第38話

印南くんは辺りを見回し、なにかを察したかのようにこちらへ迷いなく歩いてきた。


彼は、「あれー?」と嘲笑するような間延びした声で、椎名に目を留めた。……知り合い?


でも、印南くんは、椎名と共演したことはないはずーーと思った瞬間。




「椎名じゃん、久しぶりだね」


「…………」


印南くんの好意的だけれどどこか冷たい声に、椎名はなにも返さない。



彼はそんな彼女を気にせず、こんな言葉を言い放った。




「相変わらず顔のいい男が好きだね、椎名って。和泉さんのこと狙ってるって聞いたよ?」


「!」



椎名は途端に顔を真っ赤にさせ、「なによそれ!でたらめ言うんじゃないわよ!」と激昂した。


彼女が図星だということは、誰もが分かった。そして、その横にいたプレス担当者の人は、眉をひそめて椎名に視線を向ける。




「……椎名さん、和泉くん目的で私にこの仕事を提案したわけ?」


「…………」



椎名は、血の気がさっと引いたかのように、黙る。


それを肯定と受け取ったプレス担当者さんは、私と和泉くんに向き直って一礼し、椎名の腕を掴み、去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る