第45話 17話(3)
リンデンベアルとシスタルシア。
互いに何らかの因縁がある2人による異常なまでに張り詰めた殺気感に、俺やリデル、サラディアも動くどころか喉から声を出すことすら本能的に拒絶してしまうほど。
「そこまで殺気出さなくても、うちはあんたを殺そうという気はありません。あくまで久しぶりの再会に少しばかり会話に花をもたせたいと思ったまでですから」
自身に敵意がないことを証明するためなのか、持っていた刀を鞘に納めるリンデンベアル。
対してシスターは持っている純白の剣をしまうことなく、警戒心を高めた状態で問いかける。
「話って、何のことでしょうか?」
「話というか率直な疑問になるけど、なんで人間を助けようという真似してるの?」
昔話でも始めるのかと思いきや、いきなり飛び出したあまりにも切れ味が鋭すぎるリンデンベアルの疑問。
シスターが吸血族を絶滅させることが目的であるというのは本人から聞いていたが、それとは別に人間たちを助けたいという意思があったことに俺は驚きを隠せない。
「なぜ、私が人間を手助けしていると思うのですか?」
リンデンベアルは疑問の問いかけに対し、流石と言うべきかシスターは動揺を顔や言葉に出すことはない。
「以前のあんたなら、わざわざ人間に頼ることなくても、純血の力でもっとうまくやっていたと感じたまでじゃ。純血の力は対吸血族相手にはもちろんのこと、その気になれば人間を意のままに操ることなんて容易じゃないはず。にもかかわらず、ここにいる人間たちに手を貸すだけでなく、そこの男に自分の血を与えて混血に適合させるとは。吸血族としての血が泣くぞ」
インフェルティエ相手の時もそうだったが、シスターを除いて吸血族はとにかく自分たち以外の種族に生きる価値はないとはっきりと断言してもいいほど、プライドが高い。
確かに、シスター自身が純血の力を使えば、俺たちがこうしてギリギリの戦いをしなくてもベルクラウスを倒すことが出来たかもしれないし、インフェルティエとの戦いでも俺たちのことを考えずに戦うことで仕留めきれたかもしれない。
それでも、それをせずに俺たちに任せたのは少なくともリンデンベアルのように人間を切り捨てるつもりはなく、この先旅をしていく上で人間たちの協力も必要だと考えてのこと。
「かつての私であれば、そうしてたでしょうね。ですが、今は時代も違います。多種多様な人間、種族たちが生活している今、一部の種族の都合で他種族を根絶やしにするというやり方が時代遅れであると私の中で結論付けたまでです。もちろん、そういう多様性によって新たに発生する問題があるのは重々承知ですけど」
シスターにとってヴァンロード聖教会で子供たちの面倒を見ていた時から、既にリンデンベアルたちと違って人間たちに対する情というもの持ち始めていたのかもしれない。
まだ俺はシスターのことを1%程度しか知らないが、それでも今の言葉にわずかながらに感情が籠っていたようにみえる。
少なくとも、シスターは俺を含めた自分の味方をしてくれる人間と自分と関係のない人間には危害を加えるつもりがないことは確かだ。そうじゃなければ、わざわざ長い時間をかけてインフェルティエの一撃に巻き込まれないようにベラルティア王国中にバリアを展開するということはしないはずである。
シスターの話を聞いて、リンデンベアルは過去のシスタルシアからの変わりように失望の眼差しとため息交じりに口を開く。
「かつて吸血族最強と言われたシスタルシアがここまで堕ちるとは。悲しいものじゃ。人間はいつの時代も変わらない。どれだけのきれいごとを並べても行く末は形の変わった争い。全員が仲良く平和に過ごそうというのは所詮幻であり、心のどこかで嫉妬し、憎しみとなって争い続ける。形は差別、戦争、奴隷などその時によって変わるが、結局の元をたどれば誰かを見下し、自分が上に立っているという優越感に浸っていないといけないのじゃ。そんな生物は絶滅させて当然じゃろ? 人間も含めたこの世界に害をもたらす生物を一つ残らず殺し続けることが真の平和とは思わないのか?」
リンデンベアルの放った言葉は人間として生きている俺たちに奥深くに突き刺さった。
言い方にかなりトゲがあるものの、言い分は的外れではないのは事実。
人間が不完全で定期的に争いが生まれたり、人間社会において貧しい人間たちに対する差別や上級階級の人間たちなどによって理不尽な行いが無くならないという現実はある。もっと言えば、ベラルティア王国の一件でもわかるように表立って明らかにされない不正や隠蔽などといった裏で人間の黒い部分を発揮していることも否定できない。
だが、そんな中でも懸命に生きている人や、そういう過酷な環境の中でも希望を抱きながら生にしがみついている人たちをリンデンベアルは悪い人間も全て殺しても構わないと思っている。
言い換えれば、悪いことを行ってきた人間を真面目に生きる人も含めた真っ当な人間も皆殺しにして世界平和を望んでいると言ってもいい。しかも、リンデンベアルは人間以外の生物の殺害も躊躇なく行うという心や感情といった人間らしい情という情の欠片もない。
人間含めた吸血族以外の生物の完全否定。
罵倒という言葉が可愛く思えてしまうレベルの酷い言われように、ついに限界を迎えた。
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