「お還りサービス」
庭月 翠
⒈「お還りサービス」について
こんにちは。そして初めまして。庭月翠(にわづきみどり)です。五月生まれの一人旅好きの青年です。好きな食べ物はイカの塩辛で趣味は旅先で小さなぬいぐるみを買うこと。映画も好きで月に二回は映画館に足を運びます。私についてはこれくらいしか書くことがありません。あ、ハトやカラスが苦手です。
そんなことよりも、皆様が気になっているのは、題名にもなっている「お還りサービス」でしょう。これは私の友人Mが立ち上げたもので、私はMに巻き込まれただけなのです。まあ、なんだかんだ言いつつ楽しませてもらうことにしたのですが。
まず、Mは霊媒師です。Mに霊能力があり、それを使いこなすために修行中だと明かされたのは中学生の頃でした。私は何となく信じたほうが人生が豊かになりそうで全面的にMを信じることにしました。それに何より、誰にも言えなかったというその秘密を私にだけ明かしてくれたという事実が嬉しかったのです。そして成長するにつれより一層自分の見えている世界は真実ではないことを身をもって実感するようになった私はMへの信頼を深めていきました。
前置きはここまでにして…。サービスについてお伝えするには、私とMの会話を見てもらった方が早いでしょう。以下の会話は私がMとファミレスでお茶をしていた時のものです。記憶を頼りに文字起ししたので正確であるかは保証できませんが。まあ、なかなかに突っ込みどころの多い話でした。
「ねえ、翠。」
「ん?」
「うちってさ、霊能力を持ってる家系で、それで飯食ってるじゃん。」
「あー、うん。お祓いとか霊視やってるんでしょ?」
「そそ。でも、最近さアタシ自身も仕事に関わるようになって色々任せてもらえるようになってきてさ。親父にくっついて修行してた頃よりも色々な現場を見るようになって。それで新しいサービスを思いついたんだ。」
「新しいサービス。」
「うん。『お還りサービス』。」
「なんじゃそれ。」
「霊にもね、元の居場所があるのよ。生まれた家とか、お世話になった人がいる場所とか。そういう場所に帰りたい一心で人に取り憑いちゃったりする霊もいるわけ。そういう奴の中でも生きてる人に害を与えなかったり、説得で改心できたのはアタシたちが依り代になってその場所に連れてってあげようっていうサービス。」
「え、そういうのってさ自力じゃ帰れないの?」
「まあ、無理だねー。人間基本、死んだら灰になってはいさよならで黄泉の国に強制連行だし、こっちに根性で居残れたとしても黄泉の国へ引っ張る力と戦いながら活動してるから移動どころじゃないし。それに力強い連中は基本ろくでもない奴だから霊媒師とかが力薄めるし。」
「へえー。じゃあ、お盆に帰って来るってのは?」
「あー、あれはね、特別なんだって。お盆とかはホラ、御線香たいたりきゅうりとナスで動物作ったり、御仏壇で手を合わせたりするでしょ?それで黄泉の国と前世に故人専用の道ができて尚且つあっちの管理人が特別に制限付きの移動能力を与えてようやく帰れる。」
「誰から聞いたの?」
「こないだの盆に帰ってきたじいちゃん。」
「そりゃ信用できるわ。」
「でしょ?って脱線しとるわ。あれ、何の話だっけか。」
「大丈夫な霊は生きてる人間がおうちに連れて行ってあげるって話。」
「あー、そうそう。でさ、その霊を各地に連れて行くバイト、翠やってみない?」
「あ?」
と、ここまでが「お還りサービス」についての説明です。まあ、自力で移動できない霊を生きている人間が目的地まで運んでやるというタクシーみたいなサービスのようです。これまでMから仕事の話はたくさん聞いてきました。あの除霊は大変だっただの、霊の仕業だと思ったら潜んでいたのが連続殺人犯だっただの語り始めたら本一冊は作れます。しかし、その仕事に関わってみないかという誘いは初めてでした。
「お前、遂に。」
「ん?」
「闇バイトに手を染めたか。」
「失礼な!うちをインチキだって言うの!」
「お前さんちの家業やご家族は疑ってねえ!お前の人間性を疑ってるんだ!よくさらっと一般人に依り代になれとか言えるな!それかあれだろ、霊が閉じ込められたカプセルとか言ってやべえもん運ばせる気だろ!」
「違うわい!」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、どごん!と鈍い音が響きました。ウエイトレスさんが物凄い形相で私の注文したエビグラタンをテーブルに力強く置いたのです。これ以上変な動きをしたら、私とMはこのファミレスで地縛霊となっていたことでしょう。グラタン皿で撲殺とか死んでも死に切れません。彼女のおかげで少し冷静になった我々は会話を再開しました。
「あのね、ごめん、まず依り代って言い方が悪かった。実際は依り代っていうより、風船。そう、風船を引っ張る感じ!専門の道具があって、それで霊と人間を結んで引っ張ってもらう感じ。」
「急にポップだね。あー、で、その道具で霊を人間の使い魔みたいな感じでつないで連れて行くってコト?」
「そうそう!お手軽な主従契約みたいな感じ。理解が早いね!さすが文学部。」
「やかましい。」
「で、その風船引っ張る役を翠にやってほしいわけで。」
「何で私?」
「え、だって旅好きでしょ?」
「…まあ。」
「いつもインスタ見てるよー。結構定期的に行ってるじゃん。」
「ああ、ま、日帰り含めたら結構行ってるか。」
「うん。」
「いや、それでもなんで?」
「人手が足りないの。」
「はい?」
「いや、このサービスさ、実はスタートして一か月くらいは経ってるのよ。」
「あ、そうなんだ。」
「そ。で、最初はアタシとか家族の誰かが行ってたんだけど、人気出ちゃってさ。そもそも、お祓いで頂くお金に余裕があるから善良な霊へのアフターサービス的な感じでやってたのに、最近は霊のほうからそのサービス受けたいがために取り憑いた人間操ってきたりするようになっちゃってお還りサービスだけで三か月くらい先まで予約で埋まってて。」
「すごいね。」
「で、霊をうちに泊めておくのにも限度があるから還しに行けるときにどんどん行かなきゃなんだけど、こないだ親父がYouTubeで取材受けちゃって。」
「ああ、バズっちゃったんだ。」
「そそそ。普通の依頼も今までの三倍になってとてもじゃないけど遠出できなくなっちゃってさ。」
「それでバイト。」
「それでバイト。よく出かける人じゃないと頼みづらくてさ!手順としては翠に旅の行き先を教えてもらって、目的地に近いところに行きたがってる霊がいたらお願いするって感じにするから。ほんと、不定期で全然かまわないから。」
「そりゃそうでしょ。一年中旅はできないよ。」
「でさでさ。もし実際にやってもらうことになったら、旅費は全額負担させてもらうし、移動距離に応じて報酬も払わせてもらう。…どう?」
「いや、どうって…一般人が手ぇ出していいのこういうこと?」
「大丈夫。運んでもらうのはこっちで大丈夫だって保証できる霊だけだし、ある程度の霊媒師パワーは渡して身を守れるようにはしてもらうから。あ、あと生命保険にも入ってもらう。表向きは給料天引きだけど、実質料金こっち持ちで。」
「後半生々しいのは何?」
「いや、こういう仕事こそちゃんとしとかないと。」
「ちゃんとしすぎて腹立つわ。絶対ツボとか売りつけなさそう。」
「引く受けることはあっても売りつけはしないね。そもそも呪具売っても本人に力がなきゃ使えないもん。」
「そういうもんか。」
「そういうもん。あ、また脱線してる。…で、どうよ。」
「え、うーん。」
旅費負担という条件は私にとって魅力的でしたし、そのおかげで今まで旅費の関係で行くのを諦めていたところまで行けるのではないかと思いました。そして、その旅の様子をこのようにエッセイにさせてもらうことも条件に私はMの依頼を受けることにしたのです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。今回は私が請け負うことになった「お還りサービス」についてお話させていただきました。これから少しづつ仕事を受けてその時の様子をエッセイにできたらなと考えています。また、文章だけでは味気ないですから、写真なんかも交えてお話ししたいですね。写真は近況ノートに上げます。
気が向いたらまたページを覗いてもらえると嬉しいです。次回分もすぐに上がると思います。
それではまた!
庭月 翠
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