過ぎ去りし若き日々の暗黒
白川津 中々
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あこがれている人について作文を書きましょう。
小学生の頃にそんな課題が出て、俺は有名な死刑囚への想いを綴った。
当然大問題となり、親を交えた面談が何度も組まれたわけだが、これはまさに、俺の狙い通りの展開だった。
人と違う事ってかっこいいんじゃね?
そう思っていた小学2年生の夏。あの時代は実に熱かった。オブラートに包まれて言い渡された「異常者」の烙印がむず痒く、心地よく、汗が流れる身体を刺激した。俺が本当にあこがれていたのは死刑囚ではなく、圧倒的な不審者ムーブをかませる異常者だったのだ。
こうした思考回路は昔から多くの人間が患うようで厨二病などと揶揄されていたそうだが当時の俺が知る由もない。加速していく承認欲求は次第に膨れ上がり、自尊心と自己愛を満ための行動は凄まじいスピードでエスカレートしていった。腕に包帯を巻いて真っ黒にペイントした自転車を走らせたり、ノンアルコール飲料御をこれ見よがしに飲んだり、弁当に砂をまぶして食ったりと枚挙には暇がない。また、そういった奇行に付随して発言もいよいよとおかしくなっていった。以下、当時の俺の語録である。
「“観”えるんだよ。俺にはさぁ」
「(授業の一環で戦争映画を観て)残酷? あぁ、あんなショーをニンゲンは残酷っていうんだ」
「血が呑みてぇよなぁ。最近貧血気味でさ。B型が一番しっくりくるんだよね。○○ちゃんって、血液型A? あぁ、よかった。俺○○ちゃん好きだから、傷つけなくて済むよ。今のところは、ね?」
「クスクスクスクス……あ、ごめん、笑い声漏れちゃってた」
「あー、くだらねぇなぁ……セカイ」
「っぱ洋楽だよ。じぇいぽっぷ? けいぽっぷ? なにそれ? 70、80年代のブリティッシュロックとクラッシックじゃないと、俺のココロは動かないんだよね」
などなど。
身の毛がよだつ記憶である。
終いには「やめろぉぉぉぉぉぉぉフレオニールぅぅぅぅぅぅぅぅ!」と、授業中に叫び出して机をひっくり返し暴れ回った。フレオニールとは設定上の第二人格で錬金術と闇魔法に精通している狂気に憑りつかれた人物である。俺は自分で考えたフレオニールになりきり。「キャハハハハハハ」と裏声で笑いながら窓に突進。ワイヤー入りの強化ガラスに突っ込んで歯を2本折る大怪我を負った。
その事件が決め手となり俺は転校、小さな分校で烏の合唱を聞きながら少年時代を過ごす毎日を送ることとなる。歯の損失と痛みによって厨二病は無事完治し、今では掲示板で自意識の過ぎたコメントをしたいという気持ちも抑制できるようになった。
あの夏、あこがれが俺を大人にしてくれた。
今ではすっかり引き籠りとなってしまったが、間違いなく、いい思い出だ。
来年こそは、働こう……
過ぎ去りし若き日々の暗黒 白川津 中々 @taka1212384
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