ジンガイチの宴会
金谷さとる
魔王様はたたかわない
「短命の行商人、面白かったわ。黒風の」
「ちゃんと町に持って帰る食糧をキープしておひねりもらってったなー」
「あ、森。この揚げパン追加あるかー?」
「ちょっとにゃーにゃーうるせーぞぉ」
ジンガイチの常連達が揚げパンつまみながら駄弁っている。
「でさぁ、」
「そうそう」
「なんで粉が鳴くんだよ」
「なんで油の鳥が植物で粉が動物なんだよ」
行商人の前ではコイツら『ふつーふつー』と誤魔化し続けたくせに実は気になっていたらしいぞ。見栄っ張りめ。
「小麦粉じゃねぇだろ。得体の知れないナニカだろ」
そして何気に追及が厳しい。
だからといっても食わないわけじゃないらしく、追加をリクエストしながら他の屋台飯と一緒に食い続けている状況だ。
いくつかの出店は店じまいして広い空間を維持した宴会場と化している。
「ナキゴナは鳴きますよね。まおー様」
嬉々としてうちの四天王のひとりが主張する。周囲は微笑ましく見守っている。俺にはなまぬるい視線を向けてくるけどな!
「小麦粉ってことはコムギちゃんの抜け毛でしたっけ?」
「そだな」
俺らの会話に何人かが「抜け毛!」と声をあげた。まじまじと揚げパンをみる。
「なぁ、その個体健康状態は?」
揚げパン(アレンジ)を追加している森が問うてくる。
「ん。最近はいいんじゃないか? 手入れされて出来上がる粉の品質は着実にあがってるし」
手元でにゃーにゃーうるさいのによくこっちの会話も聞こえるものである。
「へぇ。もう少し品質が良くて量があるなら取引してもいいな。寿命と収穫量に問題は?」
鳴粉を気に入ったらしい森が生地を油に落としながら確認をとってくる。
野次馬連中は「まぁ、美味いもんな」と森の発言に疑問はないらしい。
「ま。黒風のとこのモンがおかしいのは今にはじまったことじゃねぇし」
「それなー」
「そうですねー。まおー様の成果にはいっつもびっくりさせられてますぅ」
四天王。そこにまじらないの。
「アレ、俺の作成物じゃないけどな」
「人事もまたまおー様の成果ですよぉ」
無垢ににっこぉと笑う少女にまわりの空気が弛緩する。
「おじょーちゃん、気を使わなくていいんだぞ」
「くぅ、かわいいね。イジメられたらいつでもおいで」
「お菓子あげよう」
「薄布のリボンはどうかな?」
どうも、イチの常連組にかわいいと認識されてしまったらしくちやほや可愛がられている。
いや、確かにウチの癒し枠ではあるんだけどな。
「イジメてないから勧誘するんじゃねぇ」
「よーし、争奪戦はじめるかー」
「しねーよ」
「ばっとる! ばっとる!」
「腹ごなしに遊ぼ〜ぜ」
短命の行商人を出発させてイチを半端に片付けているとは思ってたんだ。だいたいこのジンガイチに来る連中は暇を持て余しているのが多いから見せ物をみんな求めている。
あと発表の場、かな。
「わぁ。まおー様の戦闘が観られるんですかぁ?」
ウチの四天王がキラキラの眼差しで俺を見てくるんだが?
「フィアナちゃん、まおー様がお洗濯物手伝ってくださったり、木馬塗装しているところや憧れの姫さまに注意されているとこは見てますが、戦闘しておられるとこはありません」
キラキラした眼差しで何を口走っているのかな。ウチの四天王。
「庭の手入れをしているところは?」
「あ! 日常過ぎて」
照れたように四天王の少女フィアナが笑う。
「戦闘職じゃねぇからな。戦闘するなら代行呼ぶって」
野次馬連中からブーイングが飛ぶ。
知るか。
「お、副官ちゃん?」
「呼ぶか!」
なんで恋人に戦わせるんだよ。ふざけんな。
「ひよ」
ウチの連中基本的には呼べばすぐ来るんだがマジ即来るんだよな。魔力召喚しているってわけでもないのに。
「おー。ひよくんですねー」
上空に現れた大きな鳥。
はえぇよ。
フルサイズだと軽くジンガイチ会場を覆い尽くすので下降しながらサイズ調整している。
青いトリの降臨である。
無意味に神々しい。
「アルジ、遊び時間?」
こきゃっとひよが首を倒す。
トリの乱闘を見ながら揚げパンを摘む。
フィアナも揚げパンを両手で抱え込むように持ちながらにゃーにゃー鳴かせながら食べている。
まぁ楽しそうでなによりだ。
「お。肉がまざってる。味変大事だよな」
「やっちゃえ。ひよくん! ぶちのめせー」
俺は平和主義の魔王なんだがウチに所属する連中の多くは戦闘中毒だと思う。
フィアナも戦闘職ではないからちゃんと護衛は考えておかないとなぁ。
ジンガイチの宴会 金谷さとる @Tomcat
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