第14話 5話(3)
「私がベルラティア王国に王族関係者の中に『吸血族』がいるという情報はここにいるイフォバットが超音波を駆使して手に入れたものです。この超音波は人間の思考をのぞき見することが出来る特殊仕様でね。まぁ人間相手にしか使えないので、誰が吸血族なのかまでは特定できていませんけど」
なるほど。
やはり王国内に『吸血族』の関係者がいるという情報はイフォバットから得たものだった。
ここまでは想定内。問題は王国内に『吸血族』がいたとして、どうやってそいつと戦おうとするのか。
いくらシスターが圧倒的な実力を持っていると言っても、たった一人でこんなデカい国相手に丸ごとを喧嘩を買うなんて危険な賭けを今のシスターが行うとは思えない。
「作戦はあるんですよね? 王族内にいる『吸血族』と戦う方法が」
「作戦といっても、イフォバットから持ってきた情報は具体的に誰が『吸血族』なのかまでは特定できていません。なので、まずは誰が『吸血族』の関係者で、誰が裏で反乱を起こそうとしているのかを探る必要があります。その上で、何人か仲間も加える必要がありますね。これから先のことも考えると」
「仲間?」
俺にとっては仲間という仲間は作ってこなかった。
というのも、子どもたちがテロリストに殺されて以降、形はどうであれ仲間という仲間を失ったのは事実。しかし、ここでのシスターの言葉は、ベルラティア王国内でこの先の旅を続けていく上でシスターとは別の仲間を作る必要があるということを示唆している。
まだあの日から日も浅く、未だに夢にまで出てくる日も少なくない。
そんな状況の中で、過去と決別して新しい仲間と共に新しい旅を歩んでいく覚悟を決めろというもの。
いきなりそんなことを言われても「はい。わかりました」なんて正直にすぐに言葉を吐き出せるほど即決できる内容じゃなかった。
「仲間はこの王国内を歩き回って行けば何とかなるでしょう。私はあくまで仲間を作った方がいいという助言をしただけなので、実際に仲間を作るかどうかはローデンの自由です。それに、私としては出来るだけ早く、『吸血族』たちによる全種族の復讐のための惨劇が行われる前に早めにこの国の内情を探る必要はあるんですがね。イフォバットの様子を見るにいい情報は仕入れなかったようですがね」
シスターがイフォバットに対して、まるで自分がここに来るまでに大した情報を仕入れなかったということを名指しで指摘しているような雰囲気。
何より、シスターのイフォバットに対する視線が見事なまでに濁り切っているのが全てを察していた。
「す、すみません! ヴァンティア様! 俺様としても出来る限りの情報は仕入れようとしていたんですが、いかんせん、奴らの情報を盗み抜くのが想像以上に厳しい状況でして……」
さっきまで俺に対しては超がつくほどイキっていたイフォバットが、自分の上司であるシスターに対してはタジタジ状態なのが、まさに上下関係の過酷さというものを突き付けるのは充分である。
それにしても、シスターが重宝しているイフォバットでも情報を得にくい状況なのは何か不穏さを増幅させる。
「もしかすると、先日のヴァンロード聖教会でのテロ行為もベルラティア王国によるものだったかもしれません」
突然、何か思い当たる節があったのかを思い出したようにシスターはふと言葉にしてみせる。
あまりにもいきなりかつ現実味のない発言だったこともあって、俺の頭は理解が追い付かない。なぜそう考えたのかをシスターに理由を聞いた。
「シスター。あのテロがベルラティア王国によるものというのはどういう意味ですか?」
「思い出してください。あのテロリストたちが何の目的でヴァンロード聖教会を襲撃したのかを。奴らの狙いは私を殺すこと。私を殺すために聖教会にいた子供たちまで容赦なく殺した。ローデンを除いて」
「は、はい。ですが、それが具体的にどうベルラティア王国と関わっているのですか?」
シスターの発言に今のところは特にこれといった何かを言っている様子はない。
しかし、ここからシスターの話す言葉が俺の中にモヤモヤとして残っていたモヤが晴れることになる。
「最初はただ、私のことを狙っている輩にしか思っていませんでした。しかし、その後のイフォバットのベルラティア王国に『吸血族』の関係者がいる事。そして、イフォバットの超音波ですら情報収集をできないように仕組まれている可能性があること。これで、私の中ではある程度の結論がつきました。あのテロは、ベルラティア王国の関係者の内の誰かが仕組んだものだと」
「ほ、本当なのか!? 俺はまだ、ベルラティア王国に入国して間もないし、何が本当なのかわかりません」
「もし、テロリストが私を狙ってのヴァンロード聖教会に襲撃したのであれば、わざわざ『吸血族』である私ではなく、単純にベルラティア王国の外にある教会にいる聖女として狙ったと言えばいいはずです。その目的が奴隷として利用するためなのかなど理由の内容はともかくね」
このシスターの発言が一気に俺の疑問を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます