第2話

二人が初めて会ったのは、村の近くにある川のほとりだった。

 水辺に座り、鈴は足を川につけてぼんやりと空を眺めていた。


<font color="#4682b4">「おい、何してるんだ?」</font>


 男の子が鈴のそばにやってきて、声をかけた。

 二つ年上の彼は大柄で、鈴には実際以上に大きく見えて、少し怖かった。


<font color="#4682b4">「悪い。驚かせたか?俺の名前は彦佐。おまえは?」</font>


 はつらつとした顔とハキハキした口調と声で、彦佐は挨拶した。


 その日から、二人は友達になり、毎日、その場所で会うようになった。

 けれど、ある日から彦佐はその場所にこなくなり、鈴をいじめるようになった。

 村の地主の息子だった彦佐は、村の男の子たちを子分のように引き連れて、鈴を見掛ける度にからかい、意地の悪いことを言って来た。

 やがて、彦佐を真似して、他の男の子たちもこぞって、鈴をいじめるようになった。

 おかげで、彦佐が鈴に構わなくなってからも、男の子たちは鈴を放っておいてはくれず、鈴の子供時代は陰欝な思い出に占められている。

 そして、今でもそれは変わらない。男の子たちが成長した分、昔のように頻繁にからかわれることはなくなったけれど、やはり鈴は浮いていた。

 相変わらず鈴を蔑むように見て、笑いながらからかいの言葉をかけてくる者もいる。

 そういう相手は、大人になった分、始末が悪い。

 鈴は何度も嫌な思いをしてきた。


 彦佐は誰よりも早く、鈴に構わなくなったが、彼が始めた遊びはまだ終わっていない。

 それに、構わなくなってからは、そこに鈴がいることすら目に入らないような振る舞いをしてきたくせに、いきなり鈴を買い、手元に置く。

 何を考えているのか、全くわからない。

 地主である先代、つまり彦佐の父親が早くに亡くなったため、彼は若いうちに地主となり、村人たちの為に働き、慕われている。

 彼に買われた鈴を、誰もかわいそうだとは思わないだろう。両親ですら。


<font color="#4682b4">「素直になれ。こうして、毎晩可愛がってやってるんだ……本当は、欲しくてたまらないだろう?」</font>


 性的優位を誇示しながら、鈴をおとしめる彦佐が憎い。


 彦佐なんて大嫌いだ。


 キュッと唇を噛んで、彼をめつける。彦佐は動じることもなく、鈴を見つめ返す。黒い瞳に感情は映らない。

 物憂げに彼が動いて、一息に鈴の中に入ってきた。


<font color="#cd5c5c">「………っ!!」</font>


 衝撃に身体が引き攣り、声が喉元まで出かかったのを飲み込んで、鈴は耐えた。

 ゆるゆると抜き挿しされる、彦佐の熱い昴まり。


<font color="#cd5c5c">「ふ、う……く……」</font>


 震えながら、彦佐の与える強烈な刺激に耐える。今まで、一度も耐え抜けたことはない。

 それでも、屈したくない気持ちは変わらない。

 女に慣れている彦佐には、男を彼しか知らない鈴など赤子同然なんだろう。すでに、このひと月で彼女の身体を知り尽くしているに違いない。

 どこをどうすればいいか、彦佐はわかっていて、鈴がそれを嫌がっているのも知っている上で、彼女の弱い所を執拗に攻め、陥落させる。


<font color="#cd5c5c">「ふ…ぅ、ん……んっ、うく……」</font>


 手で口を覆い隠し、声が出ないように歯を食いしばる。

 それでも、零れてくる自分の声に悲しみが溢れてくる。

 仕方ない。そう諦めようと思いながら、慰みものとして生きるのがつらい。毎晩、彦佐に玩具のように扱われるのがつらい。

 それで、感じてしまう自分の身体が憎くて堪らない。頭がおかしくなりそうだ。

 いっそ、このまま狂ってしまえたら、どんなにいいだろう。

 頭のおかしい女など、彦佐は興味がないだろう。鈴が嫌がるのが、つらいのが面白いのだろうから。

 閉じた瞼の裏がチクチクする。涙が溢れてくるのは、彦佐によって高まった身体のせいだ。


 悲しくなんかない。傷ついたりしない。

 この行為に意味なんかなくても、愛が伴わなくても平気だ。


 これは、家族のため。家族のために、やらなくてはいけない自分の役目。


 ただ、それだけの……。


 逞しい身体に組み敷かれて、絶え間無く身体の奥まで淫されながら、鈴は強く目をつむる。

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