第2話  無の感情ってどんな感情?

 あれはクラス替えの日だった。


進級初日

 登校すると同時にクラス発表があるのだが

皆が初めましての新入生だった去年とは違う緊張感を持ってその時を迎える事になる。

 中学生活一年間で作られた人間関係がある

2年目の今年は一味違う期待と緊張があるものだ。


誰と誰が一緒になっただの離れただの

一喜一憂 悲喜交々ありながら

各々バラバラと分かれて

新しい教室に入っていくものなのだろう。


 僕はと言うと、

 クラス発表を心待ちにして

 いつもより早起きをして念入りに髪をセットして、さらに早めに登校する

 というリア充JCのような事はしない。

 朝が苦手なのに加えて家が人より遠い事もあって、

 いつも通り? 遅刻ギリギリで寝癖のついたボサボサ頭のまま校門をすり抜けた。


 特別連む友達もいない僕は、慌てて自分の名前を名簿から探すと、どこのクラスになったかだけを急いで確認し、新しい教室へと急いだ。


 すると教室に入ってすぐの所で

知った顔の同じ将棋部の男子Aがクラスの男子数人に絡まれているところに遭遇した。 


 平凡な僕の中学生活を自分が主人公の学園ドラマに例えるなら、

 低視聴率だったシーズン1で出てきた数少ない登場人物である友人Aが、シーズン2の冒頭でトラブルに巻き込まれている

 という、新シーズンで何か良くない事が始まる予感しかしないシーンだ。


 僕が何気なく助けた事がきっかけといえばそうなのかもしれない。


いや、

僕がAより先に登校していたパターンでも

僕の方が先に絡まれる事になるだけで、結果は同じだったのだろう 

 と今なら分かる。


 どうやったって

こういう野蛮な奴らと一緒の舟に乗った時点で矛先が向くのは僕らのようなタイプだ。



 と言うか、こんな気弱な僕にだってAが友人であろうが無かろうが

 助けないという選択肢なんてないんだ。


 「や...やめろよ!!」


 いつも人前に出ると何故か声が出なくなる僕の中での精一杯の声量で発した一言だったんだ。



 見た目弱々しく隠キャなくせに

 俺様に反抗すんのか?

 カッコつけんじゃねーぞ!


 みたいな。

 あからさまには何も言われてないけど

 そんな目で僕を睨み返してきたやつら。


 新しいクラスの女子の目もあって、余計に面白くなかったのかもしれない。




 何故か翌日から自分がいじめの標的になってしまったのである。


 


 学園スクールカーストのトップに君臨しているアメフト部のガタイのデカいヤツら数人は、それから事ある毎に僕に絡んでくるようになった。


 弱い犬ほどよく吠えるとは言うが、きっとヤツらもその類いだとは思う。

 カラダは人一倍デカいくせに気がやけに小さいんだ、絶対。


 だから一人では向かってこない。

 常に取り巻きを連れている。


 SNSの中でさえ、周りを巻き込んで自分を正当化しようとしてくる。

 同調するヤツらも大概最低だ。


 初めのうちは、その行動ひとつ一つに

 弱いながらも言い返したり、身一つで立ち向かっていた。

 

 だって、僕が何か悪い事でもしたのか?

 自分の行動は何一つ間違っていない!


 だからどんなに辛くても学校を休む事はしないできた。

 本来なら退場するのはお前達の方なのだ!


 そうして割と直ぐ、僕が助けた貴重な対局相手でもあったA君は学校も休みがちになり幽霊部員と化した。


 彼とは元々、お互い隠キャ同士、同じ部活に所属して対局する以外の会話はした事がなかったし、SNSや連絡先も交換していなかったから、彼が今何を思ってどうしているのかさえ分からない。彼も僕に関わるとロクな事にならないだろうからか何も言ってこない。

 彼についてはもう気にしない事にした。


 嫌がらせに対して、僕が反抗した態度を取れば取るほど、奴らのいじめはエスカレートしてきていた。


 いくら地味で目立たない僕のスクールライフなんて誰も興味がないだろうとは言っても、

 同じ箱の中で1日の半分以上を過ごしているクラスメイトだ。

狂ったように陽キャで図体だけデカいヤツらと僕の組み合わせを見れば

 何かがオカシイと気がつく筈ではないか。



 傍観者?  それとも無関心?



 僕にはこの世に生まれた瞬間から 


 絶対に悪には屈しない 


 という気持ちがある。


 これは僕の心の奥にある揺るぎない信念のようなもので

きっと警察官だったという会った事も写真さえ見たこと無い亡き曾祖父ちゃんのDNAがそうさせているんだろう。


 でも僕も人間だ。


 「痛い、辛い、苦しい 」


 ネガティブな感情がジェンガのような危うさで日々積み上がっていき、少しでも置き場所を間違えればその山は崩れてしまいそうなところまできている。


 このままこの状況に慣れていけば、そのうち何も感じなくなって、そのうち全て「無」になるだろう。


それはどういう感情なのか?楽な世界なのか?


それでいいのか?


いいのか自分!!








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