曲がり角イントロダクション
第1話
平日の午後。時刻は夕方前。学校が終わって下校した、放課後の出来事。
舞台は日本列島の本州、太平洋側にある地方都市、そよ吹き市。温暖な太平洋側気候で、海に面しているだけでなく、市内の半分以上が森林地帯。要は山地なので、海からも山からも恩恵を受ける、自然の恵み豊かな街だ。
雨は多い方だが、雪があまり降らず、積もることは稀で、温暖な過ごしやすい土地というのもあり、そこに住んでいる市民の気質も穏やかで、のんびりしている人が多く、保守的だとよく言われる。
ここは、その市街地。市内のターミナル駅でもある、そよ吹き駅から七、八分歩いた場所。そよ吹き市の旧市役所、十数年前に近隣の市町村と合併してからは「中央区役所」となった庁舎の、すぐそばにある繁華街。
現在は城跡公園になっているが、昔は緑風城という平城があり、当時の主要な街道が通っていたこの辺りは、城下町だった。その名残もあり、升目状に細い道が走っていて、大通りの喧騒から隔離されたような雰囲気がある。
ほんの少し、二、三分も歩けば、途切れることなく車が行き交う騒々しい大通りにすぐに出られるが、一歩入ると静閑……とまでは言えないが、賑わいは感じるけれど、落ち着いた雰囲気だ。
車両の進入禁止区域ではないとはいえ、休日には歩行者天国になるようなところで、道幅はかなり狭いし、わざわざ通る必要のない区域なので滅多に車は通らず、人通りは多いのに、車は通らないという場所だった。
そんな、平日もほぼ歩行者天国同然の区域には、昔から続く老舗の本屋や呉服屋、お茶屋から宝石店、ホテル、お洒落な雑貨店、シューフィッターのいる靴専門店、飲食店はファストフードから高級レストランまで、あらゆる種類の店が並び、百貨店も多く点在している。その為、一年中、一通りは絶えない。
その一角で、濃紺のブレザーに、男子は白いシャツと
男子は襟の部分のフラワーホール《襟穴》に、女子は左側にある胸ポケットに着けられた、
「あ……ありえね~!」
半笑いしながら、男子高校生が言う。
「ありえなくないよ!」
即座に言い返す、女子高生。
「いやいや。普通、ありえねぇっしょ~」
「……なんでよ?全然、ありえるよね~?」
「……いや。いや、いやいや~!どう考えても……普通はないだろう!うん、ない。やっぱ、ありえね~って。
理解できないとばかりに「うーん」と唸る男子高校生の髪色はハイトーンカラーで明るくしてあり、束感と動きのあるニュアンスパーマをかけた無造作なショートヘアが似合っていた。
前髪を上げたアップバングで爽やかなワイルド感が、スポーツマンという感じの体格や、きっちりしすぎない制服の着こなし方に合っていて、派手ではないけれど、目をひく。とびきりのハンサムではないけれど、生まれ持った華やかな雰囲気がイケメン風。今時の高校生という感じだ。
その向かいの席に座る、明るい栗色に真っ直ぐ綺麗なロングヘアの女子高生もまた、正統派の美人然としているけれど、正統派過ぎない、今時の雰囲気を併せ持つ美人で、彼女は彼の発言に気を悪くし、鼻にしわを寄せている。
「……なんで、そこまで否定するかなぁ?
「そりゃ、わかってるけどさ~……一般論として、なんで、よりによって~、あ~んな、丸っこい……」
ぎろりと強く睨まれた彼は、「おっと……」と慌てて口を噤む。
目の前の美少女、
入学してすぐに、隣のクラスの舞に一目惚れした恭介が口説き続けて、夏休み明けにようやく交際に漕ぎ着け、数ヶ月。
交際はまあ、順調と言えると思うが、幼い頃からの無二の親友である、
これ以上、怒らせるのはまずい。
「……ま、
一応、クラスメート。一応、友人と言えなくもない間柄である、
まあ、以前から、そうなのかな?と思うところはあったし、今更そう驚くことでもないのだ。実際のところ。
クールそうに見えて、意外に喜怒哀楽がわかりやすいタイプのようだ……と、気が付いたのも風月玲衣のことでだったし、予想外という程ではない。
が、やはり……ちょっと理解に苦しむ。悪いとは思わないが、彼ならば、他にいくらでも相手がいるだろうに……あえて、そこにいくのか~……と思ってしまう。
たて食う虫も好き好き。
とは、よく言ったものだ。世の中には、いろんな人間がいる。趣味も好みも千差万別。
なので、巽が恭介の想像を越えたところの趣味や好みの持ち主であったからといっても、べつに困らない。
しかしな~と考えながら、恭介は「うーん」と、またもや呻いた。人は見かけによらないものだな、と。
「……でも、そっか。
言った瞬間に、左足に激痛が走り、彼はくぐもった悲鳴をあげる。
舞が、恭介の向こう脛を思いっきり蹴り飛ばしていた。
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