青の手筋
激辛天然水
第1話 プロローグ
「風街ソラ」が中学2年生になって2ヶ月が過ぎた。
「ソラ」が通う中学は中高一貫の一応進学校だ。
この学園の生徒達はある程度の受験戦争を潜り抜けて集まった、子ども以上大人未満の人間達だ。
ソラにとってこの学校は第一志望ではなかったが、親が熱望していた難関中学がことごとく不合格となった事で、この学校への入学が決まったのだった。親に言われるがままに走り続けていただけで、実のところ彼にとって学校なんてどこでも良かった。
受験したのは全て本人の希望というより、親のエゴで決められた偏差値で選んだ学校ばかりで
第3志望くらいだったかで選ばれた今の学校が彼の本来の適性校だったのだろう。
実際に通う事になるとは思わなかったが縁あって入学が決まったこの学園はソラの家から電車を乗り継いで90分はかかる。
一年目は行き帰りの満員電車に押しつぶされ通うだけでヘトヘトなっていたが、この一年で彼の身長が15cm伸び、体力もついてきたのか苦にならなくなった。
二年目ともなると毎日の行き帰りの移動の車内で立ちながら趣味の読書をするのにも慣れてしまい、多分学校の誰よりも本を読んでいた。
伝統のあるこの学園の教員達は、毎年この学年の時期になると、多くの生徒達が受験で燃え尽き、中弛みが起きる事を心得ていて、思春期でもある彼らの気の緩みや無気力さやクラス内で起こるザワツキ事だったりについて特段深刻には捉えていない節があった。
もっとも、今の時代には人間関係もSNSの中にあって外からは分かり難いかもしれない。
放課後の薄暗い教室の隅で、いかにも隠キャの雰囲気を纏った彼は静かに思索に耽っていた。
今日は週に一度、彼が所属している将棋部の活動日だ。
将棋部は現在部員5人の学内で最も影が薄い弱小部活である。
この部が辛うじて存続している理由が、学校説明のパンフレットに将棋部と名前があると見栄えがするからだというのが専らの噂なのだが、恐らく事実だろう。
ソラにとって、このひっそりと存在している今の将棋部の感じが寧ろ気に入っていて、週に一度のこの部活のひとときが彼の心の拠り所だった。
加えて彼は将棋部の副部長で次期部長なのだ。というのも、残りの部員4人のうち、現部長の3年生を除いた3人は名前だけの幽霊部員なので今の部長が卒業したら次は彼しかいない。
これからの事は分からないが将棋部での静寂の中に自分の居場所を見出している彼にとって、学校に通う一番の目的でもあるこの部の存在は、側から見たら存在感ゼロでも、とても大きなものなのだ。
今、もしこの部活が廃部にでもなったら、学校に通う気力を無くなってしまうだろうというくらいに。
この2ヶ月の間で
ソラの心は擦り減り、いい加減壊れかけていて
ここまでして何のために学校に行くのか
自分でもわからなくなってきていた。
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