第44話
この洋服を和泉くんが着たら、どう着こなすか。
ちょっと変態かもしれないが、私にとって一番素敵なモデルというのはやはり彼というところだけは変わらない。それは、初めて会ったときの印象からじゃとても考えられないけれど、いまの私は彼が一番だと思う。
「浅葱ちゃんって、なんだかんだでコウの顔好きだよねえ」
なんてことを言うんだこの人は、と有馬くんをきっと睨む。和泉くんが彼の言葉を反芻する。
「顔だけは」
「まあ、モデルだしね〜」
「そっかー、役者に向いてるのかなあ」
あれ、和泉くんにしては珍しく素直に受け取った。
「あー…でも私はモデルの和泉くんを見ていたいですね、いつまでも。映像よりも完全一発勝負の瞬間のほうが」
「いつまでも…」
また和泉くんが反芻。……自分で言っておいてなんか恥ずかしくなってきた。
「なるほどね、写真のほうが静止画だし顔をじっくり見つめられるもんね」
照れから耳を真っ赤にした和泉くんが、ぎこちなく紙コップに注がれたレモンティーを飲む。
「…ちょっと語弊がありますが端的に言えばそういうことですね」
うん、これでいい。……これでいい?
ほほーん?、とにやりとした笑みを彼が浮かべるので、語弊がありますが、と2度目。
「じゃあ、コウには性格に難があるんだね!」
「性格…」
「いやなんか、その…」
……まったくこの人は…とさらなる返しを考えていたところで、有馬くんがメイク担当の方に呼ばれたので、私と和泉くんの2人が残った。
順番に進んでいく撮影を見つつ、私は内心焦りに焦っていた。
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