夜ノ怪
.六条河原おにびんびn
第1話
子供がね、欲しくなっちゃったんだって。仕方がないよね、それが人の業だもん。世間のいう幸せの形で、社会の求める最低水準なんだもの。
わたしは子供要らなかったんだ。だから子供産みたいって言ってくれる若い女の子のところに、そりゃ行っちゃうよ。赤ちゃん産んでくれない女より、赤ちゃん欲しい、赤ちゃん好きって言ってる若い女の子のほうが、それは可愛く映るよね。本能だもの。文句言えないな……
仕事よりも家庭を優先してくれて、趣味はお菓子作りなんだって。お昼には手作りのお弁当持って来てるらしいよ。
コンビニで朝ごはん買って、お昼は外食行っちゃうわたしとは大違いだよね。
髪も綺麗に巻いてあってさ。肌なんかハリがあって。メイクも綺麗で流行押さえてるの。デカ目のカラコンも可愛いよ。小動物みたいで。
わたしだって櫛通して、ちゃんと縛って、ムースで纏めたりはするけど、なんだかお堅そうってのは前にも他の人に言われたんだ。
仕方ないよ、子孫を遺したいのは本能じゃん。それをわたしが子供欲しくないからって、あの人を縛り付けるわけにはいかないじゃん。あの人にも人生があって、計画ってものがあるんだから。
下手な浮気より、ずっと、納得できちゃった。なのになんで悲しんでるんだろ……?
ああ、ちゃんと言ってくれて嬉しかったって思っちゃったんだけど、違うんだな。多分、すとんって納得できちゃったコトとと混同しちゃったんだな。だって言い返せないもの。
"子供オレも要らないって言ってたじゃん"って言えばよかったのかな。でも人の気持ちなんて変わるんだろうな。わたしだって気持ち自体は変わるかも知れないけれど、遺伝的な欠陥とかあるかさ。親戚見れば分かるよ。責任持てなかったりとか。身体的にも多分難しいの分かってるし。感情面は、理屈と折り合いつけるよ。溜飲を下げていくのでもいいし。だから子供欲しいってわたしの気持ちが変わることはあっても、産まないって決めてるんだ。
子供欲しい云々じゃなくて、子供作るための……だからカラダの相性っていうか……こだわりとか、そういうので窮屈させてたのかな。男の人はそういうのがいいんだよね、ってのはあったし、わたしのほうが対策してたこともあったんだよ。向こうがやってくれることもあったけどね。そこが、都合の良い女になっちゃってたのかな。都合の良い女から這い上がるのって難しいよ。もう他に魅力を感じた女の子がいる状態なら尚更。
なんか、もう……眠れないな。
それでね、もうこれクロだな、浮気してるな、って分かっちゃったから、わたしから聞いたの。子供要らないって宣言してる分、わたしのほうに負い目あるから。
子供産むのって、女の人が命懸けになるじゃない。産む前も、産んだ後も。肉体的にも精神的にも。でも、男の人は女の人無しに子供は持てないから、だから産んでもらえるように女の人に尽くすんでしょう。
あの人は、別に"わたしに"産んでほしいとは言わなかったし、説得しようともしてこなかった。相談してほしかった、とも言えなくて。だって相談されて説得されて懇願されたとしても、わたし、産むって言えなかったと思う。だからあの人が相談してこなかったのは"正解"なの。相談っていうのは必ず、自分の意に沿うものなわけではないけれど……
相手の子、すごくかわいくてね。わたしが男だったら、確かにわたしよりあっちの子選ぶな。小柄でさ、肉感あって、垢抜けてて、おしゃれで、若くて、子供好き。声もかわいいの。爪も
"女として"って何?っていつも思うけど、でも直感でね、"女として負けた"と思っちゃった。それが本音なんだよね。
愛情とか、相手を思い遣るとか、全部綺麗で素敵なコトだけど……割とそれってツラいね。
でもね、1コだけ、わたしの中でもわたしに対して譲れないものがあって。付き合う前からあの人はわたしが子供絶対に持ちたくないって知っていたんだけれど、ずっと2人で暮らすのも楽しそうだって言ってくれたの。わたしなりに考えていたのに、遊んで暮らしたいだけじゃん、って昔言われたことあって、きっとそう返ってくるものだと思ってた。生物としておかしい、少子化になる、将来誰に介護してもらうの、とか。でも考えて、もうわたしは生き物としておかしくて、少子化の戦犯で、孤独死決定組でもいいや、仕方ないやって否定しても逃れられない、もしかしたら正論で……だから……
プロポーズしてくれたときも、わたしにはやっぱり負い目があるから、そのことを話したの。そうしたら、犬とか猫とか植物とか育てて暮らそうって言ってくれた。趣味に生きるのもいいって。飽きたらまた新しい趣味探そうって。仕事に生きるのも悪くないって。それが後ろめたいなら少しずつ寄付する道だってあるって。
わたしはそのとき、絶対、何があっても、この人を不幸にしちゃいけないって思った。
でもあの人はわたしの条件を呑んでくれたとか、浮気したほうが悪い、だとか、そんな生易しく一刀両断できるものじゃない。
わたしは最初から、人の気持ちが移ろうことを危懼しておくべきだったのに。もしかしたらあの人だって、わたしにそれを期待していたのかも知れないし。
でもね、わたしバカだから、浮気してるコト肯定されて、あの人のこと罵って、酷いコトいっぱい言っちゃったんだ。心のどこかで期待してたんだろうな。そんなコトないって。浮気なんてするワケないだろうって。
こういう場合、素直に認めてくれたあの人のことを赦すべきなのかな。だって隠されてたほうが……隠されてたほうが、よかったのかな。否定してくれたほうが、優しさだったのかな。浮気しないで、ってわたしの気持ちは言ってるけど、でも、わたしの生き方とあの人の希望は合致しないんだもの。
別れ、切り出せなかったんだろうな。だっていずれにせよ、子供欲しくなったって言ったら、わたしのコト否定することになるじゃん。でも、言ってくれたら、別れるしかないよな……なんて。
子供欲しいだなんて建前で、本当にわたしに冷めた可能性だってあるワケで。
酷いコト言っちゃったな。ちょっと寝たら整理できた。
ちゃんと明日、別れるって言おう。わたしから。あの時に、子供欲しくないって言ったわたしを受け入れてくれたこと、嬉しかったんだよな。感謝したんだよ。わたしのエゴであの人を不幸にできないんだよ。あの人には可能性があるからね。
子供がいない人生をわたしが進んで選び取るなら、何かしらは諦めなきゃいけないの。それはあの人との未来。
パパになって、子供抱き上げるんだろうな。男の子かな、女の子かな。わたしはバリバリ働いてさ、あの人の子供がちゃんと育っていけるように税金払って、余裕があれば寄付もしよう。
ちょっと寂しいね。今だけの話かも。仕事でね、新しいプロジェクトが始まるんだ。
早く寝ないとなんだけど……でも一旦、おうち帰らないとか。じゃあ都合良いのかな。服、置いてきちゃって。
明日は元気ドリンク飲んで出社かな。
気拙いね。あの人と、相手の子と。
でも頑張らないとな。明日、ちゃんと、言お。別れよってね。恩着せがましいかな。別れてあげる、でいいかな。あの人のプロポーズより、多分簡単に言えそう。しんどいけど。
じゃあもう寝るね。ありがとう、なんかよく分かんない鳥さん。あの人のこと、お空から見守っててね。
―おんぎぁ
<2023.5.16>
「よノけ」。
夜ノ怪 .六条河原おにびんびn @vivid-onibi
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