貞操逆転エロゲ学園に転生! NTR阻止していたら、全ヒロインがオレだけにグイグイ来るハーレム学園に!?

佐々木直也

第1話 NTRバッドエンドがてんこ盛りのクソエロゲ

 転生してから一週間で、オレ──篠原誠しのはらまことは……


 早くも窮地に立たされていた!


「ねぇねぇ、ま・こ・と♪ 授業なんて退屈だよ〜。ちょっとおしゃべりしよ?」


「………………」


 隣の席の美少女が、そんな、あまりにも甘い声で囁いてくるが……オレは完全無視を決め込む!


 なぜなら、オレを窮地に立たせている元凶が、この想像を絶する美少女──藤宮ふじみやカノンだからだ!


 とにかくカノンは、間違いなく問答無用で学園トップクラスの美少女だ。


 しかも陽キャで明るく、入学初日からで、みんなの中心になる存在だった。


 だからこそ、関わっちゃいけない。


 そうしないと、オレのメンタルが崩壊するのだから……!


「ね~、無視とかひどくない? カノンちゃん、誠のことを、もっと知りたいだけなのにな〜? ほら、ねぇねぇ~」


 カノンが、オレの袖をくいくいっと引っ張ってくる。授業をしている先生にバレないか心配で……オレはやむを得ずカノンに言った。


「あの……藤宮さん? ちょっと静かにしてくれないかな」


「もぅ! わたしのことはカノンと呼んでって、言ったでしょう?」


「………………ならカノン、ちょっと静かにしてくれ」


「え〜〜〜どうしよっかな? じゃあ、誠の好きなタイプを教えてくれたら静かにしてあ・げ・る♪」


「それをいま聞いてどうするんだよ……」


「どうもしないけど〜? でも参考にしたいかなぁって。だから、ね? 好きなタイプ教えてよ」


 椅子をずらして距離を詰めてくるカノン……その甘い香りが鼻をくすぐり、思わず動揺が胸に広がる。


 くそ……これ以上に距離を詰められたら目立ってしまう……! だからオレはそっと答えた。


「好きなタイプなんていないよ」


「もぅ、嘘ばっかり」


「嘘じゃない。本当にいない」


 少なくともこの学園には、だが。


 目前の超絶美少女を前にしても、決して「キミがタイプだよ」だなんていえない! いやもともとそんなキザい台詞を言える性格でもないが!


 しかし、こうもあからさまに好意を向けられると……


 オレがOKさえすれば、もしかしてお付き合いできて、いわんやでは、すぐさまアレな展開に……と期待してしまうだろうが!?


 だが決して、そんなことにはならないのだ!


(ダメだダメだ……! オレは、この学園で絶対に誰とも恋愛なんてしないんだ。イベントをこなさなければ、フラグも立てるつもりはない!)


 決意を新たにしていると、いきなり。


 カノンの顔が近づいて……!


 ふぅ〜……


 息を耳に吹きかけられた!?


「ひゃうっ!?」


 だからオレは、思わず悲鳴を上げてしまう!


 もちろん、教室中の女子が一斉に注視してくる。マズいと思ったときにはすでに遅かった。


「篠原君? いったい何をしているの」


 教鞭を執っていた女性教師が睨んでくる。


「す、すみません……」


 もちろん、カノンはすぐに席にもどっていてどこ吹く風だ。


「授業中は、私語を慎むこと。いいわね?」


「は、はい……分かりました」


 ここでカノンのことを言っても、さらに注目を集めるだけなので、オレは萎縮するしかない。


「きしし〜。怒られてやんの」


 してやったり、という笑顔を向けてくるカノンに、オレはため息交じりにいった。


「キミのせいだろ……!」


 草食系・非モテのオレが、なぜ、これほどまでの美少女にちょっかいを出されているのか?


 それはもちろん、貞操逆転世界へと転生したから。


 しかもエロゲ学園ときたもんだ。


 だから教室を見回せば、女子、女子、女子──どこを見ても女子ばかり。


 プレイ中は違和感を覚えなかったが、こうしてリアルに体験すると、エロゲ世界はとんでもないな。とにかく女子しかいないのだから。


 なのでクラスの男子はオレひとり。このエロゲは男友達の案内役すらいなかったのだ。


 それどころか、この学園全体でも男子は二人しか存在しない。


 そうなると必然的に希少価値が生まれて、前世では草食系の非モテだったオレでもモテるというわけだ。


 なんだか、考えるだけで悲しくなってきた……まぁいいけどね?


 転生しても見た目はモブだし、頭脳も運動も前世と同じだったから、であるならば、そりゃあ男女比がバグっている世界での希少価値くらいしか取り柄はないだろうよ……はぁ。


 そういうわけで、オレは、学園イチと言っても過言ではない美少女・カノンの猛アタックを受けていた。


 でもそれだけだったら、むしろこういう恵まれた環境を甘受して、いっそ、カノンといい仲になって、しかもここはエロゲ世界だから、ムフフな関係に発展させるのも悪くはない……はずなのだが。


 困ったことに、ここは前世でオレをトラウマまみれにした──


 『NTRバッドエンドがてんこ盛りのクソエロゲ』


 ──なのである!


(どうしてよりにもよって、このゲームなんだ……!?)


 もっと、楽しくて自由度が高くて、イチャイチャしまくれるエロゲだってたくさんあったろうに!


 だというのに、今年最悪のクソゲ・オブザイヤーに選出されてもおかしくないエロゲに転生だなんてな!?


 思わず頭を抱えそうになるオレの隣で、カノンは楽しそうに笑っている。


「くふふ……誠ったら、そんなに照れなくてもいいのに~♪」


「照れてない……! 困ってるんだ……!!」


 しかし顔が真っ赤なのに違いはないわけで。


 カノンだけじゃなくて、周囲の女子にまでクスクスと笑われてしまっている。微笑ましそうに。


 うう……この女子に囲まれる環境には未だになれない。何しろ女子校にいるのも同然だからなぁ……


 しかもどの子も可愛い子ばかりだし……ゲーム内では顔無しモブ女子だったはずなのに、生々しいほどの肉感を伴って存在しているのだ!


(まぁそりゃそうか……エロゲモチーフとはいえ、転生したらリアルと変わりないんだから……)


 だがそんな美少女たちとも、オレはフラグを立てるわけにはいかない。


 そもそもここがエロゲ世界だと気付いたのは、ちょうど一週間前、入学式当日の朝だった。


 前夜、このエロゲをプレイしていたら……ふっと意識が途切れた。


 そして気づいたらエロゲ世界に入り込んでいた。


 まったく、エロゲをやり過ぎて死ぬとか……我ながら情けなさすぎる。


 これも一種の過労死というやつなのだろうか? いや、過労死というより過死って感じか……


 だからこのクソエロゲに転生してしまったのだろうが……よりにもよってこのゲームとは……ひどい罰ゲームでしかない。


 このエロゲは理不尽極まりない難易度で、オレは結局、一人のヒロインも攻略できず……ひたすらバッドエンドを見続けていた。


 そしてそのバッドエンドとは──全部NTR展開だった!


 感情移入して愛したヒロインたちが、いけ好かない敵役の男に次々と奪われていく……そんな絶望のシナリオばかり。


 いちおうエロゲらしく、NTRシーンはきちんと描写されているものの……興奮よりも悲しみばかりが募る最悪の結末だった!


 そんな感想はオレだけが持ったわけじゃないらしく、発売早々、「開発者出てこい!」とSNSでも大炎上していたくらいだ。


 つまりそんなクソエロゲに転生した以上、ヒロインと仲良くなったら、問答無用でNTRされてしまう。


 半ば強制的に、だ……!


 しかも攻略していないから知識チートすら使えないという有様。いや、なんとかヒロインを救うべく、めちゃくちゃプレイしてたんだけどね。その前に死んでしまったから……


 だからこそオレは、転生早々、この世界でひとりひっそりと生きることに決めた。


 少なくとも、学園を卒業するまでは。


そうしないと、好きになったキャラ──今ではリアルな実体を伴う美少女たちが、オレの目の前で全員NTRされてしまうのだから!


 はぁ……


 思わずため息をついて、ふと横を向く。


 するとカノンと目が合った。


 彼女は、悪戯に成功した子どもみたいに無邪気な笑顔で、オレに小さく手を振っている。


 その仕草に、脳がヤられるのを感じながらも、オレは必死で自分を励ました。


(だ、だめだ……! ここで気を許すんじゃない!?)


 こうして数多のヒロイン達に……悩殺されかけるオレの日々は、幕を開けたのだった……

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