あこがれ

崔 梨遙(再)

1話完結:2400字

 僕が最初に女性に『憧れの気持ち』を抱いたのは小学校の1年生くらいの時。もしかしたら、まだ幼稚園だったかもしれない。相手は父母の友人の6人の大人の女性。6人? と思われるかもしれないが、6人ともタイプが違ったので僕は憧れた。珉、千代子、理恵、聖、亜子、初音。彼女達は、当時20代の後半から30代の半ばだった。そう、この頃から僕は年上が好きだったのだ。


 しかも、彼女達とは1回ずつ『スケベイベント』が発生して、着がえを目撃したり、一緒にお風呂に入ったりすることが出来た。そんな僕はラッキーだったと思う。勿論、その頃の僕は性に目覚めていなかったから、ただただ『女性の美しさ』を知ってポヤーンと見とれていただけだったけれど。


 しかし、その6人は既に結婚していて子供もいた。僕は、6人の内の誰かを嫁に欲しいと思っていたが、それは叶わない夢だった。でも、今でもその6人は僕の中では若く美しいまま、美しい思い出として残っている。


 しかし、それは幼い頃の『憧れ』で、成長するにつれて本格的な? 『憧れ』の気持ちを抱くようになっていった。



 僕が高校の1年生になった時。バイト先のファミレスで出会った真亜子という女性に憧れた。真亜子はバイトの先輩。僕よりも1つ年上だった。生まれて初めての一目惚れ! 初めて真亜子と会った時、僕は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。真亜子に憧れた。真亜子は完全に僕の理想の女性だった。


 僕は、惚れてしまう分には“付き合いたい”などと考えるが、憧れてしまうと手を出せなくなる。“僕なんかが手を出してはいけない”と思ってしまうのだ。相手を美化し過ぎて、まるで女神か天使のような、手の届かない人だと認識してしまう。僕なんかが手を出したら、真亜子を汚してしまう! そう思い込んでいた。


 ところが! スグに真亜子はバイト先の三田村先輩とアッサリ付き合い始めた。しかも、真亜子の方から告ったというではないか。僕が受けたショックは大き過ぎた。あの、誰も触れてはいけない神々しい存在が汚されるなんて!


“憧れの人が、こんなに簡単に誰かと付き合うなんて-!”


 それでも真亜子の側にいたくてバイトを続けていたが、或る日、友人の安田が真亜子がいないところで三田村さんに“真亜子と三田村さんの交際状況”について質問した。僕にとっては聞いていて気持ちの良い話ではなかった。


「三田村さん、真亜子さんとはどうなんですか?」

「うん、思っていたよりもええ体してるわ。これなら楽しめそうや」


 そんなベッドの中の話を同じバイトの後輩に笑って話す三田村さんが嫌だった。だが、その三田村さんを選んだのは真亜子だから、真亜子に同情はしなかった。でも、三田村さんと真亜子が時々仲の良さそうな態度を見せるので、それを見たくなくて僕はバイトを辞めた。



 それから数年、最初の会社でまた“憧れの女性”が現れた。しのぶさん。僕は一目惚れ。しのぶさんは僕よりも5つか6つ年上だった。僕は陰で神々しいしのぶさんを遠くから眺めているだけで幸せだった。真亜この時と同じで、性欲は刺激されない。僕なんかが手を出してはダメなのだ。しのぶを汚してしまう。僕は時々お話が出来たらそれで良かった。


 それで良いと思っていたのだが、しのぶはアッサリ長期出張で来た先輩のモノになってしまった。いとも簡単に。確かにその先輩はイケメンだ。しかし妻子がいる。不倫だ。不倫だったのだ。当然、先輩にとってはしのぶは遊び。憧れの女性が遊ばれた! 僕は、また憧れの女性を汚されたよう思いをした。しかし、先輩を選んだのはしのぶだから、やっぱりしのぶを弁護することは出来ない。ただ、宝物を汚されたような気分を味わった。



 やがて時が経ち、僕の母が亡くなった。僕が24歳の時のことだった。僕は茫然自失。喪主の父が動けないくらいのショックを受けていたので、僕が代わりにしないといけないことが多くて忙しかった。その時、幼馴染みの女性から声をかけられた。


「崔君、寂しかったら慰めてあげるよ」


 衝撃的な言葉。僕はその幼馴染みにも憧れていた時期があった。だが、お金持ちの瑞穂と自分では不釣り合いだと思って諦めていた。嬉しいお誘いの言葉だったが、僕は丁重にお断りした。


「今は、まだそんな気分になれない」


 すると瑞穂から電話番号を書いたメモを渡された。


 後日、僕は慰めてもらいたくなった。僕は瑞穂に電話した。


「崔君、どうしたん?」

「いや、慰めてもらいたくなって」

「ええよ、いつにする?」


 瑞穂は僕を慰めてくれた。僕は初めて憧れていた女性とベッドを共にした。憧れの人とベッドを共にするのは至福の一時だった。


「慰めてあげたんやから、早く元気にならないとアカンで」

「うん、わかってる。なあ、僕、瑞穂と付き合いたいんやけど」

「それはアカン、私、彼氏がいるから」

「そうか」


 その時に思った。“憧れの女性と結婚できたら幸せだろうなぁ”と。



 また、憧れの女性と出逢うことが出来た。その女性は少し遠方で夜のお仕事をしていた。店に行った。同伴出勤もした。ワインも頼んだ。勿論、口説いた。何回か店に通ったら、ようやく想いが通じた。


 それは言葉に出来ないくらい満たされた時間だった。


 よし! 僕は頑張って彼女を嫁にもらおう! そう思えた。しかし、1ヶ月後、


“結婚しました”


という、ウエディングドレス姿の絵葉書が届いた。お相手はお金持ちらしい。世の中は金か-! 金なのか-?



 今度こそ! 憧れの女性と結婚まで! ゴールインしてみせる! そう心に誓った。憧れは、もう以前の『憧れ』ではなくなったのだから、これからは口説く! これからは手を出せる。



 そして今、憧れることが出来る女性を探して7年目を迎えた。自分の人生に期待したい。



 僕は、諦めない。



 こうして少年は大人になっていく。







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あこがれ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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