第10話
「おい、中島、入るぞ。」
部屋のドアを開けると、強烈な匂いがした。
キノコの匂いだ・・・
中島は、カセットコンロでキノコをあぶっていた。その額には、小さいながらもキノコが生えていた・・・
中島は青木に気付くと、
「お前が来るから、今焼いていたんだ。」
と言って笑った。
その顔はひどくやつれ、肌は荒れ、顔色は青黒く、目の下には酷いクマができていた。瞳も濁って光がない。どこを見ているかさえわからない程だ。元の、端正に整っていて、どこか男らしい、魅力的な中島の顔とは別人のようであった。
「オマエ・・・どうしたんだよ、そんなやつれちまって・・・」
青木は動揺を隠しながら口を開いた。
血の気がサァーッと引いていくのが分かる。口は渇き、掌には、じっとりと厭な汗をかいている。
「そうか?ちょっと、向こうで働きすぎたかな。」
「東京で?・・・働くって・・・」
「ああ、そうだ、まだ話してなかったな。」
聞くと、中島はとあるルートで、キノコを大量に売りさばいていることを知り、東京まで行っていたという。
「大量に買い込むつもりだったから、こっちでもある程度、金を用意して行ったんだが、宿泊費やら交通費もかかるだろ?思いのほか手持ちが減っちまってさ・・・向こうに着いてからバイトして金を作ってたんだ。」
大量に、と言うだけあって、部屋には膨大な量のキノコがあった。
「ずっと働いてたのか?」
「ああ、昼も夜もバイトしてたよ。おかげで宿泊代も浮いたしな。」
「今も毎日そんなことしてんのか?」
「まさか!あんまりにも疲れたんで、こっち帰ってきてからは、ずっと家でゴロゴロしてたよ。」
中島の母親が先ほど部屋から一歩も出てこない、と話していたことを思い出す。
「それにしては・・・」
青木は改めて、中島の顔をまじまじと見つめた。
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