一緒に、ね。
ツキヨノコシシ
壱 彦佐と鈴
第1話
村で一番の悪ガキ大将が、気がつくと、村一番の女たらしになっていた。
日に焼けた逞しい身体と、男らしい整った顔立ち。それに、尽きない女の噂で、年頃の娘たちの関心を独り占めしている青年。
子供の頃、よくいじめられていた
率直に言えば、嫌いかもしれない。とにかく、彼には関わりたくない。関わるとろくなことがないというのが、経験から学んだ結論だった。
<font color="#4682b4">「おい」</font>
不満そうな低い声に目を上げると、声と同じように不満そうにしかめた顔があった。
<font color="#4682b4">「辛気臭い顔するの、やめろ。俺まで気が滅入る」</font>
<font color="#cd5c5c">「それは、どうもすみませんでしたね」</font>
溜め息まじりに、たっぷり彼の嫌いな辛気くささを放ちながら、鈴は返す。
だいたい、そうさせているのは、彼のせいだ。
<font color="#4682b4">「可愛くない女だ」</font>
彼、彦佐が鈴を組み敷いた体勢のままで呟く。
着物の裾を割り、足首を掴んで広げると、肉づきのいい足を撫でながら、付け根に指を這わせる。
<font color="#4682b4">「ここは、素直で可愛いのにな…」</font>
すでに濡れそぼった割れ目を巧みに指で愛撫してくる彦佐に、鈴は呻き声をあげて、羞恥に頬を染めた。
<font color="#4682b4">「気持ちいいんだろ?こんなに濡らして、欲しがってるくせに」</font>
<font color="#cd5c5c">「う…う……」</font>
節くれだった太い指が、淫口の周囲を撫で上げ、つついて、蜜を吐き出して開いたそこに素早く侵入してくる。
<font color="#4682b4">「
彦佐は、鈴の羞恥に染まる顔を見下ろしながら、口元に大きな笑みを浮かべる。
<font color="#4682b4">「欲しいってさ」</font>
屈辱感と羞恥に身を染めながら、鈴はギュッと瞼を閉じて、荒れ狂う感情を隠した。
ひと月ほど前。彦佐は鈴を自分のものにした。美人でも、床上手でもない、生娘の鈴を抱いた理由は一つ。
“代償”だった。
鈴の家は貧しかった。もともと、村の中でも貧しい家だったが、昨年の不作で貧しさは極限に至り、両親は地主である彦佐に代償として、娘を差し出した。いわば、生贄も同然だった。
弟妹もまだ幼く、鈴自身、以前から家族の為に身売りするべきなのかもしれないと考えてもいた。
ただ、そうする為の覚悟が出来なかった。家族の為とはいえ、遊郭に身を売るのを本心から望む娘はいない。
両親に言われた時は、覚悟していたとはいえ、ショックを隠せなかった。
鈴を売った代金で、地主である彦佐に溜まりに溜まった未払いを返済することを決めた両親を責めることは出来ない。
鈴は、ただうなずいて、己の運命を受け入れようとした。
生まれつき、色素が薄い体質だった鈴は肌が白く、髪も瞳も黒というより淡いべっ甲色のように明るく、そのせいで散々いじめられてきた。
幼い頃から刷り込まれて、すっかり自分の外見に自信を持てなくもなっていた。
身売りしたところで、たいした額にはならないだろうが、それで家族の生活の足しになるなら……。
そう思っていたが、ある日、鈴の両親に娘を売ったことを聞かされた彦佐がやってきて、交換条件を出して来た。
女郎屋に代わって、鈴を買おうと言うのだ。
両親は、これを受け入れた。
断れるはずもない。相手は地主なのだから。
結局、身売りには変わらない。
たくさんの男の相手をするよりは、マシなんだろう。
だが、彦佐の考えていることがわからず、鈴は当惑した。
罪悪感?それとも、気まぐれ?
子供の頃、いじめていたように、今度はもっと残酷な方法で痛めつけるため?
彦佐を、鈴は恐れていた。近づけば、傷つけられる。
だから、出来るだけ近づかないようにしてきた。
最初は優しい男の子だと思ったのに。
彦佐のことを考える度に、無邪気に彼の言葉を信じた幼い頃の自分が、いかに愚かだったか思い出す。
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