死んだなら付き合ってよ!

 いやいや、今のは、何のはぁーー?

 何だよ。

 まったく。


「つうか、約束したじゃん!来世では付き合ってくれるって」


「いやいや。まだ、俺、来世じゃないし。まだ月森碧だし」


 確かに、来世ではない。


 まだ、月森君だ。


 でも、そんなの関係ない。


「はぁーー?月森君、死んだらって言ったじゃん。覚えてないの?」


「それは、覚えてるよ!確かに言った。死んだらって……。だけど、それは随分前の話だろ?今の星宮と俺は、もう40しじゅうだぞ!あれは、高校生の時の話で」



 月森君は、また高校の時の話だからと言ってくる。


 腹立つ。


 むかつく。


 自分だけさっさと前に進んで。


 私は、その言葉を信じて今日まで生きてきたのに……。



「えっ?何。星宮って今まで誰とも付き合って来なかったとか?」


「んなわけあるか!!自惚れんな」


「何かキャラ変わってないか?星宮」


「変わってねーーから」


「つうか、何かめちゃくちゃ怒ってない?」


「怒ってない」



 イライラしながら、私はコートを着る。


 今日は、2月14日、バレンタインデー。


 何が悲しくて、好きな人のお墓に何か行くんだよ。


「星宮、今日バレンタインデーって知ってた?」


「嬉しそうに笑うなよ」



 私は、マフラーを巻いて、鞄を持ってさっさと外に出た。


「鍵ちゃんと閉めろよ」


「わかってる」


「忘れ物ないか?」


「ない」


「火は消したか?」


「つけてない。つうかさっきから何?お母さん?」


「ハハハ。お母さんって。どっちかってゆうとお父さんだろ?」


「いや、そんな問題じゃないし」




 高校の時もこれぐらいフランクに話せていたら月森君は私を少しでも好きになってくれていたのかな?


「手袋してないと寒いんじゃない?」


 月森君は、私の手を握ってこようとする。


「いや、月森君に繋がれたらもっと寒いわ」


 そんな事されたら、月森君が死んだの受け入れなくちゃならなくなるじゃん。


 だから、やめてよ。


「だな。ごめん、ごめん。つい、人肌が恋しくなっちゃてさ」


「ついじゃねーーよ。私達、付き合ってないんだからな!それ、セクハラだかんな」


「わかってる、わかってる。あっ、人が通るから静かに、静かに」



 月森君の言葉に前を向くと、サラリーマンの男性が横を通りすぎるて行く。


 生きてる人間だったら、普通に喋れたのに……。



「ってか、死ぬなら付き合ってくれてもよかったじゃん」


 聞こえないように、私は小さく呟いた。


 どうせ死ぬなら、私と一度でも恋をしてくれたってよかったのではないか……。



「そうだな」


「えっ?」


「死ぬ前に星宮の事、思い出した。で、何かわかんないけど会えた。死ぬなら、星宮と過ごせばよかったのかもな。いや、過ごしたかったのかもな、俺……」



 えっ?


 何、この状況。

 

 今、告白されてる?


 これって付き合ってくれるって事だよね?



「それって私と付き合いたいって事?」


「いや、それは違う」


「はあーー?何でだよ!!」



 あからさまにガッカリした私の手を氷みたいな月森君の手が優しく握りしめる。


「付き合いたいとは違うけど、星宮と生きたかったってのは本当。卒業する時に何で新しい番号教えてくれなかったの?俺、何度も星宮に連絡したかったんだぞ」


「私を好きじゃないのに?」


「好きじゃなくても、友達では居たかったよ!星宮って、めちゃくちゃ面白かったじゃん。周りが遠慮して言わない事もさらっと言ってきたりしただろ?」


「そうだったっけ?」


「そうだよ。だから、あの日も星宮にズバッと言われたかったわーー。希子と優雅の話してきたみたいにさ」


 あの日……?


 あの日って月森君が死んだ日の事?


 希子と優雅……。


 あーー、告白した時に言った言葉か……。


「ってか、手握んなよ」


「あっ、ごめん、ごめん」



 月森君は、手を離してくれた。


 もしも、その日私が死なないでと言ったら、死なないでいてくれたの?



「電車に乗って、三駅。ここからバスだったはずだな。ってか、星宮スッピンじゃない?」


「えっ、あっ、あーー」


 途中で止まって、鞄を漁る。


 取り敢えず、眉毛だけでも書かなきゃ!


「ここで?」


「電車乗る前にかかなきゃ!」


 端に寄って、小さな手鏡を取り出して眉毛を書いた。



「スッピンでも可愛いのに」


「その気もないくせに褒めるなよ」



 月森君は、またもや消えそうになる。


「も、もう、行くよ」



 消えて欲しくない。


 だって、一緒にいれるんだもん。


 高校の時、あんなに望んだ願いが叶ってるんだもん。


 月森君の隣にいるんだもん。


 あの頃は、ずっと。


「碧ーー。髪の毛に花びらついてる」

「うわーー、ありがとう。桜じゃん!春やなーー」

「時々出す関西弁やめなって」


 いつもいつも、三村さんが月森君の隣に居た。


 幼馴染みってだけで、月森君に触れて笑って、視界に入って……。


 ズルいって思ってた。


 私だって、月森君に……。



「星宮、涙って掴めるんだな?」


「えっ……」


「星宮が泣いてるから拭ってやろうと思ったら、何か掴めた」


「やめてよ!セクハラ」


「これもか?」


「もういい」


 月森君の言葉で現実に戻される。


 例え、幽霊であっても、今の月森君の視界に入っているのは私だ。


 それに、今の月森君が触れられる人間は私だけなのだから。

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