第2話 ホテルにて
何時までもこんな所で泣いていても仕方ない。
僕は泣き止み、ポッドの中を見回した。
すると、大きな封筒があった。
その中には僕の戸籍やら通帳やら色々な物が入っていた。
多分、実社会で暮らせるように姉であるブラックローズが用意してくれた物だろう。
偽名、黒木剣(くろき つるぎ)で暮らせるようになっていた。
姉の事を思い出す。
生前姉は僕に良く、「良い! 目立つような生活をしちゃだめよ! あくまで裏の組織なんだからね」と言っていた。
姉や先代の総統から、経済を学び世界を飛び回っていた僕に、今更高校生活なんて必要なのか……
姉であるブラックローズが言うのだから僕に必要な事なのかも知れない。
だが、今の僕には何かしようと言う気が全く起きない。
だが、此処にいても仕方が無い……街に向かうか……
森を抜けて山を下りて街へと出た。
何でだろう?
周りの人間が僕を見ている気がする。
『あの人...何かのコスプレなのかしら? 凄く変な格好しているわ』
『薄汚れていて気持ち悪いわね』
『見ちゃ駄目よ、多分可笑しな人だから』
そうか、僕が着ているのは副総統の服……そしてかなり汚れてもいる。
何を言っているのか解かるが、今は気にしている余裕はない。
そのまま、街のホテルに向かった。
すぐにフロントへと向かう。
ホテルマンがすぐに話しかけてきた。
「いらっしゃいませ、ゴールドプリンスホテルへようこそ! お客様、ご予約はされていますか?」
「していませんが……」
今はただ眠い。
「そうですか? ただ、本日は大変混んでいまして、ご案内できる部屋が1泊辺り38000円のスイートルームしか空いておりません」
今はただ眠りたい……疲れた。
「それで良い、それで申し訳ないのですが……1か月程滞在しても大丈夫ですか?」
「それは構いませんが、流石にそこ迄の連泊だと料金が先払いになりますが宜しいでしょうか?」
「構いませんよ」
僕は自分のカードを取り出した。
このクレジットカードは組織と関係なく僕自身が稼いだお金の口座に繋がっているから問題も無いだろう。
「それでは30泊分切らせて頂きます、総額114万円になりますが本当に宜しいのでしょうか?」
「はい、お願いします、あとこちらをどうぞ!」
僕は100万円の札束を二つついでにカウンターに置いた。
ホテルマンの顔が一瞬驚いた顔に変わる。
「黒木様、このお金は一体なんでしょうか?」
「本当はマナー的に良くないのは解りますが、僕は気がつかない人間なのでチップを先払いさせて頂きます、これを皆さんで分けて下さい」
「くく黒木様、こんな高額なチップ困ります」
この位のチップでなんで驚くんだ……
僕が生きて来た世界では……普通なんだが……
「今日だけじゃありません、此処に滞在している期間のチップです、決して高額では無いと思いますよ? 受け取って貰わないと僕も恰好が付きません、何処でもしている事なので気にせずお受け取り下さい」
「そう言われるなら一旦受け取りますが、支配人に相談させて頂きます」
「ああっ、宜しくお願い致します」
「黒木様、鞄をお持ち致します、お部屋にご案内致します」
ポーターらしき方が来て鞄を持ってくれた。
「それじゃ頼んだよ」
これでようやく、落ち着ける。
部屋に入ると土で汚れた服を脱いでシャワーを浴びた。
体中が汚れていたんだ、変な目で見られる訳だ。
本当に汚いな。
シャワーから出るとガウンを羽織り、そのまま布団にダイブした。
あははははっ、1人ってこういう事なんだな……
つまらない、何もする気が起きない……仲間がいないだけで何も楽しく感じない。
体にぽっかりと穴が空いた気がする。
もう、何処にも同じ目標の為に頑張る仲間は居ない……
本当につまらないな……もう、このまま死んでしまっても構わないや。
『何も考えたくない』
本当に疲れた……今はただ、ただ眠い。
僕はそのまま何も考えず、目をゆっくりと瞑った。
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