第2話 沙也加

 沙也加に手首をつかまれて、徹は宴会の座敷に戻ってきた。沙也加は自分の友達の恵美と礼子のいるテーブルまで来て、掘りごたつの席に徹を座らせた。


「本当に徹先輩を連れて来たんだ」と恵美。


「すぐに熱燗を4人分注文して」と沙也加。


 すばやく礼子が立ち上がってウエイターを捕まえて注文を通した。


「また帰っちゃうところだったのよ」と沙也加。


「だからってここに連れてこられても、先輩迷惑そうだよ」と恵美。


「そんなことないわよ」と沙也加。「先輩、うれしいですよね。」


「ああ、まあ」と徹。


「相変わらず強引ね」と恵美。


「先輩、お酒が届く前に何か食べてください。このお魚おいしいですよ」と沙也加。


礼子が新しい割り箸を徹に渡した。


「私が食べさせてあげましょうか?」と沙也加が箸を手に取った。


「いただくよ」と徹は慌てて割り箸を割った。


「飲む前に食べておかないと、お酒が早く回りますよ」と沙也加。


「先輩、何も食べてないんですか?」と恵美。


「ちょっとは食べたよ」と徹。


「突出しとサラダだけでしょ」と沙也加。


「OBの先輩に囲まれてたら、遠慮してしまいますよね」と恵美。


「そうだね」と徹。


「お酒が来ました」と礼子が熱燗をテーブルに並べ、お猪口を配った。


「先輩どうぞ」と沙也加が徹のお猪口に酌をした。


 四人がそれぞれの杯を持ち上げて、「乾杯」と言った。


「真夏の熱燗も悪くないわ」と沙也加。


「ここ、クーラーが効いてるから」と礼子。



「それで先輩、このクラブを辞めるんですか?」と沙也加。


「うん。夏までの約束だから」と徹。


「止められたらどうします」と沙也加。


「それはないよ。ぼくは疎まれてるから」と徹。


「先輩のおかげでここまで勝てたのに」と恵美。


「だけど、山本君が復帰するから」と徹。


「先輩、辞めたらどうするんですか」と沙也加。


「のんびりするよ」と徹。


「ゲームが嫌いなんですか?」と恵美。


「ゲームは好きだけど、義理で参加させられる練習が嫌なんだ」と徹。


「先輩って主力なのに雑用ばかりさせられてますからね」と恵美。


「下級生だし、よそ者だし、仕方がないよ」と徹。


「この飲み会だって、もともとは先輩の慰労会だったのに、OBの人たちが勝手に祝勝会にしたんですよ」と沙也加。


「え、そうだったの?」と徹。

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