第58話 終局
硝煙と炎に満ちた都市で、ヴィクトルは壁際に寄りかかり、息を切らしていた。手にした杖の光は再び弱まり、そして、その杖を覆っていた魔法紋章もまた、ゆっくりと一環ずつ消えていった。
もう魔法がほとんど使えなくなっていた。今回の旅のために準備した魔法紋章は百種類を超え、杖全体を完全に刻み尽くしたほどだったが、フェイロンとの戦闘でほぼ使い果たしてしまったのだ。
相手の燃料は子供たちの魂であり、しかも一人の子供の魂を搾り取るだけで莫大なエネルギーを迸らせることができる。今、フェイロンの背後にはまだ五つの金属製容器がある。対して自分の杖には、杖の破損を防ぐ【加固】魔法の紋章が数環残っているだけだ。
その上、自分の体にもフェイロンの死光が掠めた傷がいくつもでき、腹部や胸の傷口からは血が滲み出し、絶え間ない痛みが伝わってくる。しかし、戦闘によるアドレナリンの分泌で、その痛みはそれほど深刻には感じなかった。
「ハハ、ヴィクトル様の戦意はやはり頑強ですね。しかし、見間違えでなければ、あなたの杖の魔法ももうすぐ尽きるでしょう。」
遠くの戦闘で巻き上がった煙塵の中から、あの巨体が再び姿を現した。彼は手を叩きながら、背中のリュックサックをその衝撃で開き、また一つ金属製容器を弾き出した。
彼にはまだ四つの容器がある。だが、彼が全ての容器を使い果たすまで持ちこたえることはできないだろう。
ヴィクトルは建築物の廃墟の縁に寄りかかり、絶望的な状況にもかかわらず、顔には一切の慌てた様子を見せなかった。理性は彼に、冷静に思考することだけが生き残る唯一の道だと告げていた。自暴自棄になることは無意味だ。
「元々は数個だけ使うつもりだったのですが、まさかヴィクトル様の魔法力がこれほど強いとは。多くの危険な高位魔法をいとも簡単に操るとは、さすがです。」
ヴィクトルは傍らの杖を手に取り、フェイロンに向かって言った。
「こんな技術、あなた一人でこれだけのことを成し遂げられるはずがない……あなたの背後にいるのは誰だ? ナリか? シュヴァーリか? それともカドか?」
フェイロン城の地下には非常に複雑な建築物がある。たとえフェイロンが独力で魂に関する全ての研究成果を導き出したとしても、そして彼がこのエネルギーを他の人間に販売しているとしても、調査を受けないはずがない。背後に別の力が彼の足跡を隠蔽しているのでなければ、自分が最近まで南大陸のフェイロン城にこのようなものがあることを知らなかったはずがないのだ。
フェイロンはヴィクトルを見つめ、しばらく沈黙したが、質問には答えず、ただ彼の負傷した体を見た。
「ヴィクトル、以前あなたにした提案はまだ有効です。あなたとあの赤い竜人を解放してもいい。あなたがこの都市でしたことは不問にしましょう。しかし、あなたはここのことを外部に漏らさないと約束してください……」
ヴィクトルの瞳が揺らめき、杖を支えに立ち上がった。彼の手には血が滲んでおり、ヴィクトルの動作に合わせて、その血液が杖に付着した。
「結構だ。ここが最後だ。」
フェイロンはため息をついた。どこか残念そうな様子だった。
「こんなに聡明な頭脳が、惜しい……」
この最後の言葉と共に、彼の体から再び深青色の光が灯った。ヴィクトルも深呼吸をし、杖を逆手に握り、戦闘態勢に入った。
「キィン!」
一道の死光がヴィクトルの方向へ放たれた。魔法を失ったヴィクトルは、驚くべきことにフェイロンの方へ向かって走り出した。彼の手は負傷しているようで、握っている杖はずっと地面に接しており、地面に血の痕跡を刻みながら進んでいく。
近接戦を挑むつもりか?
フェイロンはそう思った。しかし、彼の体には背中の蒸気リュックサックによる強化がある。ヴィクトルの身体能力とは比較にならない。一つの魂を燃焼させる力は、彼をまるで小説に出てくる超人のように力強くする。それならば……
彼は右手の死光を徐々に消し、拳の形に変えてヴィクトルに殴りかかった。ヴィクトルは杖を上げて防御したが、杖は一瞬にして巨大な力で叩きつけられ、紋章が次々と光り始めた。そしてヴィクトル自身も歯を食いしばり、片膝をついて地面に杖を突き刺した。
「ヴィクトル!」
フェイロンは最後にもう一度チャンスを与えようとしたようだったが、ヴィクトルの表情は冷静だった。彼は杖をわずかに傾け、杖を地面に弧を描かせ、一本の線を残した。血の付いた左手でフェイロンの顔面を殴りつけた。一撃は命中したが、フェイロンは微動だにしなかった。
ヴィクトルは巧みに杖を操りながら四方へ身をかわしたが、杖を握る右手はもう力が入らないようで、杖を持ち上げることさえできず、地面を引きずるようにしていた。
このまま彼の右手を攻撃し、完全に抵抗力を奪ってしまおう!
フェイロンは目を凝らし、右手を光で満たし、彼が身をかわす隙をついて彼の体に叩きつけようとした。ヴィクトルはやはり杖で防御するしかない。フェイロンの体の後ろから青いエネルギーが右手に送られ、その力を爆発的に増大させた。
「カキッ!」
ヴィクトルの右腕は脱臼した。巨大な力で彼は宙を舞い、吹き飛ばされた。ヴィクトルは左手で杖をしっかりと握り、地面に突き刺して体を止めた。
杖はその場に止まり、ヴィクトルも安堵したかのように動きを止めた。
「すまない、ヴィクトル。」
フェイロンは右手を差し出した。死光は既に点灯している。彼はヴィクトルに何度もチャンスを与えた。彼が自分の邪魔をするというのなら、もはや……
「謝る必要はない、フェイロン。終わりだ。」
ヴィクトルは脱臼した右手を左手で押さえたが、杖には触れなかった。杖の加固魔法は既に消え失せていた。魔法の加護を失った杖は、瞬く間に灰と化し、空中に消散した。
彼は顔面蒼白だったが、それでも冷静に目の前のフェイロンを見つめていた。
終わり?
フェイロンは目の前の冷静なヴィクトルを見て、突然何かに気づき、顔色を変えて地面を見下ろした。すると、先ほどヴィクトルが身をかわしながら杖で地面に刻んだ血の痕跡が、まるで点火されたかのように、赤い光を放ち始めていた。
あれは巨大な魔法紋章だった。しかし、人間のような環状構造ではなく、むしろ歪な歯のような形をしていたため、フェイロンは地面にヴィクトルが刻んだものが魔法紋章だとすぐには認識できなかった……
この男、戦闘中にその場で杖と血を使って地面に魔法を刻んだのか!
「人血は天然の魔法材料だ。この魔法は少し改良したが、威力は十分だろう……失せろ、もう二度とお前の防毒マスクは見たくない。」
ヴィクトルは冷たく指を鳴らした。すると、地面の竜人魔法が瞬時に収縮し、虚無から瞬く間に大量の炎が噴き出した。まるで巨大な火炎嵐のように、魔法紋章の上に立っていたフェイロンを飲み込んだ。
「轟!」
その極めて高い温度は、彼の体に繋がっていた義手の配線を全て溶かし、背中のリュックサックもまた、その巨大な温度によって爆発した。残りの四つの容器の中の淡青色の幻影のような身体は、容器から抜け出し、どこかへ漂っていった。
「Ua tsaug……」
そのうちの一つ容器の魂が、名残惜しそうにヴィクトルのそばに落ちてきた。小さな口がヴィクトルのそばで何かを呟いているようだったが、ヴィクトルには彼女が何を言っているのか全く聞き取れなかった。ただ、小さな幻影の頭についている狼耳が震えているのが見えた。
「『自由を求める子供よ、君の夢でできた川の流れに身を任せなさい。春に芽吹く花を見て、夏に枝で鳴く蝉を見て、秋に黄金色の麦畑を見て、きらめく雪の結晶を見てごらん。ただ、忘れずに知らせておくれ、たくさんの景色を見た君に会わせてほしいと』。おやすみ、チーチー。」
ヴィクトルは静かにローファンの詩を詠んだ。すると、そばの魂は眠くなったように伸びをし、両手を幻影のようにヴィクトルの首に回し、狼耳のついた顔を彼の肩に預けた。
彼女は存在しないキスを落とし、その直後、まだ燃え盛る炎の前でゆっくりと消散していった。
「ゴォォ……」
竜人魔法の炎は徐々に消え去り、炎が燃え盛った中心で、両足が完全に焼け焦げて消えたフェイロンは、虚ろな目で空を見上げていた。彼が装着していた防毒マスクのおかげで、すぐに焼き尽くされることはなかったが、高温によって防毒マスクから栄養液が噴き出し、空気が彼の傷だらけの肌に触れた瞬間、その肌は赤く爛れ始めた。
しかし、彼は痛みを訴えることもなく、ただ呆然と空を見上げていた。一、二秒後、彼は笑い出した。
「やはり、私は失敗したのか……我々の戦闘は置いておいて、ヴィクトル様、もう一度だけ以前あなたに尋ねた質問をさせてください。鉄道の線路の管理者として、あなたの選択は何ですか?」
ヴィクトルは全身の痛みに苦しみ、もう立っていられず、背後の廃墟の縁に寄りかかった。傍で燃え盛る炎を借りて、彼はタバコに火をつけた。ただ痛みを和らげたかっただけだ。
彼は息を吐き出し、言った。
「言ったはずだ、私は何も選択しないと……」
「もし、鉄道の線路の片側に五十人が立っていたら?」
「答えは同じだ。」
「五百人、五万人、五十万人なら?」
「答えは同じだ。」
「……理由を教えていただけますか?」
フェイロンの片方の目には、熱烈な探求心が満ちていた。彼は一生追い求めてきた答えに、あと一歩のところまで迫っているように感じていた。たとえ体が死に瀕していても、答えへの渇望は、生きることへの欲求を遥かに上回っていた。
ヴィクトルは彼を一瞥し、遠くの彼の邸宅の方角を見た。そこからは、燃え盛る煙塵が絶え間なく噴き出しており、彼はミルたちが地上に近づいているのを感じた。しかも、皆、健康状態は良好だ。
ラファエルは成功したのか。
山の上では、赤紅色の双角を持つ竜人が、仲間たちを一人ずつ洞窟から引きずり出していた。体には多くの血と汚れが付着していたが、彼女の美しさは依然として隠せない。ラファエルは外の光景を見ると、慌ててヴィクトルの姿を探し始めた。かつて自分が彼をあれほど嫌っていたにもかかわらず。
ヴィクトルの視線は遠くを見つめ、長い間考え込んだ。フェイロンに答えるためでもあり、自分の心に答えるためでもあったのだろう。彼はこう言った。
「一人を殺して天下を救うなど、私はそんなことはしない。」
実際、この問いに対して、彼はとうに答えを出していた。生きているラファエルこそが、その答えの現れなのだ。
フェイロンは遠くのヴィクトルを見つめ、何かを考え込んでいるようだった。しばらくして、彼は何かを悟ったのか、空に広がる荒涼とした灰塵に向かって、突然大笑いし始めた。
「ハハハハハハハ!」
ヴィクトルはタバコを揉み消し、よろめきながら立ち上がった。地面のフェイロンの声は次第に小さくなっていったが、それでも震える手で懐から古めかしい本を取り出し、ヴィクトルに差し出した。
「これを持って行ってくれ。この技術をどう使うかは、あなたが決めればいい。だが、できれば破り捨てないでほしい。さもないと、それは別の場所で、別の人間の手に現れるだろう……」
ヴィクトルは訝しげに彼が差し出した古書を受け取った。すると、本の文字がたちまち変化し、ナリの言語に変わった。そこにはこう書かれていた。
【魂魄補完マニュアル】
ヴィクトルの瞳孔がぐっと縮まった!
事態は彼が以前推測していた方向へ進んでいるようだ。まさか本当に他のマニュアルが存在したとは!
驚いて地面のフェイロンを見下ろすと、彼の目は虚ろで、視力を失っているようだった。呼吸も次第に弱々しくなっていた。
「ヴィクトル、早くここから離れるんだ。ここはもうすぐ滅びる。」
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亜人娘たちの攻略マニュアル @wadaxiEisha
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