第37話 15話(2)

「ホムラ令嬢!? なんであんたがここにいるの?」

サラディアが驚くのは無理もない

ここに来て思わぬと言っていい人物の登場。

それも俺たちの推測の中で一番黒幕の可能性から外していたホムラ令嬢がこんな状況で姿を現したのだから当然である。

それだけではなく、ホムラ令嬢はバティス王と同じく本来であればベルクラウスの手によって既に殺されていてもおかしくないはず。

まさに、ここにいるほぼ全員が予測できなくても仕方ないことである。

「なんでも何も、操り人形が壊れちゃったからそれを処分するのは使用する側の責務としては当然の事でしょ?」

「ど、どういうこと? 全く意味がわからないんだけど」

サラディアの言う通り、俺も全くと言っていいほどホムラ令嬢の言っている意味が分からない。

あっけに取られている俺たちとは対照的にほとんど死にかけに近い状態だったベルクラウスは何かを察したのか一気に青ざめた表情で声を絞り出すように話し始める。

「ま、まさか……。お、お前が……! あの……!」

ベルクラウスが何かを確信したかのように言葉を出そうとした直後、ホムラ令嬢が右手を銃のような形に変えると同時に何か呪文を唱えるような口ぶりで

「ファイヤー」

と発した。

その瞬間、俺たちの目に信じられない光景が飛び込んでくる。

ホムラ令嬢の短い言葉が引き金となり、ベルクラウスの身体が突如として凄まじい業火に包まれた。

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ! お、おのれ! き、貴様! なぜ……」

「ようやく私の正体に気付いた? せっかく、苦労していたあなたに救いの手を差し伸べる意味も含めて人間相手のためにわざわざこの私が少し血を与えてあげたのにこの程度しか仕事できないとはね。もっと早くに見切りをつけて、さっさと私がこの国を乗っ取っておくべきだったよ」

信じられない光景が続けて起こっている現状に、俺たちはただ唖然として動けずに絶句したまま立っている他なかった。

「使えない駒は血ごと燃えて灰になり、誰からも死んだとすらも思われることなく消えていくことね。さようなら。暇つぶしのおもちゃ程度には楽しかったよ。血炎灰天けつえんはいてん

ホムラ令嬢が憐れみの目と同時に言い放った言葉と共に、ベルクラウスは最後の遺言すらも言い残すことなく、灰となって消えてしまった。

遅かれ早かれ死ぬ定めだったかもしれないとはいえ、俺たちが運よく倒せたベルクラウスをあんなにあっさり消してしまうほどの強さ。

そして、血に関する言葉を数多く使っているところからも俺の推測は一気に確信へと傾いていた。それは俺だけではなく、リデルもサラディアも薄々勘づき始めていた。

「あんた。まさか、吸血族の人間?

サラディアは恐る恐るとはいえ、実際に吸血族であるシスターの戦っていることもあってなのか間違っていないという確証はある様子だった。

「私は灰になったあいつと違って生粋の吸血族。人間のような常に何かと争い続けないと生きられない劣等生物とは違うの。そして、このホムラという名前ももちろん偽名。正確には、実在した本物のホムラ令嬢を殺してその名を借りて、この国に潜入していた」

正体はシスターと同じ、真っ当な吸血族の血を引く人間。ホムラ令嬢という名前は偽物。そして、実在した本物のホムラ令嬢は既に偽物の手によって殺害された。

ここに来て、予想だにできない真実の連続。

そして、シスターが言っていた『吸血族』は自分たちが最高だと叫び、それ以外の種族に対して容赦なく殺す。

「そして、私の本当の名は……」

偽物のホムラ令嬢が着ていたドレスも含めた全身が炎で包まれる。

そして、その炎はほんの十数秒ほどで晴れると、服装も含めて全身が見違えるように様変わりしていた。

顔つきこそ、美しい偽物のホムラ令嬢から大きく変化しているわけではないが、豪華で動きにくそうなドレスから赤い炎を感じられる身軽な服装に変わり、髪も少しオレンジ色が混ざった赤色に変化している。

「私の本当の名前は炎血のインフェルティエ。誇り高き吸血族の血を引いた生物であり、あらゆる生物の中に巡り巡っている血を燃やしもの」


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