いつかきっと

かねおりん

いつかきっと

おばあちゃんとあたしを守ってくれていた人形たちから自立したあたしは、初めて自分は大切に育てられていたことを知った。




頼めばおやつも、ごはんも、ジュースでさえも常備されていて、食事に困ることなどなかったのだから、初めての一人暮らし、初任給の安さに家賃という巨額な費用が毎月給与の大半を減らして、更に光熱費、水道代という払ったこともない出費で手元に残るお金は毎月貰っていたおこづかいとあまり変わりがなかったことに驚いてしまった。




どうしよう。生きていくことってこんなに頑張らなきゃいけなかったんだ。




おばあちゃんに甘えて、ろくに料理も出来ないまま始めてしまった一人暮らし。




おばあちゃん家から出る時はあこがれの一人暮らしだったのに、今あるのはおばあちゃんから貰った布団と毛布と枕。




幼なじみが要らなくなったからとくれたブラウン管のテレビだけ。




入居時には予想外にガス台を買わねばならず、貯めていたお年玉はすっからかんだ。




家賃補助のある会社に行ければ良かったかなと後悔をしていたりする。




まずは何から買い揃えたらあこがれの一人暮らしになるんだろうか。




間取りは2DK一人で住むには広すぎる部屋だったかもしれない。




エアコンもない、洗濯機すらもない、冷蔵庫は要らないだろうと思っていた。




その日食べたいものを買ってきて食べるだけだから。




とりあえずはお湯が沸かせればいいやと安い片手鍋を買ってきた。おばあちゃんのごはんが恋しい。




一人暮らしを完全に舐めていた。引っ越してきた場所はスーパーも19時には閉まってしまう。少し残業なんてしていたら食べ物すら手に入れられない。




同僚に相談でもしてみようかなぁとも考えたけど、みんな仕事を覚えることに精一杯で話しかけるタイミングがわからない。




休みは週に1日、毎日覚えなければいけないことがいっぱいで手際も悪く上司にも色々アドバイスを貰ったけど、唯一の休みの日はコインランドリーに行って洗濯をして、あとは泥のように眠って翌日からまた一週間仕事をする。そんな日々に気が滅入っていた。




そして、ついに仕事中に倒れてしまった。




救急車で運ばれ、栄養失調だと診断されておばあちゃんが飛んできてくれた。




おばあちゃんはしばらくあたしの家に居てくれて、ごはんを炊くところから教えてくれた。




「ちゃんとごはんの作り方くらい教えとくんだったわい。米とか色々買ってきたからこれで栄養しっかりとって気張りんしゃい」と言って、小さな冷蔵庫まで買ってくれた。




中にはおばあちゃんの味のおかずがタッパーにいっぱい詰まって入っていて、離れてからそんなに経っていないのに一口食べただけで涙が出た。




体調が戻り、おばあちゃんが帰った日あたしが初めてのお給料で買ったエアコンの取り付け業者さんがおばあちゃんの家に行ってくれた。




おばあちゃんは暑いの苦手だから、夏は寒いくらいにクーラーで部屋を冷やしていたのだけど、あたしが家を出る前に壊れて動かなくなってしまっていたから、一番最初のお給料はおばあちゃんへのプレゼントって決めていた。




そのあとから、一人暮らしには思った以上にお金がかかることを知って自分の部屋にお金をかける余裕がなかったのだ。




世間知らずだったあたしにはまだおばあちゃんの助けが必要だから、いつかおばあちゃんみたいなあこがれの女性になれるようにあたしも頑張るけど、おばあちゃんいっぱい長生きしてね。




「こんな立派なもん買うくらいならちゃんと食べなさい」と手紙が来たけど、おばあちゃんが元気で居てくれるのが分かったから、バリバリ働いて料理も頑張って、おばあちゃんといつか温泉旅行にでも行きたいな。




いつかきっと家族と孫を大切に育ててあげられるほどの余裕を手に入れておばあちゃんに安心してもらうんだ。




そんな時、あたしは会社からの帰り道に立ち寄っていたスーパーの店員さんと仲良くなって、一人暮らしのノウハウとか特売の日の事とか色々話せる友達が出来た。




少しずつだけど、きっとあこがれの未来に進んでいるような晴れやかな気持ちになった。




あたしはおばあちゃんが大好き。ずっとずっと元気でいて欲しい。もしも、あたしのことが分からなくなっても健康でいて欲しい。




ひ孫を見せてあげたい。




「100歳まで生きなきゃいけなさそうだわい」と笑っているだろうな。




人形たちもそれまできっと増え続けるんだろう。




また一緒にちらし寿司を食べようね。今度はあたしも一緒に作るからね。


おしまい

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