第3話 酒

「先輩、もっと飲んでくださいよ」と沙也加。


「もう無理だって」と徹。


 沙也加は徹の脇にぴったりとくっついて座り、徹の杯に酒を注いだ。


「先輩、全然飲めるじゃないですか」と沙也加。「飲めないって噓ついて、ひどいじゃないですか」


「沙也加ちゃん、酔ってるの?」と徹。


「沙也加は酒乱です」と礼子。「今日は先輩が相手をしてください」


「とにかくその盃を開けてください」と沙也加。「開けないと私が口移しに飲ませますよ」


「冗談でしょ?」と徹。


「いつもやられてます、私たち」と礼子。


「ほら、飲んだよ」と徹。


「飲んだから何よ」と沙也加。


「いや何って」と徹。「沙也加ちゃんにお酌してほしいなって」


「なあんだ、先輩」と沙也加。「飲みたいんじゃないですか」


「そうだね」と徹。


「一気にどうぞ」と沙也加。


「いや、もうそろそろ無理だから」と徹。


「礼子、先輩を後ろから押さえつけて。私が口移しで飲ませるから」と沙也加。


「飲んだよ、ほら」と徹。「おいしいお酒だね」


「先輩、潰れたら私が介抱してあげますから心配しなくていいですよ」と沙也加。


「ありがとう」と言いながら徹が大きなあくびをした。「もう寝てしまうよ」


「そろそろ由佳先輩を呼んできて」と沙也加。


 礼子が席を立った。



 三年生の立花由佳が大きな尻を徹と沙也加の間に押し込んだ。


「これ、徹君?」と由佳。「ほんとうにべろべろに酔ってる。」


「お酒に弱いそうです」と恵美。


「無理に飲ませちゃダメじゃない」と由佳がおかしそうに言った。


「無理になんて飲ませてません」と沙也加。


「私も一緒に飲みたかったわ」と由佳。


「まだ飲んでますよ」と沙也加。


「もうすっかり出来上がってるじゃない」と由佳。


「狸寝入りです」と沙也加。


「うそでしょ」と由佳。


「試しに、服を脱がせてあげるって、耳元で言ってみてください」と沙也加。


「徹君、私よ、由佳よ」と由佳が耳元でささやいた。「酔ってるみたいだから、服を脱がせて寝かせてあげる。」


 徹が驚いてがばっと起き上がった。


「あ、ほんとうだわ」と由佳。


「由佳先輩」と徹が泣きそうな顔をした。


「徹君って酔うとそんな顔するんだ」と由佳が徹に抱きついた。


「何女子だけで盛り上がってるの?」と隣のテーブルの男子たちが声をかけてきた。


「何でもないわ」と沙也加。


「沙也加ちゃん、俺たちと飲まない?」と山田。


「結構です」と沙也加。「今、大事な話をしてるから」


「大事な話って何だよ?」と高田。「俺たちも混ぜて」


「だめよ」と由佳。「今、恋バナしてたの。男子は入れてあげない」


「由佳先輩もいたんすか?」と山田。「俺、そっち行きます」


「あっち行きなさい!」と由佳。


「男子もいるじゃないですか?」と山田。「だれですか、この潰れてるの」


「徹君よ」と由佳。


「池下?なんでまだいんの?」と山田。「すぐに飲み会から追い出すって言ってたのに」


「おい山田!」と沙也加。「どういうことだ!」


「おまえたち聞いてなかったのか?」と山田。「みんなで池下をシカトしろって。そうすれば出て行っちまうはずだって。」


「誰が言ってたの、そんなこと」と由佳。


「今日のミーティングのあと、部長と副部長が」と山田。「先輩いなかったんすか?」


「ふうん、私も仲間外れってことね」と由佳。


「なんでそんなことするのよ!」と沙也加。


「お前も知ってるだろ。OBの先輩たち、池下のことすごく嫌ってるんだよ」と山田。


「だから何よ。この会はもともと徹君の慰労会として企画したのよ」と由佳。「それなのにどういうこと?」


「俺は知りませんよ。そんなことまで……」と山田。


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