アニメ第一期
第13話
目が覚めた瞬間、アオイ・タチバナは目覚まし時計が鳴る前に、アラームのセットをオフにした。抱きかかえて寝ていた為、すっかり暖かくなったペットロボットのレイも、アオイの起床を感知して、にゃあ、と伸びをしてベッドから抜け出す。
窓の外は薄暗く、時間は五時三〇分。訓練学校時代で聞き馴染んだ起床ラッパが鳴るよりも、ずっと早い時間である。
だがそれも仕方のないことだった。アオイは九月一日付で、〝憧れ人〟が座乗する戦艦『アンドラス』のクルーとなるのだから。
訓練学校で苦楽を共にした友人たちは、何故左遷先にとか、危険な戦艦に乗るなんて、と反応は芳しく無かったが、それでもアオイは配属先に『アンドラス』を強く希望した。
「いよいよだね。レイ」
幼い頃、故郷のコロニーが《帝国》の侵略により、アオイを含め多くの市民の命と安全が脅かされた時、颯爽と現れたヒーロー。
ジョバンニ・シス大佐。年月の経過と共にその名前は、メディアから消え、人々の口からも聞かなくなってしまった。
しかしダゴン星系に住んでいた人は、絶対に忘れない英雄の名前。
「私、今日からアンドラスに乗るんだ!」
ダゴンの市民を救った英雄が指揮する戦艦に乗る。それは、アオイの人生における大きな目標の一つだった。
瞼を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。
簡素なプレハブ小屋で避難生活をしていたアオイたちのもとに、大量の支援物資と子供たちの為に、と玩具を届けてくれたジョバンニの事を。
一人ひとりに手渡しで、綺麗な、と言うには無骨な、しかし、此方まで笑ってしまいたくなる素敵な微笑みを添えて、プレゼントの入った箱を手渡してくれた。
今アオイの足元ですり寄って甘える仕草をしているレイは、その時に譲り受けたものだ。
そこからダゴンの避難民の事を気にかけ、一〇年の間、ジョバンニはアオイたちと交流を続けてくれている。
そんな彼とこれから轡を並べられるのだ。興奮しないわけがない。
「ジョバンニさんや皆のサポートが出来るように頑張ろうねッ!」
アオイの言葉を理解しているのか、レイも同意を示すように一鳴きする。
白銀のメタルカラーなレイは、外見こそ子供の玩具だが、中身はアオイが幾度となく改良を加えた結果、一五歳を迎えた少女が持つには過ぎた性能を有していた。
部屋の扉の方を見て、一鳴き。シャワーを浴びて身嗜みを整えろ、と言っているらしい。
まるで自分の方が、姉か何かだと思っているレイの姿に苦笑いつつも、アオイは寝癖でも乱れた髪を直すため、まずはレイの言う通りに、浴室へと向かうのだった。
人類がまだ地球上で生活し、低軌道上でしか宇宙ステーションを建設できなかった頃、往還するスペースシャトルと、宇宙ステーションはまさに〝ドッキング〟という方法で人や物資のやり取りを行っていた。
その旧時代の名残からか、スペースコロニーの港をただ「港」と呼ぶのではなく、ドッキングベイと呼ぶようになった。
要は大昔にその地方を支配していた人物の名字が、そのまま土地の名として定着したり、会話や行動がことわざなどになったりするのと一緒だ。
物事には歴史や筋道がある。だから言葉であれ物体であれ、時代に合わせ加工されて、未来へと繋がっていく。
何事にも歴史を紐解けば、理由や理屈が詰まっているものなのだ。
しかし今回のスペースコロニーへの入港は、どうにも理屈が見えてこないとナスターシャ・マイは感じていた。
現在『アンドラス』は『クー・リトル』というスペースコロニーに寄港している。
大小、八つあるスペースゲートの内、軍港となっている最も巨大なゲートを潜り、今は無重力を利用したスペースポートで防疫検査を終え、物資の搬入作業の最中だ。
重さにすれば数百キロ、トンにもなる物資をプチギアの愛称で呼ばれる作業用重機が、無重力の海の中を泳ぎながら、『アンドラス』の中へと搬入している。だがナスターシャは知っている。この船が乗せようとしている本命の積荷は別にあることを。
「艦長……本当に彼女を?」
ナスターシャは手元にあるノートパッドを見やった。そこには地方の訓練学校を卒業したばかりの少女の写真や、各種の成績を収めた資料が映し出されていた。
名前はアオイ・タチバナ。学業成績は平均。運動は上位に入るが、特筆するほどではない。
強いて目を向けるなら、機械工学を専攻していたことだろう。特技は機械修理とあり、学校では色々と備品の修理を行っていたらしく、教諭たちのウケは良かったようである。
ナスターシャの目には、このノートパッドに映る少女は、ごく普通としか形容できない。だのに『アンドラス』艦長であるジョバンニ・シスは、軍の関係各所に推薦という形で根回しまで出して彼女を欲したのだ。
更にそれだけに留まらず、今こうしてアオイを『アンドラス』で迎えに来ると云う、贔屓と呼ぶ事も憚られる破格の扱いである。誰がどう考えても、これはおかしい。
「不満か?」
「いいえ」
小さく頭を振ってから、ナスターシャは言葉を継いだ。
「艦長がこれまでに引き取られた者たちは、皆、優秀な者たちでした。このアオイ・タチバナ伍長もきっとそうなのでしょう」
たっぷりと含みを持たせた副艦長の言い回しに、ジョバンニは指の腹で顎をかいた。
ナスターシャが『アンドラス』の副長職に付いてから、ジョバンニがこうして、軍が敷いた規則から外れた方法を用いる姿は幾度となく目撃していた。
上官を殴り飛ばし独房に入れられていた整備兵。反政府組織の首魁を親に持つパイロット。高すぎる能力のせいで上官や同僚からやっかみを受け、配置転換となった者。
そんな一癖も二癖もある少女たちをジョバンニは、どこからか情報を嗅ぎつけ、嬉々として引き取っていくのだ。
もう何度も見てきたことだ。新米整備兵一人が『アンドラス』に乗艦したところで、トラブルの種が一摘み加わった程度である。今更一体なにを不満に思えというのだ。
「だが君はそう思っていない」
飄々とだが重い声に、ナスターシャの眉が一瞬だけ動く。
「嫌われ者が排斥されるのは、道理があってのことじゃない。いつだって何処かの誰かによる都合だ。ナスターシャ、君にだって身に覚えのある話だろう?」
「……」
「だが、アオイ・タチバナは違う。彼女はまだ誰の不都合にもなっていない」
氷の副艦長と恐れられているナスターシャの怜悧な表情は、何人であれ、彼女の心を読み解くことを許さない。
だがここにいる唯一人の例外が、飄々とした声でナスターシャの端正な顔の裏に隠していた不満の虫を的確に暴いていく。
「私や君、他のクルーも『アンドラス』という終着点に辿り着く前から、ジョバンニでありナスターシャだった。だが彼女は違う。タチバナ伍長は、今から始まる人間だ」
「……いきなり『アンドラス』に召集した事に、私が不満に感じている、と?」
「君は優しいからな」
さも他愛もない冗談であるかのように笑い飛ばすジョバンニだったが、ナスターシャは思わず目を伏せていた。
「……ご冗談を」
傍目には普段と変わらない氷の表情。だが本人は恥じらうかのように、なんと頬まで赤らめていた。
ただそんな彼女を見てもジョバンニは何の感慨も抱いてないと云った風情である。
「……」
会話が途切れたことで、軽くあしらわれたと受け止めたらしいジョバンニは、これで話の区切りは付いたと一度頷くと、次いで『アンドラス』のブリッジにいる他のクルーたちに水を向けるのだった。
「目標の搬入が終わり次第、このコロニーを発つ。航海長、宇宙灯台までの航海日数は?」
艦長と副艦長の会話を盗み聞きしていた一人であるソラ・コンバース航海長は、水を飛ばされた猫のように、慌ててコンソールに向き直った。
「は、はいッ。二〇日後の九月二一日となります!」
およそ十メートル四方のブリッジ。操舵、航法、砲雷を司る各座席に通信やセンサー要員の座席も加われば、その空間は思うほど広くはない。
艦内では年長組に属するナスターシャですら一九歳という若さである。況や彼女より年若いクルーたちが、興味本位に聞き耳を立てていたとしても仕方のないことだろう。
「ふむ……」
「艦長?どうかしましたか」
特にこれと云って特殊な航路を進むわけではない哨戒任務。『アンドラス』の航海図には、さしあたって危険とされる場所は表示されていない。だが。
「副長。予定航路付近にあるデブリ群だが、あの辺りが最後に掃除されたのはいつ頃か?」
航海長の報告に何かが引っかかるらしく、ジョバンニの表情は引き締まり、剣呑な面持ちになっていた。
「はい。記録によりますと、最後に行われた大掛かりなものは二年前となります」
大凡、二五〇年。《連邦》が《帝国》と邂逅を果たし、戦争状態となった年月である。
その膨大な時間は、戦争によって生み出されたスペースデブリが社会問題化させるには十分過ぎるものであり、その量は、〝主要な航路〟を塞ぐデブリを掃除するだけでも三〇〇年はかかると言われている。
そのため辺境の惑星やコロニーを結ぶ航路では、未だに多くのスペースデブリが滞留しており、そこを狙い宇宙海賊が密かにアジトを作ることもある。
ジョバンニは、万が一を警戒しているのかもしれない。
「そうか。藪から蛇が出ないと良いが」
そう心配する艦長の言葉に、ナスターシャは頭を振った。
「海賊とて暗礁宙域の観測を行っているでしょう。我々が近づけば捕捉される事は間違いありませんが、戦艦と殴り合える程の戦力がなければ、彼らはまず逃げ出します」
「では、殴りかかってくるような戦力を保持していたら?」
「それほど大規模な海賊団となれば、噂の一つぐらい立つはずです。しかしそういった報告は、データベースにも上がってきていません」
現在の銀河連邦軍の常識に照らし合わせれば、ナスターシャの言葉は至極真っ当なものだった。加えて彼女は『アンドラス』で何度も海賊と戦ってきた経験がある。宇宙海賊の規模や性質がどういったものかは、ナスターシャとて熟知している。
いや、だからこそ普段と違う上官の態度に、予感めいたものを感じた。嵐の前の静けさのような、〝何か〟が起こる前兆のようなものを。
「艦長、例の娘が到着したそうです」
外部との通信を行っていたキィ・クオート通信長の報告に、ナスターシャたちは視線をそちらへと向けた。
そんな中、ジョバンニは目標が来たと聞くや、艦長席から即座に立ち上がった。
「分かった。副長、暫くの間ブリッジの指揮を頼む」
「は……。は?」
言うが早いかジョバンニは、戸惑うナスターシャ達の様子など見向きもせずブリッジを出ていってしまった。
「か、艦長!?」
まるで人が変わってしまったかのような、あまりにも突発的な艦長の行動に、ブリッジ内のクルーは皆、唖然としている。
それほどまでに、アオイ・タチバナという少女が大切だとでもいうのか。
「……」
暫く間、気まずい沈黙が流れた後、最初に言葉を発したのはナスターシャだった。
「艦長の動向を追います。メインモニターに映してください」
「は、はい……」
本当に良いのかと周囲の反応を伺うクルーだったが、艦長代理の凍てついた表情を見て、慌ててコンソールを操作して、ジョバンニの姿をブリッジのメインモニターに映し出した。
搬入作業中のため、艦内のほぼ全域が無重力状態となっているため、廊下に設置されている移動用のリフトグリップに掴まり進むジョバンニの姿。
現在『クー・リトル』の索敵範囲内で戦闘が起こっていない為、無重力下での作業中ではあるが、スペースポート内は空気で満たされており、宇宙服を着用せずに、『アンドラス』の甲板に出ることが出来る。
「あん……ッか、艦長ッ?!」
搬入された部品の検品作業を部下と一緒に行っていたリラ・コルザ先任軍曹は、フレキシブルギア・デッキを横切って、甲板を目指すジョバンニの姿を確認するや、慌てて腰に巻いていた作業着を着込んだ。
タンクトップ一枚というラフな格好では、見られた時に色々とバツが悪い。
「あれ、本当だ。なんで艦長がこんなところまで?」
「さあ?艦長宛の荷物でもあったっけ?」
手に手に工具を携えて、FMGのコックピットや、プチギアの操縦席から顔を覗かせる整備兵たち。戦艦の主が自分たちの縄張りに入ってきたことが気になるのか、皆、艦長の行く先を目で追っていた。
壁を蹴り無重力の中を泳いで見せるジョバンニの姿は、人工・天然問わず重力に縛られた人間特有の危うさは微塵もない。むしろ艦長席に座っている人間とは思えない、現場で働いているかのような軽さがある。
「コラァ!お前ら手が止まってるぞ!」
元帥閣下よりも恐ろしいリラ軍曹のお叱りを受け、整備兵たちは天敵に追われた小動物の速さで、各々の作業へと戻っていった。
「ったく……。目を離せば直ぐにこれだ」
十代の少女ばかりで構成された『アンドラス』では、艦内で唯一の男性である艦長が姿を見せたとなれば、目で追いたくなる気持ちも分からくもない。
油の臭いや、人熱れ、加熱した電気コードの臭いで満たされた整備デッキでにすら、足繁く通い、整備兵たちを労ってくれる人物ともなれば尚の事だろう。
「しっかし、あんなに急いで外に行くなんて、一体何の用だ?」
整備デッキを抜け、甲板へ上がっていったジョバンニの背が、気に
ならないと云えば嘘になる。本心を云えば、リラも出来るなら部下たちのように、仕事の手を止めて、艦長が何をするのか覗いてみたい。
しかしそのような子供の振る舞いを許される立場にないし年齢でもない。なので必然とリラの取れる行動は大人のものとなる。
「ま、気になっている連中が、他にも見ているみたいだし、後で聞いてみるか」
リラがちらりと横目で見やったのは、整備用ハンガーからエアロックへと続く廊下。
そこには、この『アンドラス』の主戦力であるフレキシブルギアのパイロットたちの姿がそこにあった。彼女たちもまた、艦長の動向が気になるらしい。
問題児たちばかりが集まった『アンドラス』の中でも、ジョバンニが直々にスカウトしたとびっきりの問題児集団。
性格に重大な問題を抱えているわけではないのだが、『アンドラス』内部だけに留まらず、外部でトラブルが起これば常にその中心にいる連中。そんな彼女たちが、〝急いだ様子〟で、戦艦の外に出る艦長、という何かが起こりそうなイベントを逃すわけがない。
「……!」
案の定、ジョバンニの後を追い、猫のように動き出した者がいた。
好奇心旺盛な子猫のような女の子。軍に登録された年齢は今年で一八歳となるが、どう見ても十代前半な顔立ちと背丈のクロエ・ルニジアーノ軍曹である。
「コ、コラッ!止まりなさいクロエ!」
「バカバカ、よせって!」
制止する他のパイロットたちの手を振り切って、ジョバンニの後を追うクロエの動きは、まるで稲妻のように素早く鋭かった。
「えーいいじゃない。ちょっと覗くだけ」
そう言って外見によく合う小悪魔めいた愛らしい笑みを浮かべるクロエ。完全に自分の容姿を理解したあざとさを、あえて友人たちに見せ付けるのだった。
軍の支給品であるジャンプスーツにフライトジャケットという野暮ったい軽装も、外見に似合わぬコケティッシュな雰囲気を纏う彼女が着込むと、自然とそれがお洒落のように見えてくる。
「行くよダイ君!」
クロエがそう叫ぶや、鳥の声を模した電子音が整備デッキ内に響いた。
無重力を泳ぐクロエの後方から、バーニアの付いた金属の羽根で空を切り、猛禽類が獲物を狩る速度のまま飛翔してくるモノ。それは、鳥の形を模したロボットだった。
ダイと呼ばれた猛禽類を模したロボットは、手を伸ばしてきた主人の意図を汲み取り、自分の足をクロエが持ちやすいように折りたたむと、ハングライダーのような形となり、少女を目的の場所まで運んでいく。
もとより大空を飛翔する生物を模して作られたロボットであるため、ダイの飛行は空気で満たされた無重力の中でも安定したものだった。
赤い鳥は《連邦》軍内では不吉の象徴とされている為、赤色というよりも、ピンク色に近い塗装を施されたダイは、整備デッキを桃色の風となって、甲板へと躍り出た。
「あはは!ソラが広い」
クロエの腰まで届くプラチナブロンドの髪が流星のように尾を引き、無重力が少女を艦橋よりも高い位置へと浮かび上がらせる。
全長四〇〇メートルもある『アンドラス』が、豆粒ほどの大きさに思えるほどの広大な、無重力工業区画。ドッキングベイと繋がる工業用プラントにも、資源輸送船の発着ポートが備えられており、往来する船便が瞬かせる航宙灯が、まるで蛍のようにお互いの存在を教えあっている姿が遠目からでも確認ができた。
「んー……と。ジャンニは……」
人間や小型重機が小指の先ほどの大きさに見える距離からでも、フレキシブルギアパイロットであるクロエの眼であれば、目標が視界の中にいるのなら捉えることは容易い。
「う、ん……?」
標的となっているジョバンニも苦も無く見つけ出せた。だが、どうにも面白くない場面に出会してしまったらしい。
「なに、あの娘……?」
思わず付いて出た声の中に、女の薄暗い情念の色が滲んで出た。
まず白銀の猫型のペットロボットが、ジョバンニの胸に飛び込んだ場面が、クロエの目に飛び込んできた。次いでペットロボの所有者だろう少女が、慌てた様子で、申し訳無さそうにネコ型のペットロボットを艦長から引き剥がしている。
それはいい。ペットロボットが、友人登録した者と一〇日以上の間隔を開け、再会を果たすと取るプログラムされた行動だし、よくある光景だからだ。
問題はペットロボットが、ああいった親しげな行動を取るには、ユーザー登録をするか、友人認証されるだけの長い時間、主人と会話したり行動を共にしている場面をロボットが目撃している必要がある。
つまりいま艦長からペットロボットを引き剥がしている少女は、それだけ長い時間、ジョバンニと一緒にいたことを意味するのだ。
四年前の誕生日の時に、ジョバンニから手渡されて以来、肌に馴染むほど抱きしめてきたペットロボット。一〇年以上前に発売されて、今では製造元でもアフターサービスを中止してしまった絶版商品。
壊れてしまえば自力で修理するしか、直す方法はないのだが、猫型のペットロボはまるで新品同様に磨かれ大事に扱われているようだった。
本当なら同じシリーズのペットロボットユーザーとして、どういったメンテナンスを施しているのか、バージョンアップを重ねているのか、聞き出して仲良くなってもいいと思う所なのだが、今のクロエにその発想は無かった。
ジョバンニがまるで貴人を道案内する従者のように、少女の左側を半歩遅れながら歩き初めて、『アンドラス』の中へ案内し始めたからである。
「……ふーん。随分と大事にされているのね」
艦橋よりも高い位置からジョバンニたちの様子を観察していたせいで、詳細な表情の変化まで見ることは叶わなかったが、それでも艦長が敬意をもって少女に接していたことだけは読み取ることができた。
傍目に見れば、ジョバンニがとても紳士的に少女をエスコートしているように映るのだろうが、それを目撃したクロエ。そして艦長の動きをブリッジから観察していたナスターシャの両名の目には、酷く不愉快なものとして映ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます