どうしても勇者になりたかった青年
@saruno
どうしても勇者になりたかった青年
「貴殿のご活躍をお祈り申し上げます」
ペラペラの羊皮紙に書かれた不採用を告げる定型文は、青年にとって一つの夢が途絶えたことを無慈悲に告げていた。
「こんなの納得いくものか!」
青年は勇者になりたかった。勇者とは、王都直下に従える国家公務員のことで、地区ごとに若干名の配置が義務付けられている。だが、地方都市には十分な数が行き渡らず、村が怪物に襲われ、勇者率いる討伐隊が到着した頃には村人の半数が失われることも多かった。青年の村も襲われたことがあり、自身もそのせいで家族を失っていた。葬式の時、自分に力があればと何度思ったことか分からない。
青年は勇者になることに強く惹かれ、やがてそれは具体的に目指すべき目標となった。古い伝記書に記された「必ず努力は報われる、そんな世の中であるべきだ」という先代勇者の言葉を胸に、勇者を志すべく文字通り「血の滲むような努力」を重ねてきたのだ。
だからこそ、青年にはどうしても納得がいかなかった。こんなペラペラの羊皮紙一枚で人生を決められてたまるかと。
やがてそれは青年を一つの行動へ駆り立てた。王都へ向かい、勇者にしてもらうべく王様に直談判することにしたのだ。その無謀な挑戦を聞いた友人は皆口を揃えて「やめておけ」と静止したが、その程度で諦めるくらいなら最初から勇者など目指してはいない。青年は荷物をまとめ、月明かりの綺麗な夜を選んで独り王都への旅へと出発した。
だが、出発して数日が経ち、馬車に揺られながらふと青年は思った。勢いだけでここまで来てしまったが、よく考えたら王都へ行ったところで門前払いされてしまうのではないだろうか。友人たちの静止を振り切ってきた以上、やっぱりダメでしたと村に帰るのも青年のプライドが許さない。
青年は自分が勇者に相応しいことを示すためには、何か「手土産」の一つでも持っていく必要があることに気づいた。
その日の夜のこと、青年は宿場町の食堂屋で好物の焼き魚を注文することにしたのだが…
「すまないね、いま魚は切らしてるんだ、悪いんだけど、肉で勘弁してくれ」
「まだ開店して1時間じゃないか、そんなに魚が人気なのか?」
聞けばひと月ほど前から、港と交易ルートに巨大怪物が住み着いてしまい、魚の流通がストップしてしまったという。魚の干物も売り切れてしまい、既に青年の食べる分は残っていなかった。
「地区担当の勇者は別の任務にかかりきりでちっとも来てくれないし、王都に討伐を依頼してもずっと後回し。全くこれじゃあ商売あがったりよ」
その話を聞いて、青年は「これだ!」と思った。忙しい勇者に変わり、私が巨大怪物を討伐してやれば、きっと王都も実力を認めてくれるに違いない。
翌日、青年は巨大怪物の情報を入手すべく、交易ルート近くの村へと足を運ぶことにした。既に村はがらんとしており、村長と思わしき老人は、弱々しい声で助けを乞うてきた。
「大半の村人は巨大怪物を恐れて遠くに越してしまい、今や廃村の危機でございます。どうか巨大怪物を倒してくださいませ。」
交易だけではなく、村の危機も放置するとは。一体勇者は何をやっているのだろう。王都も酷いことをするなと思い、青年には俄然とやる気が出てきた。しかも巨大怪物の特徴を聞いてみると、以前に青年が倒したことのあるタイプのものだった。一人で倒せるような怪物を放置するとはなんたることか。すぐに青年は討伐に向かい、あっさりと倒してしまった。
村長からも、食堂屋の主人からも大いに感謝され、青年はこれで手土産が出来たと、再びを王都を目指すことにした…のだが、よく考えれば、私ごときでも倒せる程度の危機だからずっと後回しされていたのかもしれない。勇者に選ばれるような人なら、きっとこの程度のこと易々とこなしてしまうのだろう。ここはもう一つ何か手土産を…。
その数ヶ月後、王都では大騒ぎになっていた。最近重要な交易ルートを妨害していた巨大怪物を皮切りに、各地の怪物をという怪物が次々と見知らぬ青年にあっさりと倒されているというのだ。王都の勇者率いる精鋭部隊を持ってしても全く敵わなかったというのに、である。
国王もすぐさま青年の調査に乗り出したが、まさか国王も人事部の配達ミスで不採用になった青年が、やがて国の危機を救うことになるとは思いもよらなかったに違いない。
これを勇者と呼ばずしてなんと呼ぶべきだろうか。
どうしても勇者になりたかった青年 @saruno
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