第43話 17話(1)

 インフェルティエの炎とシスター純血。互いに国を巻き込む規模の一撃を放ち、ものの数秒の内に視界は白い光に包まれた。

その光はとても人間の目でとらえる事はほぼ不可能。

どちらの一撃が勝り、俺たちやこの国がこの先どうなったのか。

その結末が明らかになるのは光が一通り消え切った後だった。

「ど、どうなったんだ……」

ようやく眩しかった光も収まり、慎重に目を開く。

こうして俺が生きているということは少なくともインフェルティエの炎による巻き添えはくらっていないようだ。

とはいえ、光が収まってもなお灰色の煙が辺りを覆い隠していることもあって、視線の先にいるシスターとインフェルティエがどうなったのかはわからない。

少しずつ煙が晴れてきたタイミングで辺りを確認すると、どうやらリデルもサラディアもシスターが張ってくれたバリアのおかげで無事な様子。

戦っている最中にも感じていたが、シスターの展開するバリアが異次元なほど堅い。あらゆる波状攻撃を無傷で退けてしまうほどの理不尽な強固さである。

そして、ようやく煙が完全に晴れ視界が完全に元に戻る。

そこで俺たちが目に飛び込んできた光景はまさに想像を絶するものだった。

シスターは目を閉じ、両手を閉じたままピタリとも姿勢を崩さずに止まっている。

その一方でインフェルティエの身体は枯れきった木々のようにボロボロになり、左腕は消失、もはや膝をついていないとまともに動けない状態になっていた。

持っていた炎の斧もどこかへと消えてしまっており、一目でシスターが勝ち、インフェルティエが負けたということだけは確かである。

「ぐっ……! く、くそが……!」

絞り出したインフェルティエの言葉はさっきまでの様子からはとても想像ができないほど弱まっている。

一体インフェルティエに何が起こったのか。

その答えは、シスターの口から開かれる。

「あら。流石に全ての血を純粋なる魂へと浄化させることは出来ませんでしたか。まぁ、危機を察知して、攻撃を捨てて自らの血で防御を固めて命を守りに行ったのは賢明な判断でしたね。万が一、あのまま攻撃していれば間違いなくあなたは吸血族にとっては致命的ともいえる血を浄化されて死んでいたでしょうから。それでも、相当な量の血と左腕、そして身体に戦闘不可能のダメージを負わせただけでも充分でしょうか」

右目だけを開いた状態で、おおよその推測を立てた上で話すシスター。

自分の建てた推測を話し終えると、左目も開かせ、ゆっくりとインフェルティエのところへと近づいていく。

さらりと言っていたが、シスターはインフェルティエが斧を振り下ろしきる直前に攻撃をやめてまで自分の命を優先させたのを知っていたのか。

確かに今考えれば、俺たちが一時的な炎による熱さは伝わっていたもののその後は圧倒的にシスターの技による光の眩しさが勝っていた。

あれはインフェルティエの技が推し負けたものだと思っていたが、インフェルティエが攻撃するのをやめたからなのか。

「あんた、それを分かった上で使ったのか?」

「いえ、もちろんインフェルティエの攻撃が私の技を上回ることも想定に入れていましたよ。その場合、ここにいる私たちも含めたこの国に住む人々全員を守り切る必要があったので、めんどうですが国のエリアごとに一撃を防ぎきれる程度の透明のバリアを展開しておきました」

シスターがまさかそこまで計算に入れた上での技を使っていたとは。

元々シスターがかなり用意周到に計画してから動くタイプであることは傍にいた俺が一番よく理解しているつもりだが、シスターの先を読む能力はまるで未来予知でもしていると言われても違和感がないほどである。

「ということは、ずっと昔からこの国にお忍びに来ていたのも最初から範囲バリアを各地に展開させておくため?」

「そういうことになりますね。相手が吸血族である以上、国の一つや二つを容赦なく切り捨ててくる可能性があることは少し考えれば想像に難くありませんから」

シスターは少し恐怖を含んだ笑みを浮かべながら、自分の血で錬成した純白の剣を右手に持つ。

なぜ、シスタルが準備のために参戦が遅れると言った意味が分かった。

シスターが俺たちをヴァンロード聖教会で世話していた時から、月に一度ベラルティア王国に買い物に行く際に寄り道感覚で人間の目では視認できない透明のバリアを展開させていたのだろう。

最初は正門から遠く離れたエリアからバリアを展開させておきつつ、俺たちがベルクラウスと戦っている間に城から近いエリアに関係のない国民たちに被害が及ばないようにバリアを張る。

結果的にそのバリアを使う場面はなかったものの、インフェルティエのあの一撃がもし国中に及んでいた場合、バリアなしだと国民全員の死はもちろんの事、国そのものが更地になっても不思議じゃなかった。

「さてと。このまま生かしておいた状態で残りの吸血族の居場所を聞いてもいいんですが、どうせあなたは話す気はないのでしょう?」

シスターがインフェルティエの頸動脈付近に白い刃を突き付けながら、情報を要求する。

しかし、インフェルティエはこの逆境に追い詰められてもなお強気の姿勢を崩すことはなかった。

むしろ、ここから逆転できるという確信があるのか不気味な笑い声をあげながらシスターを挑発してくる。

「フ、フフ。アハハハハハ! バカバカしい。私が吸血族の血筋を捨てて普通の人間として生きようとしているあんたに自分の持っている情報を言うわけないでしょ? 私を殺せるものなら殺して見なよ。まぁあんたが私を殺すことなんて無理でしょうけど」

まるでシスターが自分のことを殺してこないと見透かしているようなものすごい煽り口調。

自分がいつ死んでもおかしくないような崖際の状況でここまで自分の意思を貫ける度胸の強さにむしろこちらが感心してしまうほどである。

そんなインフェルティエの言葉を受けて、優しい笑顔で流せるほどシスターは吸血族に優しくはなかった。

「なら、このまま首を刎ね飛ばして終わりですね」

シスターは純白の剣をインフェルティエの首を切りつけようとする。

刃がインフェルティエの首元に届こうとする直前、準備が整ったと言わんばかりの黒い笑みを浮かべた。

その直後、シスターは横から何かが飛んでくるのを察知し、すぐにインフェルティエから距離を取る。そこからわずか数秒後、城を真っ二つする勢いで巨大な紫色の斬撃が飛んできた。

斬撃が通った跡地にははっきりと切れ目が残っており、もしシスターの回避が一歩でも遅くなっていれば、斬撃の餌食になっていてもおかしくなかった。

「何の予兆もない斬撃攻撃を瞬時に察知して回避するとは。相変わらず流石やね~シスタルシア」

おっとりとした口調から静かでそれでも誰かが近づいてくるのがわかるくらいの足音で姿を見せた3人の人物。

その人物の顔にシスターは見覚えがあった。

「まさかあなたの方からこちらに来るとは……。流石に想定外です、リンデンベアル」

「こちらこそ、随分久しぶりやね~。シスタルシア」

ここに来てシスターすらも予想していなかった人物の思わぬ介入。

新たな人物の登場が一連の騒動にどう終息していくのだろうか。



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