「ネオンの刃~電脳世界で悪人を斬る話~」
結晶蜘蛛
「ネオンの刃~電脳世界で悪人を斬る話~」
――“良いことをしなさい”
私が覚えているのはそれだけなの。
何時いわれたのかはおぼろげだけど、優しい明りの中で、頭をなでられていたような。
そんな暖かな記憶だったということは覚えてるの。
だから、私は良いことをするしようとおもうの。』
†
技術が発展し、世界中が電脳を覆い、人体を改造できるようになっても人間自体は変わらないみたい。
むしろ、技術が発展して、社会から弾かれた人間も少なくないの。
でも、それでも悪いことはダメだと思う。
郊外の倉庫の前には3人の男たちが見張りをしている。
腕の位置から懐に銃を隠していることが見て取れた。
「――そこの女、何の用だ?」
「あっちにいけ! 殺されてぇのか!?」
「いや、待て、そいつ、何を持っている……刀……?」
私はナノコーティングコートの前を開いて、腰に下げていたモノ分子ブレードの鍔を押した。
日本刀……?って武器と同じ形状をしているモノ分子ブレードが鞘から押し出されるの。
体に染みついた――理由はわからないけど――動きをそのままに、足を踏み出しつつ、刀を振りぬいて、一人目の首を斬り飛ばしたわ。
「なんだ、こいつは!?」
拳銃、銃口がこちらをむいている。
あの一瞬で、拳銃を取り出した……なかなかの腕前ね。
恐慌状態で撃ったとしても、スマートリンクシステムにより自動補正で的に当たるでしょう。
私はナノコートコーティング装甲コートを翻し、射線を遮る。
銃弾がコートにあたる。耐摩性の合成繊維と中層の液体ナノ粒子ジェルが瞬時に硬化し、銃弾を阻んだ。
ひらり、ひらりと、二閃。
複数の合金を焼合し、レーザー加工で極限まで研ぎ澄ませたモノ分子ブレードは抵抗もなく男たちの体を切り裂いた。
「それじゃ、急がないとね」
――仲介人のオムニリンクが私に通達した依頼は、さらわれた社長令嬢の救出。
ナノスチール開発の最先端と特許を持っている「ネオフィージ・インダストリー」。
そのネオフィージ・インダストリーが経営破綻し、そのノウハウと特許を買い取るためにクローム・タイタン社が買収を行ったの。
しかし、それをよく思わなかった何者かがクローム・タイタン社の社長令嬢を誘拐して――その救出に私に声がかかったみたいね。
企業警察が動くと話がこじれるから、「なかった」ことにするために影の仕事に頼むことにした見たい。
とりあえず、人助けを開始しましょう。
私はモノ分子ブレードを振るい、倉庫の扉を切り捨てたの。
†
倉庫の中は薄く暗い。
しかし、相手は暗視装置を目につけ、装甲に身を包んでいたわ。
倉庫の中にはコンテナが置きっぱなしで……彼らはここを根城にしているだけで、正式に所有しているわけじゃないみたいね。
「刀一本で乗り込んでくるとは……ずいぶんと珍妙な奴だな」
「この距離と数を相手に勝てるつもりか?」
「おい、一応、あれの用意をしておけ」
「――先に言っておくのだけど、令嬢を返してくれるなら、このまま帰るんだけど……」
「んなわけないだろ!」
発砲。
私はモノ分子ブレードを前にかざし、弾を切り裂いた。
そのまま私は身を低くしての後ろに走り、隠れる。
「刀一本でどうするつもりだ!」
さすがに倉庫の端に待ち構えてる相手に正面から突撃するのはいい案じゃないわ。
でも、あの人達は知らないけど、私――特異体質なんだよ。
私はコンテナを蹴りあげ――そのまま宙を舞ったコンテナがあの人たちの方へと飛んでいく。
「は?」
一瞬呆けた声が聞こえたけど、さすがはプロ。すぐに隠れたようね。
でも、私の瞬発力ならコンテナにおいついて進むぐらい容易なの。
敵の懐に入った私は刀を振るい、切り捨てていく。
影で仕事をする人は大概、装甲や防弾服を着ているけど、銃を持つ腕周りは装甲が薄いことが多いわ。
だから、まずは手首を切り落として――そのまま敵で敵の射線を防いで切り捨てていくの。
そうすれば、敵の持っている装甲を盾替わりにできるし、斬るための余裕も確保しやすいの。
「おい、女ぁ!」
「ふぇ? ……えぇ……」
影が濃ゆくなった。
なにかが私の頭上にいる。そう思ったから即座に飛びのくと、そこには鉄人がいた。
メタリックな装甲に身を包み、モノアイで私を見つめている鉄人。
確か……NX-77 Phantom Aegis――ファントムイージスだったかしら。
前の対戦で使われた軍用品だけど、いまは武装や武装用のドライバーを取り払って民間の作業で使われたりはしてるみたいだけど……あれ、明らかに違法改造して武装してるわね。
しかも、スマートAIが入って、状況を自分で判断してくれる優れもの……だったかしら?
意外とすごい品をもってるわね。
「この装甲とパワーならお前の攻撃なんて通らないぜ!」
「……運が悪かったね」
「そうだ、お前はここでおしまいだ」
「ううん、そうじゃないの」
振り下ろされる拳をよけながら私は鉄人の胸に手を当てた。
パチン。
「え? なんだ!? 動け……動け!!」
唐突にファントムイージスが動かなくなり、慌てた声が響く。
これが私が銃を使えない理由。
AI製の機器を扱うと必ず、こんな感じで壊れてしまうの。
今どきの銃はどれもスマートリンクが入っているのが普通だから、私が触れると壊れちゃって、ロックがかかって撃てなくなるの。
「――ごめんね」
私は刀でファントムイージスの首の留め金を外し、ヘルメットを開けると、装甲の隙間から刀を突き刺した。
†
「素晴らしい成果でした、ありがとうございます」
黒いウルフカットの修道女――オムニリンクさんが満面の笑みで私に声をかける。
彼女は馴染みの仲介人で、今回の依頼を持ってきたのも彼女なの。
「ううん、あの子も助けられてよかったの」
「あなたほどの手練れはそうそういませんからね」
「人助けができて私もうれしいわ。
ところで――、騙したりはしてないよ……ね?」
「え、ええ、もちろん」
「よかった」
悪いことはしてないなら、斬らなくてもよさそうね。
「ネオンの刃~電脳世界で悪人を斬る話~」 結晶蜘蛛 @crystal000
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