戒しながらも、みらいの顔を見た。


夜の闇に溶け込むような、淡い青い瞳。


疑うべきかもしれない。でも、この子なら、母の手がかりを見つけてくれるかもしれない。


「……ついてきて」


僕は意を決して、彼女を家へ案内することにした。


***


家に着くと、リビングにはまだ父がいた。


ソファに座ったまま、天井を見上げている。


「お父さん……」


声をかけると、ゆっくりとこちらを向いた。


「明日翔……。どこに行ってたんだ……?」


「ちょっと……外に」


父の目は、どこか焦点が合っていない。


「お父さん……大丈夫?」


「……ああ。でも、何をすればいいのか、分からないんだ」


そう言って、また天井を見つめる。


(やっぱり、頼れるのは自分しかいない)


僕はみらいを家の中へと招き入れた。


彼女は興味深そうに部屋を見回し、まっすぐキッチンへ向かう。


「……ここが、あなたのお母さんが消えた場所?」


「うん」


みらいは慎重に足を踏み入れ、静かに目を閉じた。


そして、まるで頭の中で何かを検索するように、言葉を発した。


「まずは、状況整理からね」


「え?」


「探偵は、いきなり証拠を探したりしないわ。まずは"聞き込み"をして、状況を整理するの」


「聞き込みって……僕に?」


「そう。あなたが唯一の目撃者よ」


そう言われると、確かに僕しか母の失踪を見ていない。


「じゃあ、質問するわね」


みらいは真剣な表情で、矢継ぎ早に質問を投げかけた。


「お母さんが最後に言った言葉は?」


「えっと……『ちょっと醤油を取ってくれる?』だった……」


「その時、お母さんはどこを向いていた?」


「コンロの前。ちょうど味噌汁を作ってたんだ」


「コンロの火は?」


「ついたままだった」


「ほかに何か異変は?」


「ううん……何も……」


「そう」


みらいは一瞬考え込む。


「つまり、お母さんはいつも通り料理をしていて、何の前触れもなく消えた。あなたは、その瞬間を目撃した」


「そうだよ」


「その時、周囲の空気に違和感はあった?」


「違和感……?」


「例えば、光の揺らぎや、耳鳴り、急な寒気とか」


「……あ」


思い出した。


「なんか、変な音がした!」


「変な音?」


「うん、"ブツッ"っていう感じの……テレビの電源を急に切ったときみたいな……」


みらいの目が鋭くなる。


「面白いわね。じゃあ次のステップに進みましょう」


彼女はポケットから、小さな装置を取り出した。


「それ、何?」


「音波解析装置。あなたが聞いた"音"を再現できるかもしれない」


彼女は装置を起動し、僕に促した。


「できるだけ、その音を正確に再現して」


「えっと……『ブツッ』」


装置がデータを記録し、解析を始める。


すると、みらいの目が鋭くなった。


「やっぱり……」


「え、何が?」


「この音、普通の環境音じゃないわ」


「どういうこと?」


「……時間の流れが乱れたときに発生する"ノイズ"よ」


僕は息をのんだ。


「時間の……乱れ?」


「ええ。つまり、このキッチンには"時間の異常"が発生していた可能性があるわ」


「じゃあ、お母さんは……?」


みらいは僕の目をまっすぐ見た。


「あなたのお母さんは、"時間の穴"に飲み込まれたのかもしれない」


***

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明日とみらいのAIちがい ひなもんじゃ @hinamonzya

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