そして、遂に武田信玄が動き出した。


「殿!徳川殿から武田が京を目指して動き出したと連絡が来ました!

 先行している先見部隊と戦になりそうです!」

「遂に来たか…

 家康を助けに行くぞ!」

 信長が立ち上がると、隣にいた帰蝶が止めた。

「信長様、お待ち下さい!

 今、殿が動くと敵の思う壺です!」

「いくら帰蝶でもこれは家康との約束だ!」

 信長は帰蝶を振りほどこうとした。

「駄目です!殿が出ていけば留守を狙って朝倉が攻め込んできます!」

「な、なんだと!?」

 信長が立ち止まった。


「殿、帰蝶様の言う通りです!

 朝倉は金ヶ崎城に戦力を集めています

 今、殿が動いたら奴らは進軍を始めるでしょう」

 朝倉の動きを注視していた勝家が報告する。

「だが、援軍を出さなければ家康が…」

「殿、鳴海城の守備隊を向かわせてはいかがでしょうか?」

 恒興が進言する。

「…あそこの守備隊だけじゃ少ないだろ?」

「しかし、今動かせるのはあそこくらいです!

 先見部隊だけなら武田軍とはいえ足止めくらいは出来るかと…」

 信長は苦渋の決断をする。


「くっ……、分かった、鳴海城の守備隊を援軍として向かわせる…」

「殿!その援軍に私も加わらせて下さい!」

 佐久間信盛が名乗り出た。

「信盛、行ってくれるのか?」

「私の部隊くらいでは大した戦力にはなりませんが、退き時はわきまえております」

 信盛は『退き佐久間』と異名を取る程、逃げ足が早い。

「信盛、危ないと思ったら、みんなを連れて逃げるんだぞ」

 援軍に掛ける言葉ではなかった。


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