錬金術師の子

リーシャ

ユメは天才なのだ

 異世界から現代へ転生した幼女が一人。

 己の部屋でえんやえんやとかき混ぜるフライパン。

 鍋ではない。

 おまけに本物でもない。

 六歳から使ってもいいと企業がマークを書いていたのでそれであってる。

 プラスチックなフライパンを混ぜたら、出来上がったものがころんと残る。

 なるほど、液体を混ぜてどうやって固形になるのかと思えばこういう仕組みかと思う。

 出来上がったタブレット剤を手に持ち、足腰のしっかりしたものでリビングにいく。

「パパ」

「ごほっ、ん?」

 苦しそうな父が咳をしていたのでそれを渡す。

 それを口にしてくれと頼むと悩まれたが素直に飲んでくれた。

 まだ父の病気は風邪だと思われているので、彼は気づかないまま風邪が治ったと思うだけ。

 自身は一度異世界に行ったのだが、もう一度生まれたら地球で、自分の過去の己に生まれ変わっていた。

「あ、あれ?治った?」

「妙薬なの」

「そうなのか?」

 父はいわゆるアホなので深く考えない人。

 であるからに、ユメの将来にも共にあってほしい。

 過去では助けられなかった。

 当時のユメはまだ六歳で亡くなったのが十歳の頃。

あっという間になくなったので助けるも何もないのだが。

「すごいね。治ったね」

「すごいすごい」

「自分で言ったはいいけどチョロ父過ぎる」

 舌ったらずをやめて、苦笑いした。

「パパ!ママは?」

「ママはあそこ」

 キッチンにいる。

 母はキッチンにいて、なにか作っているらしい。

「ママ!」

 無邪気を装い、ママに抱きつく。

 ユメはパパもママも好き。

 何度生まれ変わっても最高の両親。

「ユメ?」

「ママ、いい匂い。くんくん」

 クッキーの匂い。

 父が死んで滅多に食べられなくなったクッキー。

 母は顔をユメに寄せて抱き返す。

 しかし、顔は寄せず。

 なぜなら、母にはかなり酷い火傷の跡が顔にあるからだ。

 治せるが、急に治すと周りに怪しまれるし母もありえないことに混乱する。

 そんな母は父と結婚できて最高に幸せそうだったけど、父が死んだら喋らなくなってしまった。

 顔が理由で外に出なかった。

 父に関係なく出なかったけど。

 顔が見られる心配がない場所なら行ったんだけどね?

「ママ、あそこ行かないか?」

 体調がよくなったからか、外出を足す。

「ん、今回は、無理かしら」

 急に顔が暗くなる母に父は特に気にせずじゃあ、違うことをしようかと話を変える。

 これは本気で気にしてない。

「ははは、じゃあ、ユメはなにしたい?」

「んー」

 ユメはもういいかなぁと思う日を決めていた。

 七歳になったら母の顔を治そうかなって。

「七歳のお誕生日にやりたいことがあって、パパには有給とってほしい」

「いいぞ」

 あっさり頷かれる。

 それならば、完全回復を作ろう。

 また鍋と向き合う日々。

 必要なものはナツメグとカモミールとピーマンと母親の皮膚へん。

 皮膚は速やかに肌を合致させるためだ。

 なかったら複数回必要だし。

「ママの誕生日と一日違いだからその日もね」

「わかった」

「ユメ?」

 疑問を呈する母には、ニッカリ笑って幼女スマイルで誤魔化した。


 誕生日、父の渾身の飾り付け。

 キラキラの誕生日。

 まず、ユメの誕生日に母へ自分を産んでくれたお礼を言う。

「ハッピーバースデー!ユメぇー」

 二人はリズム良く歌う。

 パパはちょっとズレてる……可愛いなこの人。

 母はそんな父が可愛いと同じ気持ちなのか楽しそうに笑う。

 半分以上が火傷があり、笑うと引き攣る。

 痛みはないらしいけど。

「ユメからのプレゼント」

「え?逆じゃないか?」

「いーのいーの」

 そして、流されやすい父は夢から液体のコップを受け取る。

「なんだ?」

「ユメの言った通りに言うんだよ?」

「え?うん」

 父は困惑したまま、コップを母に渡す。

「これはユメとパパからのプレゼントだ」

「え?」

 母がきょとんとなる。

 ママはすごいからね。

「ママがパパと結婚してユメを産んでくれたから、ママのご褒美だよ。人生のボーナスってやつだよ」

 父のフォローをする。

 母はくぴりと飲む。

 ダメダメ。

 もっと沢山沢山飲んで。

 パパと「一気!一気!」と煽る。

 ママは一気に目を閉じて飲む。

 飲む前に死ぬのかしら、とか聞こえたけど??

「ふう」

 コップを片した頃には火傷痕はさっぱりなくなっていた。

「やったー。せーこーせーこー」

 ユメは笑ってガラスの鏡を前にする。

 母はやはり鏡なんて嫌いなんだけど。

 なので、この家の鏡はこれだけ。

「ひっ」

 母の引き攣る声。

 すぐに顔を背ける女性。

 だが、父が空気の飲めない声を出す。

「あれ?ママ、いつのまに火傷なくなってたんだ?」

「…………えっ」

 母は何分も固まり、鏡も何分にも及び見続けた。

「そんな、これ、私?」

「そうだよ、ママだよ。ママはどっちも綺麗だからユメは好きだよ」

 ぎゅうと抱きつく。

 母は次の日も唖然と過ごしたがユメの鏡を貸してくれと言うので頷き渡す。

 次の日は母の誕生日なので父と母を連れ出す。

 母はいつもなら外に出たくないと拒絶するが唖然としすぎているので、気にしてない。

 ハッとなった頃には三人でアイスクリームを頬張っていた。

 その姿に老夫婦が微笑ましげに見てくる。

「まぁ、パパとママとおでかけ?」

「うん!」

 老夫婦が母をみる視線に彼女が大袈裟にぎくりとなる。

 人の視線に怯えているのだ。

「あら、どこのお化粧をお使いに?」

「えっ、化粧?」

「ママはすっぴんだよ」

「そうなの?綺麗なお肌で羨ましいわぁ」

 肌を褒められて母はソフトクリームを落としそうになったので、食べ終えた手が掴む。

「せーふせーふ」

「私の肌が、綺麗」

 またもや呆然とする女を置き去りに、老夫婦が帰っていく様を見送る。

「よかったね、ママ。ママの顔キレーだって」

「キレーで思い出したけど今夜はカレーにしないか?」

 父ぃ!!

 せっかくの名場面になんちゅう空気クラッシャーな台詞を。

 なんてね。

 ユメは父のこんなところも、好きだ。

これからきっと、外に出てたくさんおでかけしてくれるだろう母。

 三人で出かける未来は遠くないなと、追加報酬のソフトクリームを頬張った。

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錬金術師の子 リーシャ @reesya

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